朝は涼しく、清々しかった。学校に行く足もしっかりと地面をつき、軽かった。
蝉が鳴き、汗が肩と腕に滴り落ちた。私はセーターもマスクもしていなかった。
そして、同じクラスにはまた、今日から登校している翔太の姿も見えた。
私は教室に足を踏み入れた。
放課後、私はいつもの図書館に行った。
今日は勉強とかこつけて家から逃げるためでは無い。翔太と、一緒に帰ろうという話になったからだ。
重苦しいだけだった図書館も夕陽が入り、少しの風がすり抜けて、とても気持ちがいい。
「優香、お待たせ。何してたの?」
「なんか、こんないい場所だったっけって」
「確かに。気持ちが変わるとこんなに変わって見えるんだね。
優香のくれた桜貝、効果的面だったね。こうして、また二人で話せた。
今日まで預かってたもの、返すね。」
私は死ぬまで耐えるしか道がないんだと思いこんでいたあの時に渡した、最後だと思っていた贈り物の桜貝。
翔太には生きて欲しいと本気で願ったあの夜の桜貝。
「それ、まだ持ってたんだ。」
「一人暮らしの整理が終わってから初めて開いた。」
バッグを受け取りながら、久しぶりに声を出して、張り付けない笑顔で、笑った。
そしてまた、同じ帰り道を二人並んで帰った。
今度は手を繋いで。寄り添って。
私は、私たちは、空っぽになってしまった。でも二人ならきっと素敵なものをたくさん積もらせていける。
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