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第5章:裏切りと崩壊
教室に入った瞬間、胸の奥に冷たい感覚が走った。
今日も、昨日と同じく空席が目立つ。だが、今日はそれだけではない。机の端に、置かれていたはずの荷物が見慣れぬ場所に動かされている。誰かがここにいた形跡はあるが、本人はもういない――そんな感覚が、俺の胸をざわつかせた。
「紫苑……ちょっと話そう」
背後から声がした。振り返ると、クラスの中心的存在で、普段から人気のある**蓮(れん)**が立っていた。俺は警戒しつつも頷く。これまで大樹や美月、優輝と信頼してきた仲間が次々に消える中、蓮だけが残っていることが、わずかな希望でもあったからだ。
屋上に向かうと、夕陽が教室を赤く染めていた。風が吹き、影が長く伸びる。蓮は遠くを見つめ、黙ったままだった。
「……どうした?」
俺は問いかけるが、返答はない。
突然、蓮が振り返り、冷たい目で俺を見た。
「紫苑……君、一人で抱え込みすぎだ。もう……俺たちのこと、信じない方がいい」
言葉が胸に突き刺さる。信じられるはずの人物からの裏切り――その現実が、胸を凍らせた。
「裏切り……?」
俺は声を震わせた。蓮は小さく笑い、歩みを止める。
「そうだ。クラスの連中、もう誰も戻らない。君も、もう気づいているだろう?」
蓮の言葉に、俺の視界が揺れる。希望は、まるで砂のように指の間から零れ落ちていく。
その夜、家に帰る途中、ふと空を見上げると、月が赤く染まっていた。
「こんな月、見たことない……」
独り言を漏らす。街灯の下で、影が長く伸び、まるで俺を追い詰めるかのように揺れる。
帰宅しても、家の中は静まり返っていた。母も父もいない。部屋に一人取り残された俺は、胸の奥の不安が重くのしかかる。消えた友人たち、裏切った蓮、そして自分自身――逃げ場はどこにもない。
次の日、教室に行くと、さらなる異変が待っていた。欠席していたはずの美月が、突然現れたのだ。しかし、目は虚ろで、まるで人形のように動かない。声をかけても反応はなく、机に座るだけだった。
「美月……?」
俺は恐怖で声を震わせる。美月はゆっくりとこちらを向き、かすかに微笑んだ――それは以前の温かい笑顔とはまるで違う、冷たく不気味な笑顔だった。
その瞬間、胸の奥が締め付けられ、全身の力が抜ける。これまで守ろうとしてきた希望は、すべて崩れ去ったのだ。
放課後、屋上に出ると、蓮が一人、影のように立っていた。
「これ以上は……無理だ」
俺は声にならない声を漏らす。蓮は何も答えず、ただ風に吹かれるように立ち尽くす。空に浮かぶ赤い月が、俺たちを冷たく見下ろしているようだった。
その夜、夢に消えた仲間たちが現れる。手を伸ばすが、触れられない。声をかけても反応はなく、夢から覚めても胸の奥の空虚感は消えない。
俺はようやく理解した。もう、戻ることはない。誰も戻らない。希望も、友情も、笑顔も、すべては消え去った。
そして、俺は孤独の中で、最後の絶望をかみしめる。
教室の空席、家の静寂、街の沈黙――すべてが俺を取り囲み、逃げ場のない牢獄のようだ。
絶望は日常の隙間からじわりと忍び込み、胸の奥で膨らんでいく。もう、誰も信じられない。
もう、何も信じることはできない――。