テラーノベル
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第一話《動き出した歯車》
温かい日差しに美しい青空、頬を撫でる優しい風、普通の人達ならピクニックにでも出かけそうないい日なのに
「はぁ…嫌になるなぁ…」
私はため息をつく、ここ数日歩いてばかりで足はクタクタだし泥には落ちるし、彼奴等は飽きずに追ってくるし、追い打ちのごとくこの森に入ってから木の実の一つも見つかってない!
「いっそ、鳥や蝶になって空飛べたらなぁ」
美しい青空を見上げ組織の連中の恨み言を連ねる
彼奴等にいい思い出はない、私を無知の魔女だと言い連れ去り研究だなんだと痛いことや苦しいことを散々繰り広げ、挙句の果て…私にあいつを植え付けて…そのせいで私は―
「ウッ……おえっぁ…」
思い出したくもない記憶が脳裏を横切り気分は最悪…木の実が実ってないのも、この世に戦争が繰り広げられるのも私が死にそうなのも、これもあれも全部彼奴等のせいだ!
木陰で嘔吐を繰り広げていると私の影がグニャリと姿を変え私の背中を優しく擦る
「数日何も食べてないんだからあんまり体力消費しないようにな」
「アドバイスありがと…いい加減動物の一匹でも見つかる頃だと思うんだけど…どうして見つからないのでしょう…」
「ま、何とかなるだろ大丈夫だ」
この楽観的な影は私と契約をしている悪魔エグニマ、通称影の悪魔と呼ばれる一族だ。この旅路で私はエグニマに幾度となく助けられている。
「悩み事の98%の出来事は大抵何とかなるらしい、だからきっと大丈夫だ」
「今この状況は悩み事ってよりは命の危機なんじゃ…」
「砂糖摂れてるから大丈夫、大丈夫」
「塩分摂りたい…」
エグニマと他愛もない会話を繰り広げ歩いていると道の先で人と思われる影が動いていたもしかして―
人間…?
「ハアッ…ゥ…ハァハァ…」
呼吸が乱れる、視界が揺れる身体中から嫌悪感が押し寄せる不安で潰されそうだ、恐怖からか震えが止まらない…人間は嫌いだ、私に危害しか与えない、私から何もかも奪ってしまう…怖い…怖い…!
人間は私の敵だ…。
その人影は次第に姿形が分かる距離まで歩いてきていた。黒に深い青のグラデーションがかった髪に夜空に星を落としたかの様な綺羅びやかな目、整った顔立ちに精霊使いのように周りが小さく輝いていた
綺麗な人だ…
魅入られるかのように彼を見ていると目があった、人間の様な嫌な感じはしなくとも冷や汗が背筋を伝う、彼は私のそばまで駆け寄って来ようとする私ははっとして距離をとった、顔を伏せて逃げの体制に入る私を見て彼は歩みを止めて口を開く
「こんな人気のない森で女の子が彷徨いてると危ないよ…?もしかして迷子?」
「い、や…えっと…さ、散歩!散歩に来てただけで…」
咄嗟に嘘を付く、旅だと言ってもきっと私の様な奴の発言を信じないだろう、かと言って組織から逃げてますなんて馬鹿正直に言えるわけない…彼だって私の目を見たら気味悪がるだろう。私の目は普通じゃないから…。
「散歩…ねぇ…この森は危ないから散歩はおすすめしないな、其処に潜んでる人物に殺されちゃうかもしれないし…」
彼が指さした先からかすかに物音が聞こえた、私は彼と物音がする方向から距離をとり能力で咄嗟に飴で作った鎌を構える、これが私の戦闘スタイルだ、能力は飴を生み出す程度だけど物は使いよう、飴の鎌だからって何も切れないわけじゃない、彼も敵かも知れないし…警戒しないと…
物音は次第に大きくなりガサゴソと音を立てる。
いっそ動物であってくれと願ったものの物事、なかなか上手く行かないもので…物影から出てきたのは空の色を少し薄くした髪に片目が包帯で隠れている海のような目をした女の人だった。
女の人は出てきてそうそう二人から武器を突きつけられている事に驚き数秒固まった後、コホンと小さく咳払いをして両手を上に上げた
「えっと…私は悪い人ではないですよ!家の近くで少女がふらふらと歩いていたのでちょっと心配で見守ってただけです!……ホントですよ…」
どうしたものかなとでも言いたげに眉を下げて小さくため息をつく女の人、人間の言うことは信じられない…けど、今人達って…
「…人間の言うことは、信じられない」
小さく呟くと二人は目を丸くした、しばらくすると彼はゆっくりと口を開いた
「…んーなんて言ったらいいかな、でも俺は人間ではない、はず…。」
「私も!人間とは呼ばれてないわ!私の名前はシフォン、魔法師よ!」
「…俺はアイト、ここであったのもなにかの縁だよろしくな」
「えっ、…あ…私はルク…た、旅人」
旅人という言葉に二人はまた驚き目を丸くする
そんな変な事は言っていないと思うのだけれど…
「こんな可愛い子が旅人ですって…世は残酷だわ」
「こんな子供が旅人ねぇ…世は残酷だな」
意見が噛み合った二人は小さく笑い合う、不思議とこの二人からは嫌な感じがしない、つかの間だったとしてもいい人達に出会えたのかも…知れない。
人間では無いと言う摩訶不思議な二人と出合い私はこれから起こる大きな争いに巻き込まれていくのだった
ガコン
耳の奥で何かが動き出した音が聞こえた気がした…
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