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ぐっすり眠ってしまっている千鶴を起こすことをせず、何処にも寄らずに彼女のアパートへ戻って来た蒼央。
「千鶴、着いたぞ?」
一旦アパートの敷地内に車を停め、何度か声を掛けてみるも千鶴は起きる気配が無い。
しかし困ったことに千鶴は車を所有していないので駐車場は借りておらず、この場にずっと留まっていることが出来ない。
「……仕方ねぇ、一旦俺のマンションに行くか」
考えた末、自分の自宅へ向かうことにした蒼央は再び車を走らせた。
マンションへ着くと、駐車場に車を停めてエンジンを切る。
後部座席に置いてあったブランケットを千鶴の膝に掛けて自身は座席を少し倒すと、ちょうど街灯の光が当たる位置に停めていることから暇潰しに車内に置いていたカメラ雑誌を手に取って読み始めた。
千鶴がこのところ寝不足気味だったことに気付いていた蒼央は、自然と目を覚ますまで車内に留まるつもりらしい。
それから三十分程経った頃、
「……ん……」
ようやく千鶴が目を覚ました。
「目、覚めたか?」
「……蒼央、……さん?」
まだ少し意識がはっきりしていないのか、ボーッとしている千鶴に声を掛ける蒼央。
一瞬の沈黙の後、徐々に意識がはっきりしてきた千鶴は自分が置かれた状況を思い出し、
「私、寝て……!?」
自分が眠ってしまっていたことを思い出して焦りだす。
「す、すみません! 私、いつの間にか眠ってしまって……」
「構わねぇよ。疲れてたんだろ? ぐっすり眠ってたから起こさなかった」
「すみません……。あの、ここは……」
すっかり辺りも暗くなり、ここが何処だか分からない千鶴は蒼央に問い掛ける。
「俺の自宅マンションの駐車場だ。お前のアパートに着いた時、一旦起こしたんだが起きなかったからな……いつまでも車を停めて置けねぇから此処に来た」
「そうだったんですね……すみません、ご迷惑をお掛けして」
「別に、迷惑なんて思ってねぇから要らねぇ心配するな。それより、すぐに帰るか? それとも、少し上がってくか?」
千鶴が目を覚ましたのでアパートまで今すぐ送るかと蒼央が尋ねると、恥ずかしそうに俯きながら、
「あの……すみません、またお手洗い、貸してもらってもいいでしょうか?」
初めて蒼央の部屋に上がった時同様、お手洗いを借りたいという申し出ると、
「ああ、構わない。それじゃあ一度部屋に行くか」
優しげに目を細めた蒼央は快く千鶴の申し出を受け入れ、二人は車を降りて部屋へと向かった。
「お手洗いありがとうございました」
「ああ。それより、コーヒーでいいか?」
「はい」
トイレを借りた千鶴は蒼央が用意するコーヒーを貰う為に自然な流れでソファーに座る。
「すみません、わざわざコーヒーまで」
「いや、構わねぇよ。俺も喉が乾いてたからな」
すぐに帰る選択をしても良かった千鶴だけど、本来ならば帰りの車内で今日あった色々な出来事を振り返って語り合ったり、撮った写真の意見を聞いてみたかったこともあり、少しだけ彼の部屋で過ごすことを選んだ。
「あの、もし良ければ蒼央さんが撮った写真、見せて欲しいです」
「俺の?」
「はい! 普段、私を始めモデルさんのことを写した写真を見る機会は沢山ありますけど、風景写真を見る機会はなかなか無いので……」
「まあ、別に構わねぇけど」
二人並んでソファーに座って暫く自分の撮った写真についての感想を貰っているさなか、急に蒼央の撮った風景写真を見たくなった千鶴は彼に見せて欲しいと願い出ると、それに頷いた蒼央は側に置いてあったカメラや機材を入れていた鞄に手を伸ばしてカメラを取った。
「ほら」
「ありがとうございます!」
そして、カメラを起動した蒼央は千鶴に手渡した。
「うわぁ〜やっぱり上手いですね! 私なんてブレてるものも多かったのに」
「まあ、写真が本職だからな」
「ですよね。プロの方に『上手い』だなんて、私ってば……」
会話をしながら次々に写真を確認していると、いつの間に撮ったのか、自身が写っている写真が現れる。
「え、これ……いつの間に?」
「まあ、俺はどちらかと言えば風景写真より人を撮る方が好きだからな、ついついカメラを向けちまってたんだが……ほら、これとかよく撮れてるだろ? 普段とは違って何かに集中しているお前を写すのも楽しかったよ」
「な、何だか恥ずかしいです……」
普段写真を撮られ慣れている千鶴だが、それはあくまでも撮られることを意識しているからで、こうして他のことに集中している場面を収められることに慣れていなかった千鶴は表情が変ではないかと恥ずかしがっていた。