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父親を抱き起こし、『親父ッ!』と何度も、何度も呼び掛ける。
だが、動きもしなければ言葉も発する様子は無い。
『親父、冗談は止めろって』
もうすでに冷たくなってしまった父を背負い、リビングへと走っていく。
(母さんに見せなきゃ)
今思えば分かっていたのかもしれないけれど、それでもその時は悪い予感に蓋をして「母さん!」と呼び掛けた。
リビングには思った通り三人がいた。
だが。
『おね、ちゃん』
『まもり…か…』
血を吐いている母に庇われ、妹達が震えている。
側には黒い刃を構えた男の姿がある。
ずるりと父の体が守から離れ、ずしゃりと倒れた。
守の瞳が血に染まり、涙のように頬を伝う。
_許さない
ゆるさない 許さない許さない許さない許さないゆるさない許さない許さない許さない許さない許さない許さないゆるさない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさない許さないゆるさないゆるさないゆるさない
許さない?何を?
当然、全てを。
足元から血に覆われていき、頭をも飲み込もうと血が登ってくる。
自然と、唇が動いた。
『血色解放_』
滴り落ちた血から六角形の薄い障壁が生成される。
桃太郎が狼狽えると、守である筈のナニカが地面を蹴った。
『…!』
気づくと、血溜まりが守の周りに広がっていた。
もう守の体力も限界だったが、そんなことは関係無い。
消えた障壁に守られていた妹と母が姿を現した。
海は血塗れの床と守を見て『ひっ』と息を飲み、怯えている。
妹達に怪我は無かったが、 母は背中を大きく切り裂かれ、血を未だ吐いていた。
咳に血が混じりながらも、『己の血液を飲んで』から母は言葉を紡ぎ出した。
『守、海…覚えていてくれ』
海はぼろぼろと涙を溢し、守はただ止血をしようと服を引き裂き、巻き付けている。
『お前達は、きっと…桃と鬼との関係を、一変させる世代となる』
そう言うと、何かを『視た』かのように守と海、そして桃華に言った。
守達は、やっとこの時に母の力が何だったのかを知った。
『守…』
『母さん、喋んなよ…。血…止まんねぇの… 』
『守、《手を届かせる者》。力の限り全てを『守れ』。お前ならばそれが出来る』
守からその視線を動かし、海に視線を向ける。
『海。《水を統べる女王》よ。片割れを探し、共に闘い、架け橋となれ』
『お母さん、わたし…もっと、お母さんといたいよ』
『…すまないが、母はここまでだ。守達と、後々出会うであろう『運命』と進んで行け』
そして、最後に海に抱き抱えられた桃華へと。
『お前はきっと覚えていないと思うが…。桃華、《鬼を愛し、鬼に愛された桃の華》。己の敵を見謝らず、護るべきものを護れ。_お前の、父の様に』
言い終わると一際大きく咳き込み、血を吐き出す。
もう限界だった。
『母さん!もう喋んなって!』
『お母さん、やだ、やだよ…』
ふるふると横に首を振り、これが最期だとでも言うように『三人共』と声をかけた。
姉達はぼろぼろと涙を溢しているが、桃華はまだ何があったのか分からず、母に小さな手を伸ばしている。
『…愛しているよ。お前達。お前達を産み、育て、守ることが出来たことに後悔は無い』
紅く美しい瞳を細め、微笑むと、『だがなぁ』と頼りなげに言葉を続けた。
『だが…もう少し、お前達と、波と。生きていたかったなぁ…』
守が手を握り、涙を流しながらスマホを取り出した。
『絶対、治すから。今、隊員さん呼んで…』
片手で制し、母は笑った。
『私はどうせ助からん。守、妹達を…』
言葉は最後まで紡がれることは無かった。
今まで光を微かに灯していた瞳から完全に光が消えていく。
守の握っていた手も力を失くし、だらりと落ちた。
『母さん?』
いつまで泣いたか分からない。
だが、泣いた後に死に物狂いで妹達を連れて隠れながら何度も行ったことのある支部に向かった。
当時そこで働いていたのが無陀野、花魁坂、真澄である。
三人は特に特訓の相手を父に頼んでいたので、話は聞いたことがあった。
舐められてはいけない。少しでも強く見える様に、一人称だけでも変え、背筋を伸ばす。
『私達を…いや、俺達を、ここで匿ってください。せめて、妹達だけでも』
そう言うと、無陀野と真澄は目を丸くし、花魁坂は守達を抱きしめた。
抱きしめる腕に力を込め、花魁坂は涙声で優しく言う。
『守、海、桃華。これからは俺達が帰る場所になるよ』
_これが、『神の威光を示す者』の名を冠する氏を持ち生まれた少女達の始まりの物語である。
_そして、『託した者』と『託された者』の物語であった。
こんにちは。作者です。
寒すぎて起きれません。助けてください。
守達のいわばエピソード0、楽しんで頂けましたでしょうか?宜しければ感想など聞かせていただけると幸いです。
今回も読んでくださりありがとうございます。
これからも読んでくださると幸いです。