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1 - 第1話

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2024年12月12日

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各所で眠れないことを公言している元貴は、よく金縛りに遭うらしく、移動中の車内でも寝ているかと思えば「あっぶねぇ〜」なんて言いながらすぐ起きてしまう。


笑いながら金縛りに遭っていた報告をしてくるが、正直心配が勝つ。


多忙を極める元貴にはゆっくり寝て欲しい。



午前中から番組収録のため、マネージャーが3人の家を回って迎えに来てくれたが、元貴は今日もあまり寝れていないらしく、談笑しながら眠そうな顔でスマホをいじっていた。



リハーサルを終えたあと、メイクや衣装着替えまで時間が空いていた。


トイレを済ませておこうと楽屋を出て、戻ってくると元貴はソファーにうつ伏せになって仮眠をとっていた。


涼ちゃんは次のピアノソロのアレンジを考えているようで、元貴を気遣って静かにしようとしているみたいだったが、時々ぽそぽそと声が漏れてひとりで会話しているのが聞こえてきた。



元貴が寝ているソファーからローテーブルを挟んだ向かいにあるソファーに腰掛ける。


元貴は両手の甲を枕にして、顔をこちらに向ける姿勢で寝ている。


顔のすぐ近くに眼鏡が置かれていて、少し手を動かしたら床に落としそうで危ない。


なんとなく悪戯心が湧いてスマホのカメラアプリを起動する。


インスタのストーリーにでも上げてやろうかと考えながらカメラ越しに元貴を見ていると、瞼がぴくりと動いた気がした。


もう起きるのかと慌ててスマホを下に向けるが、起きる気配はない。


少しほっとしながらそのまま元貴に目を向けていると、再び瞼が動いたように見えた。


よく見るとほんの少しだが眉間にシワが寄っている。


瞼が動いたように見えたのは、眉間と一緒に目元にも力が入ったせいだろう。


直感で「金縛りかな 」と思った。

誰よりも多忙で、身を削りながら生きてる元貴に安眠すら与えてくれないソイツに、物ですらない現象に対して憎たらしさを覚える。

起こして金縛りを解消させたいが、起こしてしまえば残りの空き時間はもう眠れないだろう。


曲がりなりにも、せっかく寝れているのに。


もどかしくて、何もできることは無いのに席を立って元貴のそばにしゃがむ。


近くで見てはじめて手にも若干力が入っていることに気づく。


元貴の眉間にシワが寄っているのを見て移ったようで、自然と自分の眉間や目にも力が入っていた。


少し恥ずかしくなりながら片手で自分のおでこを撫でて直し、もう片方の手を元貴の背中にそっと置いた。


触れたら起きてしまうか、とも思ったが意外にも起きなかった。


末端冷え性の手から体温が伝わり、数秒のうちにぬるくなった。


顔を見やると、どことなく 表情が和らいだように見える。

眉間や手に力が入っている様子はなく、起きそうな様子もない。


背中をさするでもなくそのまま手を離し、元貴の顔の近くに置かれた眼鏡を持って立つ。


目線に気づいて顔を向けると涼ちゃんと目が合う。


何をしているのか気になったらしい。


元貴の眼鏡をふりふりと振って見せ、ローテーブルに置いて「危なそうだったから移動させた」というのを伝える。


涼ちゃんは納得した素振りでくすくすと笑い、親指を立ててこちらに見せる。


俺も笑って親指を立てて返す。


涼ちゃんが優しい表情だったのを見ると、涼ちゃんも元貴が金縛りぽかったことに気づいていたのかもしれない。


再びぽそぽそと独り言を漏らしながらアレンジに頭を悩ませ始めた涼ちゃんを横目にソファーに座り直す。


少しでもこの空き時間が長ければいいと思いながらスマホに目を落とした。



眠れない日が続いているというより、眠れない人生が続いている。


元々寝付けないし、長く眠れないし、金縛りによく遭う体質ではあるけれど、最近は特に金縛りに遭う頻度が高い。


日が昇ってからようやくベッドに入り、そこから横になるだけの時間が続き、やっと眠りに落ちたと思ったら金縛りに遭う。


そんなのがもはやルーティンになってきていて、しっかり睡眠をとることを諦めつつある。


しかし仕事で迷惑をかけるわけにはいかないので、休めるタイミングがあれば目を閉じるだけだとしても体を休めていた。


今日の収録現場でも空き時間があったので、とりあえずソファーに横になってみる。


眼鏡を外し目を閉じると、今回は運良く寝付けた。


意識がソファーに沈んでいく感覚の中、涼ちゃんのからかうような「おやすみ〜」という声が聞こえた。



上着を着たまま眠ったので、体が温かくなっているのを感じる。


その温かさにまどろみながら、意識がほんの少し現実に触れているような感覚がある。


遠くの方で音が聞こえるような、聞こえないような。


ソファーの感触があるような、ないような。


…ぬくもりに紛れて、足首から何か重さを感じ始める。


下に下にと押されるような重みが足首から上半身に向かって上り、腕と頭、肩甲骨の辺りが押さえ付けられているような感覚になる。


その都度起きる事柄は違えど、僕はこの圧迫感を知っている。


またしても金縛りに苛まれるのか。


起きよう起きようと思えど、今回はなかなか起きれずに苦戦する。


実際の体には何も起こっていないので苦しさは無いはずだが、圧迫感は増していき苦しくなっていく。


早く目が覚めろとそれだけを念じながら耐えていると、背中にひんやりとしたものが触れたように感じた。


不思議とその冷たさで、潰されるような圧迫感は一瞬にして和らいでいく。


腕や頭にあった重さは消えていき、背中に何か柔らかいものが優しく触れている感触だけが残る。


まどろみの中で、触れているものの輪郭ははっきりしない。


ただその心地よい冷たさを帯びたものが、すぐに体温に混じり溶けていく感覚がまた心地よかった。


背中に触れているものが離れていくのと同時に、意識も現実から再び離れていく。


体から力が抜けていき、浮いていくような、沈んでいくような。


遠のいていくままに意識を手放した。




機材トラブルでなんだかんだ空き時間が伸び、起きた時には結局1時間も寝ていた。





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