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十一、忠誠と愛と洗脳と
「イザ。倒れたらしいな」
「ムメイ……お見舞いかしら」
イザの部屋は、今は閉じられている。
さすがに倒れたというのに、抱こうなどと考える者は魔族には居なかった。
「無茶をするな。復讐する前に死んだらどうする」
「死ぬわけがないわ。私は魔王になったのよ? 今回はまだ、少し魔力が足りなかっただけ。明日には元に戻っているはずよ」
顔色悪く横たわるイザに、ムメイは丸薬を取り出した。
「これを飲んでおけ。気つけ薬みたいなものだ。滋養もある」
「なにこれ……なんか、独特のニオイね。食べても平気なの?」
「色々な薬草が混ぜてある。その内の一つが臭いだけだ。我が故郷の秘薬だぞ」
かなり押し付けがましいが、イザを心配しての事らしかった。
「わ、わかった。食べるわよ……」
「いや、かじると臭いが取れなくなるぞ。水で流し込め」
「うそでしょ? 一センチ近くあるんだけど。む……無理よ」
「意外と大丈夫だ。ほれ、水もあるから飲め」
ほぼ無理矢理飲まされたイザだったが、思いのほか臭いので頑張って飲み込んだ。
「……さいあく。でも、その分なんだか効く気がする」
その微妙な顔を見ると、ムメイは昔を思い出したのか、笑みを浮かべて去って行った。
**
次の日、イザは目を覚ますとまた、男達を集めた。
己を抱かせては精を吐かせる。
それを受けて、また力をつけるために。
「明後日あたりに、宣戦布告しましょう。正々堂々と、あの国を亡ぼすために」
その日最後の男を、伝令に使った。
そして開かれた会議で、作戦を伝えた。
幻影魔法で、王国の側にイザの姿を映して布告するのだと。
その際に合図を送ったら、十人ほどで爆発魔法を使えと言う。
それは王国の反対側、数キロほど離れた何もない森の中。
人目に付かず移動でき、そしてイザがやったかのように錯覚させられるからと。
新しい魔王の誕生と、宣戦布告によるデモンストレーション。
逆らえば、その森のように街も城も吹き飛ばしてみせるという脅しだ。
王国がイザの力を疑おうと信じようと、どちらでも構わない。
どちらにしても、王国には滅んでもらうのだから。
小さく縮こまった者達をただ焼き払うのか、反抗して攻めて来る者達を薙ぎ払ってから滅ぼすのか、些末な差であると。
――そんな事よりも。
「私を裏切った事を、後悔させなくてはならない」と言った。
そしてイザは続けた。
イザの顔を忘れられないように、恐怖で刻み付けてやるのだと。
万が一にも生き延びた者が、恐れで狂い死ぬように。
どこにも逃げ場のない絶望と、どうにもならない不条理を教えてやらねばならないと。
「それは傲慢という油断なのでは? 隙を見せずに一瞬で滅ぼすべきだ」
一人が忠告した。
「そうだ。人間も侮れん。むしろ我々は、その数人にやられたのだ」
もう一人が、ついこの間までの記憶を振り返った。
だが、イザは首を縦に振らない。
「愚かな。私が居るというのに、この新しい魔王の力を信じられないの? もしくは、分け与えた力が不足しているとでも?」
もしも足りぬと言うのであれば、それは私に対する忠誠も愛も足りないのだと告げた。
それに対して、彼らは反論しなかった。
いや、出来なかったのだ。
先日、連れられて王国の平原を焼いたあの黒い光を、鮮明に思い出したから。
報告では、未だに焼き付けるような熱を放ちながら、黒い炎が残っているという。
何一つ焼くものが残っていないのに、ただそこに黒い炎がゆらゆらと燃え続けているのだ。
一体、どれほどの魔力があれば何日もの間、凶悪な熱を残し続けられるのだろうか。
その魔力、そしてその憎悪と絶望。
それらが手を取った証の、絶大な力。
魔玉の力だけではなく、イザの力もあるからこそだった。
魔族達は、それが尋常ではない事をよく理解していた。
だから、イザの言葉には誰も反論できない。
忠誠と愛が足りないと言われれば、それに頷くしかなかった。
「分かったなら、もっと気持ちを込めて私を抱きなさい。愛をささやきなさい。すでに、私に近い力を持つ者も居るというのに」
その妖艶な眼差しと仕草に、男達は本能をくすぐられる。
いつも通り布を巻いただけの、白い肌が垣間見える姿。
やわらかな胸元も、その首すじも。
きめ細やかで可憐な指や手の平さえもが、性欲を刺激する。
目の前の絶世の美女を、思いのままに抱けるのだという征服欲を抑えられない。
悔しいと思いつつも、ならばもっと、強く抱いてやると思ってしまうのだ。
イザの言う忠誠も愛も、いまいち分からないままだとしても。
慣れぬ愛のささやきも、すべてはこの女に精を注ぎたいがため。
すでに男達は、人間への復讐よりも……それをイザを抱くための口実にしている。
イザを抱けるなら、結局はどんなことでも言う事を聞いてしまうのだ。
会議での反論など、茶番に過ぎない。
――だがイザは、それさえも理解し、利用していた。
「私に従えば、ずっと私を抱き続けられるのよ? さぁ……どうするのかしら?」
イザは男達を誘う。
その本能に従って。
復讐と言う名の、イザだけが持つ悲しい本能に――。