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優しさ
朝の空気は、冷たかった。
森の奥に張られた簡易拠点。
焚き火の跡から、細い煙が立ち上っている。
×××は、毛布にくるまりながら、静かに外を眺めていた。
体はまだ重い。
傷も完全には癒えていない。
それでも――
確実に、回復してきている。
(……信じられないくらい……手当、丁寧……)
包帯はこまめに替えられ、傷口は清潔に保たれている。
明らかに、素人仕事ではない。
「……レオリオ……医者志望……だっけ……」
小さく呟く。
そのとき。
背後から、足音。
「起きてたのか。」
キルアだった。
両手に、木の実とパンを持っている。
「朝メシ。」
「……ありがとう。」
受け取るとき、指先が少し触れた。
一瞬。
二人とも、黙る。
キルアは、そっぽを向いて座った。
「……体調は?」
「……だいぶ……マシ。」
「そっか。」
短いやり取り。
なのに、不思議と居心地がいい。
×××は、パンをかじりながら言った。
「……あのさ。」
「ん?」
「……どうして……こんなに……よくしてくれるの?」
キルアは、一瞬考えてから答えた。
「……放っとけないから。」
「……それだけ?」
「それ以上、いる?」
真っ直ぐな声。
嘘がない。
×××は、視線を落とす。
(……こんな人……知らない……)
彼女の世界には、
“損得”しかなかった。
優しさは、武器。
親切は、取引。
でも――
キルアたちは違う。
純粋に、人を助けている。
「……変なの。」
思わず、そう呟いた。
「は?」
「……いい意味で。」
キルアは、ふっと笑った。
「それ、褒めてんのか?」
「……たぶん。」
そのころ。
少し離れた場所で――
クラピカは、一人、黒い布切れを見つめていた。
昨夜拾ったもの。
蜘蛛の紋章。
かすれてはいるが、間違いない。
――幻影旅団。
彼の宿敵。
一族を滅ぼした存在。
(……偶然か……?)
だが。
偶然にしては、出来すぎている。
重傷。
圧倒的な戦闘力。
そして、蜘蛛の痕跡。
すべてが、繋がってしまう。
「……もし……彼女が……」
拳を、強く握る。
その様子を、レオリオが見ていた。
「……クラピカ。」
「……何だ。」
「考えすぎんなよ。」
「……放っておけ。」
だが、声は硬かった。
ゴンは、何も知らずに笑っている。
「今日さ!×××、少し歩けるようになったら川まで行こうよ!」
「……え……?」
「リハビリだよ!」
「……スパルタすぎ……」
キルアがツッコむ。
×××は、小さく微笑んだ。
「……行けたら……行く。」
ゴンは満面の笑み。
「やった!」
その笑顔が――
胸に、刺さる。
(……私……嘘ついてる……)
正体を隠し、騙し、ここにいる。
それなのに。
こんなにも、温かく迎えられている。
罪悪感が、じわじわと広がる。
その夜。
×××は、眠れずにいた。
傷の痛みではない。
心の痛み。
(……もし……バレたら……)
拒絶される。
嫌悪される。
――殺されるかもしれない。
それが、当然。
自分は“蜘蛛”。
人の人生を、いくつも踏みにじってきた。
……許される存在じゃない。
「……ごめん……」
誰に向けた言葉かもわからないまま、呟く。
そのとき。
テントの外で、声がした。
「……起きてる?」
キルア。
×××は、少し迷ってから答える。
「……うん。」
キルアは、入り口に腰を下ろした。
「……眠れない?」
「……ちょっと……。」
沈黙。
しばらくして、キルアが言う。
「……なあ。」
「……なに?」
「お前さ……なんか……抱えてるだろ。」
心臓が、跳ねた。
「……え……」
「無理に言えとは言わねぇけどさ。」
視線を向けないまま、続ける。
「……一人で潰れるタイプだろ。」
……図星だった。
×××は、唇を噛む。
「……キルアは……怖くないの?」
「何が?」
「……私が……危ない人だったら。」
キルアは、即答した。
「別に。」
「……は?」
「今のお前は、俺たちを傷つけない。」
淡々と。
でも、強く。
「……それで十分。」
その言葉に。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
(……ずるい……)
こんなの。
信じたくなってしまう。
――信じてしまったら、裏切るのが、もっと苦しくなるのに。
その瞬間。
遠くで。
微かな“殺気”が走った。
キルアが、瞬時に立ち上がる。
「……チッ。」
「……なに……?」
「……来た。」
低く、鋭い声。
森の奥から。
複数の気配。
禍々しく、馴染みのある――
×××の背筋が、凍った。
(……まさか……)
――幻影旅団。
彼らの気配だった。
運命の再会が、
すぐそこまで迫っていた。
to be continued…