ここはミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の中。
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はミサキ(それの本体)とツキネ(黒髪ポニテのアパートの管理人さんの姿に変身している変身型スライム)と共に綿《わた》の木を見にやってきた。
正確には綿《わた》の収穫をしにだが……。
「それにしても、お前の中って相当広いよな」
「まあね。けど、あんまり広いと管理するのが面倒だから必要な分だけ拡張してるんだよ」
ん? ということは、無限に拡張できるってことか?
「兄さん! 兄さん! 食虫植物がありますよ!」
植物園の中ではしゃいでいるツキネはトラバサミのような植物の前で俺を呼んでいる。
「食虫植物か……。そういえば昔、巨大なウツボカズラの中に落ちたやつがいたな……。フィクションだけど」
「そうなのかい? まあ、その人は確実に助からないね。残念だけど」
「近くに人がいたら、まだどうにかなったかもしれないけどな……」
俺たちはそんなことを話しながらツキネのそばまで歩いた。
「えっと、これはたしか……ハエトリグサだな。でも、なんかでかいな。色々と」
「そりゃそうだよ。そもそもこれはマッハエトリンって名前の植物なんだから」
マッハエ……。
あー、あの音速で動けるハエか。
少し前に見たな。
えーっと、たしか『ケンカ戦国チャンピオンシップ』があった会場の控え室にいたかな?
「でも、でかけりゃいいってものでもないだろ」
「まあ、そうだね。でも、植物っていうのは静かに進化するものなんだよ。ご主人、試しに小石を投げてみてよ」
「お、おう」
俺はその辺に落ちていた小石を拾うと、それめがけて投げてみた。すると。
「ガブッ! ……ペッ!!」
「うわぁ……あんなに早く動けるのか。しかも食べられないって分かったら吐き出したな」
「まあ、植物もバカじゃないってことだね」
ふむ。なかなか面白いな。
あっ、植物図鑑持ってくればよかったなー。
うーん、でもまあ、今回はミサキがいるからいいか。
「兄さん! 兄さん! こっちに変な植物が生えてますよ!」
「はいはい、今行くよー。というか、ツキネって植物好きだったんだな」
「女の子は花とか好きだと思うよ。まあ、僕の場合は少し違うけどね」
ツキネが見つけた植物はハートの形をしていた。
ウツボカズラのハートバージョンのようなものだ。
「えっと、この中に入るとどうなるんだ?」
「その中に入ると、一番好きな相手が幻《まぼろし》として現れてね、ギュッと抱きしめてくれるんだよ。まあ、それが見えなくなるまでに消化液が獲物を溶かしちゃうんだけどね」
「そうなのか。というか、ここには厄介な植物しかないのか? ミサキ、そろそろ綿《わた》の木があるところまで案内してくれないか?」
「あー、えーっと、その……ご主人、その植物から……チャームルから早く離れた方がいいよ。たまに自分から獲物を捕まえようとするから」
「は?」
チャームルが彼に襲いかかる。
彼は回避する間もなく、それに食べられてしまった。
「ギニャ?」
「残念だったな。今のは俺の影で作った偽物だ」
「ギニャー!」
「遅い!!」
ナオトはそれが再び自分を襲おうとしたため、そいつをぶっ飛ばした。
「ふぅー、危なかった。まったく、厄介な植物だな」
「そう、だね。あははは、あははははははは」
ん? なんか嫌な予感がするな。
ナオトがミサキの方に目を向けると、彼女の頭に何かが生えていた。
ハート型の花が咲いている。
これは……まずいな。
「ツキネ! 一旦ここから……」
「兄さーん、私と一緒にいいことしましょう」
あ、これダメなやつだ。
ツキネの頭にもミサキと同じ花が生えている。
「えっと、また今度にしてくれないか?」
「無理ですー」
ふむ。これはもう……。
「よし! 逃げよう!!」
「ご主人、どこに行くのー?」
「なっ! お前、いつのまに俺の背後に! は、離せ!」
ミサキは俺を羽交《はが》い締《じ》めをして、逃げられないようにした。
「それはできないよ。ご主人が僕のものになるまでは」
な、なんだと?
この妙な植物が原因なのは分かってるけど、こいつってこんなに力強かったっけ?
「ふ、ふざけるな! そんなことできるわけないだろ!」
「なら、じっくり時間をかけて体に刻み込んであげるよ。ご主人がいったい誰のものなのかを、ね」
「くそ! どうしていつもこうなるんだ! 誰かー! 助けてくれー!!」
その直後、彼の目の前に黒い天使が舞い降りた。
それは真っ赤な日本刀で二人の頭に生えている妙な植物を切断した。
「まったく、見に来て正解だったわね」
彼を助けに来た者《もの》とはいったい……。
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