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「はい、これどうぞ。出店で買ってきました」
ニコラさんの事を問いただされ、動揺しているネルとティナにジュースを手渡した。前にテレンスと一緒に食べたさくらんぼ飴を売っていた店で購入した。あそこで売っているものなら彼女たちもよく知っているだろうから、手を付けやすいはずだ。
「……ありがとう」
「どういたしまして。話の続きはこれを飲んでからにしましょう。はい、ルーイ先生の分も買ってきましたよ。甘いのお好きですもんね」
「りんごジュースだ!! やったー。サンキュー、ラリーちゃん」
控え目にお礼を言ったネルとティナとは対照的に、ルーイ様はまるで小さな子供みたいに喜びを表現する。ギャップの激しさにふたりは面食らっていた。さっきまで自分たちを追い詰めていた人物と同じとは思えないのだろうな。
子供のように無邪気な時もあれば、目の前の者を無条件で跪かせるほどの威圧感を放つことだってある。どちらも偽りないルーイ様の姿だと思う。彼は決して優しいだけの人物ではない。特にこうだと決めた場合の容赦の無さはかなりのものである。
「最初から私とティナを連れ出す事が目的だったんですね。私たちの絵に興味なんて無かった。マードック司教様の名前まで利用して……」
ジュースを飲んで少し気分が落ち着いたみたいだ。ネルが再び話を始めた。まだ私たちに対しての不信感が拭えていないようで言葉にはいくらかトゲがある。
「マードックと知り合いなのは本当だと言ったろ。俺たちが聖堂で調査をしているのだってあいつは認めている。君らふたりに声をかけたのは、ニコラ・イーストンに関する新たな情報を入手できるという確信があったからだ」
「……ニコラさんなんて人知りませんから、聞かれても困ります」
「ネルさん、そしてティナさん。あなた方はバルカム司祭の代理として懺悔室での仕事を任されていましたよね。ニコラさんは聖堂を訪れる度に懺悔室を利用していたんです。彼女と直接会話をする機会があったのは一度や二度ではなかったはずですよ」
「司祭様のお手伝いはしてましたけど、特定の誰かの事なんていちいち覚えていません」
「あれ? ティナちゃんの方はニコラさんを知ってるみたいだったけどねぇ。下手な嘘は吐かない方がいいよ。君たちは彼女と懺悔室でどんな会話をしたのかな。そして……司祭とは別に、ふたりと関わりが深そうな『予言者様』という人物は何者だ?」
「それは……」
はきはきと喋っていたネルまで口籠るようになってしまった。まだ動揺を引きずっているだろうし、一度に色々と言い過ぎたな。でも、ここで彼女たちから話を聞くことができなければ、捜査は停滞してしまうかもしれない。あまりこういった事は言いたくないけど、背に腹はかえられない。
私はルーイ様に目配せをした。彼はすぐにその意味を察して頷いた。ネルとティナが素直に取調べに応じなかった場合、やり方を少し強引なものに変えると事前に打ち合わせをしていたのだ。
「今後の状況次第では、君たちは警備隊に連行されてしまうかもしれないよ。ニコラさんは俺らが調べてる事件の容疑者でもあるんだ。彼女にまつわる情報を故意に隠蔽したとなると……共犯者と疑われても文句が言えないね」
「共犯って……そんな……私たちは事件の事なんて何も……」
隠し事をするのは全く得にならないと、ルーイ様はネルとティナに告げる。ティナがニコラさんの名前を知っていたというだけで、彼女たちが実際に会話をしたという証拠はまだ無い。それが分かるのは当事者であるふたりとニコラさんだけだ。しかし、ネルとティナにはこの脅しはかなり効果的だった。
「ネル……この人たちもう全部知ってるみたい。話を聞くまで帰ってくれなそうだし……私、捕まりたくないよ」
「それは私だって……でも」
「いずれ真実が明らかになるだろう。今のうちに自ら進んで打ち明けた方が心証がいい。罰も軽くなるかもしれないよ」
「ネル、言う通りにしよう」
ティナは気持ちが固まったようでネルの説得をしている。ネルもかなり揺らいでいるので折れるのは時間の問題だろう。ふたりは襲撃事件については本当に知らなそうなので、ニコラさんとグレッグを繋げたのは別の誰かなのだろうか。
バルカム司祭か……それともティナが口にした『予言者様』という人物がやったのかもしれない。まさか、ネルとティナ以外にも代理がいたなんてことは……
「……分かった。あなたたちの質問に答える」
ネルもティナに続いて取調べを受けることを約束してくれた。かなり悩んだようだけど、ティナが早々にこちら側に付いてくれたのに救われたな。
「その代わり……私とティナの身の安全を保証して下さい。あなたたちは警備隊の仲間なんでしょう?」
「その辺の対応に関しては話を聞いてからだね。善処はするけど」
不安そうなネルとティナに対して、ルーイ様は曖昧な返答をした。彼女たちの今後の処遇について断言はせずに、努力するとだけに留めたのだ。
最終的な判断は私たちがすることじゃないから仕方ないよな。まだ話の詳細も分からない状態で安易に約束はできない。ルーイ様も慎重になっているのだろう。