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くそっ! 俺はここで指を咥《くわ》えて見ていることしかできないのか!
何か……何かいい方法はないのか!
その時、俺は思い出した。
チエミ(体長十五センチほどの妖精)の固有魔法が何なのか知らないことに。
風使いのチエミなら、この状況を打破できる固有魔法を使えるかもしれない。
だって、風使いなのだから!
俺は、一つの可能性の掴《つか》み取るための第一歩として、チエミの名前を神社全域よりも、もっと遠くに聞こえるように叫《さけ》んだ。
「来てくれ……チエミーーーーーーーーーーー!!」
その時、左耳の耳元でこう囁《ささや》かれた。
「そんな大きな声を出さなくても、私は、ナオトさんのそばにいますよ?」
「うおっ! チ、チエミ! い、いつからそこにいたんだ?」
いきなり、チエミが登場したため、俺は数センチ飛び上がってしまった。
俺のその反応を見ると、チエミはクスクスと笑い始めた。
「ナオトさん、私は特別に十五体も作られた妖精型モンスターチルドレンの一体なんですよ? マスターであるナオトさんが生きている限り、私は胃袋の中にだってお供《とも》しますよ」
「い、胃袋に入《はい》ることがないようにしてもらいたいものだな……」
「そうですね。あっ、ちなみに私は今までナオトさんの髪の中にいましたよ」
「そ、そうか」
その後、俺は今の状況をチエミに話した。
「……なるほど。つまり、私がまだ使用していない固有魔法が今の状況を打破できる唯一《ゆいいつ》の手段かもしれないということですね?」
「ああ、そういうことだ。なんとかならないか?」
チエミは小首を傾げながら、こう言った。
「うーん、まあ、ナオトさんが名前を付けてくれるのであれば、もしかすると……」
「なんとかなるんだな! それなら、今すぐ決めてやる! よーし、それじゃあ、さっそく……」
「待ってください。善は急げとは言いますが、急がば回れとも言います。ですから、少し落ち着いてください」
「でも、シズクが……」
チエミは、俺が最後まで言い終わる前にデコピンをした。
「痛《いた》っ! な、何《なに》すんだよ!」
額《ひたい》を手で押さえながらそう言った俺に対して、チエミは真剣な表情でこう言った。
「シズクさんは負けるかもしれない戦いに挑みました。それがどういう意味か分かっていますか?」
「そんなことは、もう分かりきっている。俺を巻き込みたくなかったからだろ? まったく、小さい体で無茶しやがって……」
その時、チエミは少し怒りながら、こう言った。
「それは、元はと言えば、あなたのせいなんですよ? 子どもは、すぐに誰かのマネをするんですから」
俺は、チエミの言葉に少々、カチンときた。
「そ、それと今の状況は関係ないだろ!」
チエミは、こちらを指差しながら、こう言った。
「関係ありますよ。あなたの鎖《くさり》に封印している大罪の力は、本来なら元の所有者以外は扱うことすらできません。ですが、それをあなたは封印した。これがどういうことか分かりますか?」
俺が大罪の力を封印できている理由……だと? そんなこと一度も考えたことはなかった。
単に鎖《くさり》の力のおかげだと思っていたからだ。
だとしたら、どうして俺はそれを封印できたんだ?
俺にそんな力などあるわけが……。
「大罪の力が……いや、元の所有者が俺を信用しているから……か」
チエミは俺の頭を撫でながら、笑顔でこう答えた。
「よしよし、よくできました! さすがは私のマスターですね。じゃあ、さっそく名前を考えてもらいましょうか」
「ん? あ、ああ、そうだな。えーっと……」
チエミの態度がガラッと変わったのに一瞬《いっしゅん》驚いたが、チエミの固有魔法の名前を考えることにした。
シズクを助けるだけではダメだ。
今度は俺が【キミコ】(狐の巫女の略)の相手をしないと、またシズクが危ない目に遭《あ》ってしまう。
かといって、立方体に一度入ってから、また出るのは……ちょっときついな。
こんな時、マナミの『|瞬間移動《マジックジャンプ》』が使えたらな。
その時、俺の頭に稲妻《いなづま》が落ちた。
そうか! これならシズクを助けられるし、俺の望みも叶《かな》えられるぞ!
