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むかむかしながらアシュレイン王国の連中と黒の勇者を私は睨みつけた。
そしたら、いきなり青い髪が私の視界を遮った。
「お前すっげぇ恐い顔になってるぞ」
「うっさい!」
あんたみたいな厳つい男に言われてくないわ!
「美人が台無しだぜ」
「余計なお世話よ」
私はふんっとそっぽを向いた。
戦いに顔の良し悪しなんて何の足しにもならないわ。
「そういや聞いた話なんだが、勇者は異世界人らしい」
そんな私の態度にゴーガンは特に怒るでもなく、いつものように世間話でもするかのように勇者の話題を続けた。
「異世界人?」
「ああ、アシュレインの奴らに召喚されたんだと」
その話に黒の勇者に視線を戻したけれど、私の怒気がにわかに萎んでしまっていた。
「そう……なの」
「急にしおらしくなってどうした?」
ゴーガンは豪放な見た目と違って意外と他人の変化に敏感なのよね。
そう言うのも一流の剣士の条件なのかもだけど。
「惚れたか?」
「なっ!?」
なんて事言うの!
本当にデリカシーには欠ける青髪ね。
「良く見りゃかなりの男前だしな」
「そんなわけないでしょ!」
ニヤニヤ笑ってからかうゴーガンに向かって、私は食って掛かるように思わず声を荒げてしまった。
「……ただ、あの勇者様も私達と同じなんだなって思ったのよ」
「俺達と?」
「ええ……」
背けていた顔を勇者に戻す。憎悪が薄らぐと彼の黒が魔の持つ黒とは違うのだと気が付いた。
瘴気で何もかも飲み込むみたいな禍々しい黒ではなく、私の目に映った彼の黒は磨かれた黒曜石の如く光を放って美しかった。
「彼はアシュレインの奴らに無理矢理この世界に連れてこられたんでしょ?」
「まあ、彼の意思がどうかは分からんが、結果を見ればそうなのかもな」
「だったら私達と同じアシュレインに故郷を奪われたも同然でしょ」
「スターデンメイアを滅ぼしたのは魔族なんだが」
ゴーガンが苦笑いするけれど、アシュレインに滅ぼされたも同じだと私は思うの。
「しかしお前って本当に優しい女だな」
「――っ!?」
青髪の相棒は時折こういう突拍子もない事を口にする。
やだ、顔が熱くなってる。
絶対に今の私って真っ赤になってるよね。
「わ、私は優しくなんてないわよ」
「そうか?」
「そうよ!」
私は強く否定したけど、ゴーガンは周囲を見回しながらふっと笑う。
「やっぱり優しいさ。ここの連中はアシュレインのものなら身に付けてる装飾品まで嫌悪の対象だ。周りの勇者に向ける視線を見てみろ」
ゴーガンの指摘にこの場の勇者へ向けられる目を見れば、誰もが憎しみの色を宿していた。
「あいつもアシュレインの奴らの被害者じゃない」
「そう割り切れんのが人間だ」
そうなのかな?
いえそうね、私も彼を最初に憎悪の対象として見てたじゃない。
だけど彼の『黒』が魔の持つそれよりもっと純然として美しい。そう感じてしまった私の心は彼の『黒』に囚われてしまったのかもしれない。
「だからそんな風に考えられるお前はいい女だよ」
「よしてよ」
頑なな私にゴーガンは苦笑いしながら肩を竦め、それからもう一度勇者に視線を向けて目を細めた。
「だけどあの勇者様には俺もちょいと同情するがな」
どうやらゴーガンは私とは違う感想を勇者に抱いたようだった。
「これからあいつは戦場で孤立しちまうぞ」
巨漢の青い剣士ゴーガンは、黒の勇者にとって不吉な予言を口にした……