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mo4民のちい
翌朝。 湊はまだ夢の中で、波の音と……魚の焼ける香りを感じていた。
「……いい匂い……」
目を開けると、現実だった。
キッチンから煙。魚の焼ける音。
「――リオォォ!!」
「おはようございます!」
リオがにこにこしながら、フライパンを掲げた。
Tシャツを着ているが、裾から尾びれがぴょこんと出ている。
床はびしょ濡れ。魚の匂いが部屋じゅうに漂っていた。
「なにしてんの!? 火つけてるじゃん!」
「朝食の準備を。」
「……魚じゃん。」
「はい。美味しそうだったので。」
「それ俺の夕飯用のブリだよ!!」
リオは首を傾げた。
「食べ物を冷たい箱に閉じ込める文化、ちょっと可哀想で……」
「冷蔵庫のこと!? 生きてねぇから!!」
湊は冷蔵庫を開けて――目を疑った。
刺身・干物・冷凍エビ・ツナ缶まで、全部消えていた。
「……お前……全部食ったな?」
「ツナ缶、美味しかったです!」
「ツナって……お前の親戚みたいなもんだろ!!」
「親戚? では義理の兄弟ですね。あなたと。」
「話飛びすぎ!!」
湊はがっくりと膝をついた。
「俺、今月カツカツなんだけど……」
するとリオが申し訳なさそうに尾びれをぱたぱた。
「……恩返し、します。」
「もうその単語信用できねぇよ……」
「あなたを幸せにします。」
「いま即プロポーズ!?」
「プロポーズ?」
「違う違う違う!!」
顔を真っ赤にして否定する湊を、
リオは純粋な瞳でじっと見つめる。
「でも、“幸せ”は一緒に暮らすことじゃないんですか?」
一瞬、言葉に詰まった。
その真っ直ぐさに、湊はなぜか視線を逸らす。
「……まあ、食材は一緒に暮らす前提で買ってたけどな。」
「では、やっぱり運命ですね。」
「ちがっ――!!!」
その瞬間、電子レンジが「ピッ」と鳴った。
リオが嬉しそうに覗き込む。
「温め、成功しました! これで人魚でも自炊できます!」
「おまえ、文明に順応早すぎだろ……」
湊は呆れ半分、笑い半分で肩を落とした。
キッチンは水浸し、冷蔵庫は空っぽ。
でも――なぜか、昨日より部屋が明るく見えた。
リオが焼いたブリを一口食べて言う。
「……うまいな。」
「でしょ? 愛情こめました。」
「その言い方やめろぉぉ!」
今日も朝から波乱万丈。
――それでも、湊の心には“波のような微笑み”が残っていた。
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