俺は、体感時間わずか二十秒で思いついたその固有魔法の名前をチエミに伝えた。
「チエミ……。今からお前の固有魔法の名前を発表するから、よく聞けよ?」
チエミは、ニッコリと笑いながら、こう言った。
「はい! いつでもいいですよ! マイマスター!」
俺は自信に満《み》ち溢《あふ》れた顔で、こう言った。
「……『選手強制交代《バトンタッチ》』。それがお前の固有魔法だ!」
チエミは、ニッコリと笑いながら、こう言った。
「はい! 素敵な名前をつけていただきありがとうございます! それでは|早速《さっそく》……『選手強制交代《バトンタッチ》』!」
その直後、俺は、いつのまにか立方体の中(天井近く)に居《い》た。
俺は、一瞬《いっしゅん》焦《あせ》ったが、こう言いながら【キミコ】を空中から攻撃した。
「俺の家族に何してやがる! このロリ巨乳がああああああああああああああ!!」
「なぜだ……。なぜ、お主がここにおるのじゃああああああああああああああああ!!」
【キミコ】はこちらを見ながら、俺の拳《こぶし》に自分の拳《こぶし》をぶつけた。
その瞬間、凄まじい風圧が立方体の中に迸《ほとばし》った。
しかし、俺はすぐに【キミコ】に吹き飛ばされてしまった。
空中からの攻撃は高度が高ければ有効打だが、低いとあまり威力がないからだ。
俺は、うまく受け身をとりながら着地すると、こう叫びながら【キミコ】に再び拳《こぶし》を打ち込んだ。
「『|大罪の力を封印する鎖《トリニティバインドチェイン》』!!」
白き髪と赤い瞳《ひとみ》と、背中から飛び出した十本の銀色の鎖が特徴的な姿は大罪の力を封じることができる者《もの》の証《あかし》。
『|大罪の力を封じる者《トリニティバインダー》』。
その力で、ミノリ(吸血鬼)とカオリ(ゾンビ)の大罪の力を封印してきた。
ミノリの大罪は『強欲《ごうよく》』。
カオリの大罪は『憤怒《ふんぬ》』。
彼は、この二人の大罪をこの身に封印することで二人の命を救ってきた。今回もそれは変わらない。
彼は全力で走り、その拳《こぶし》を【キミコ】に当てようとしている。
彼の表情からは迷いなど微塵も感じられず、ただその一撃《いちげき》をぶつけることしか考えていないかのように見えた。
歯を食いしばりながら、ただその一撃《いちげき》に全力を込めるその姿は【主人公《ヒーロー》】であった。
「くらいやがれ! ロリ巨乳の【キミコ】!!」
「誰がロリ巨乳じゃ! 人間|風情《ふぜい》が調子に乗りおって。『カメレオン』と『チーター』、そして『コモドオオトカゲ』の力で、お主を冥府《めいふ》に送ってやるわああああああああ!」
【キミコ】の姿が彼の前から消え失せたかと思うと、立方体の壁や床を【キミコ】が縦横無尽《じゅうおうむじん》に移動している音が聞こえた。
俺はその場で急停止すると目を閉じた。
彼女の動きを認識するためである。
視覚に頼るのではなく、聴覚に意識を集中して相手の動きだけでなく、呼吸音にも気を配る。
そうすることで、より確実に相手の動きを知ることができる。
「そこだあああああああああああああああああ!!」
背後から来ると思った俺は、十本の鎖を一斉《いっせい》に、その方角に動かした。
「残念……。ハズレじゃ。惜《お》しかったな、人間」
その時、俺の腹部に激痛が駆け巡った。
俺は、いつのまにか吐血《とけつ》していた。
その後、ゆっくりと腹部を見ると、大きな穴が空《あ》いていた。
「センザンコウの鉄壁の鎧《よろい》とカメレオンの透明化。チーターの足とコモドオオトカゲの猛毒。妾《わらわ》には今のところ、七つの力があるが、もうすぐ死ぬ運命にあるお主《ぬし》には特別に残りの三つの力を教えてやろう」
「好きに……しやがれ」
「では、そうさせてもらおう」
俺は【キミコ】に背を向けたまま、話を聞くことにした。
「まず、お主の腹に空《あ》けたその大穴は、何を隠そうゴリラの力によるものじゃ。コモドオオトカゲの猛毒はその後、その穴に垂《た》らしておいた。だから、どちらにせよ、お主は助からない。まあ、さすがのお主もコウモリの超音波には気づけなかったようじゃな。まあ、コアラの力で眠らされた時点で、お主《ぬし》の負けは確定していたがな」
「道理で……当たらない……わけだ。完敗……だな」
「さて、そろそろ一時《いっとき》でも妾《わらわ》に立ち向かった勇者の名を訊《き》いておこうかの」
「……ナオトだ。本田《ほんだ》……直人《なおと》」
「そうか、では、ナオトよ。永遠《とわ》に眠るが良い」
「チートでロリ巨乳なキツネの巫女《みこ》に殺されるとはな」
俺は膝《ひざ》から倒れた。
その直前、立方体の外からは聞こえないはずのシズクとチエミの声が……俺の脳内に響いていた。
*
「久しぶりね、ナオト。会いに来てくれたのは嬉しいけど、もうちょっと早く来れなかったの?」
横になったまま、俺は答える。
「ここにいるってことは、お前が何かしたってことなのか? サナエ」
「ええ、そうよ。ついでに言うと、貴方《あなた》が持っている銀の甲羅の機能を停止させているのも私よ」
「何でそんなことしたんだよ。ミサキが俺のために持たせてくれたのに……」
「二人だけの時間を邪魔されたくなかったから、いいの!」
「……お前な」
「それでどうするの? 覚醒《かくせい》する? それとも諦《あきら》めて私と暮らす?」
「俺がなんと答えるかを知っている上で訊《き》いているのか?」
「ええ、そうよ」
「……俺は……戻らなくちゃいけない。ここにずっといたら留守番をしているミノリたちが不安になるし、目の前で俺がやられるのを目の当たりにしたシズクとチエミを放っておくわけにはいかないから」
「……そう……。じゃあ、とっとと貴方《あなた》の中にいる鎖《くさり》の真名を聞き出しなさい。そうしないと戻った時に即死するわよ?」
「分かった。おい、『|力の中心《センター》』いるか?」
「我が真名は『アメシスト・ドレッドノート』だ」
「早《はえ》えよ……というか、いつから聞いてたんだ?」
「気にするな。早く戻るぞ、我が|主《あるじ》よ」
「はいはい……というわけで、またな『サナエ』」
「ええ、また会いましょう。ナオト……」
こうして俺は『サナエ』がいる『暗黒楽園《ダークネスパラダイス》』を、あとにした。
さて……第二ラウンドを始めるとするか!
次こそ【チロコ】をぶっ飛ばす!
※チートでロリ巨乳の狐《きつね》の巫女《みこ》の略《りゃく》。