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第6章:絶望の終焉
教室に入った瞬間、空気の重さに息が詰まった。
昨日までかすかに残っていた人の気配は、すべて消えていた。残るのは俺、紫苑だけだ。机に並ぶ空席は、まるで墓標のように並び、かつて笑い声があった場所の跡をただ静かに示している。
窓の外を見ても、校庭には誰もいない。鳥の声も、風のざわめきも、昨日の屋上の微かな足音も、すべてが消えた。世界は静まり返り、時間だけがゆっくりと流れているように感じられる。
「……やっぱり、俺だけか」
小さく呟く。声は虚空に吸い込まれ、反響すら返らない。胸の奥の重さは、日に日に増していく。
教室の中を歩き回ると、壁の掲示物や机の落書きが、まるで自分を嘲笑うかのように歪んで見える。誰もいないはずなのに、空席の向こうに影が立っているような気がして、視線をそらせない。
昼休み、屋上に出る。風が吹き、空は青い。けれど、胸の奥は真っ暗だ。赤い夕陽が差し込む教室を思い浮かべる――昨日までの笑顔は、すべて幻だったのだろうか。優輝も、美月も、大樹も、蓮も……。もう誰もいない。残されたのは、俺だけ。
歩くたびに、影が自分を追ってくる。足音を立てても、誰も反応しない。声を出しても、誰も返事をしない。呼吸を整えようとしても、胸の奥の重圧は和らぐことなく、骨の奥まで染み込んでいく。
帰宅すると、家の中も静まり返っていた。母も父も、もう帰ってこない。テレビもラジオも、俺に語りかける声はない。携帯も、メールも、LINEも、無音のまま。世界は完全に孤立し、俺だけが置き去りにされている。
夜になり、ベッドに横たわる。天井に映る影が、ゆっくりと揺れている。夢に、消えた友達たちが現れる。手を伸ばすが、触れられない。声をかけても、反応はない。夢から覚めても、胸の奥の空虚は消えない。
翌日、学校に行くと、教室はさらに荒れ果てていた。机は倒れ、掲示物は破れ、黒板には何者かの手書きの文字が残っている。そこにはこう書かれていた――
> 「誰も戻らない」
俺はそれを見て、全身の力が抜けた。誰もいない、誰も信じられない、希望も笑顔も、すべてが消えた世界。
胸の奥に広がる絶望は、底知れず深い。振り返っても、誰もいない。進もうとしても、道は閉ざされている。
そして理解した。
これまでの出来事、すべてが避けられなかった運命だったのだと。優輝の事故も、美月の欠席も、大樹や蓮の裏切りも、連鎖する消失も――すべては俺を一人にするために起きたことだ。
日が沈み、窓の外の街灯が点く。月は赤く染まり、教室を冷たく照らす。光はあるのに、温もりはない。影だけが長く伸び、俺を見下ろしている。
「……俺は、もう……」
小さく呟く。声は届かない。叫ぼうとしても、空虚な音だけが教室に響く。誰も応答しない。誰もいない。
そして、世界は静かに閉じていく。
沈黙だけが残され、紫苑――俺――は一人きり。笑顔も希望も、友情も、すべては灰になり、風に散った。
絶望は、もはや胸の奥だけではなく、世界そのものに染み渡る。
誰も救えず、誰も戻らず、俺だけが残る――それが、運命だったのだ。
俺は机に突っ伏し、目を閉じる。
そして、何もかもが消えた教室の中で、沈黙が永遠に続く。