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公式戦 決勝戦、そこに現れた三人の魔族。
生きた英雄や、魔族戦争参加者たちの力を持ってしても、誰一人として打ち倒すことは出来なかった。
以前にもカナリアを通じて現れた四天王、雷の使徒 セノ=リューク、その配下だった、岩魔法使いの魔族、シグマ=マスタング、風魔法使いの魔族、ルルリア=ミスティア。
しかし、試合外でも、魔族は潜入していた。
灰人という、謎の力を解放したヒノトは、傷は全て癒えていたが、身体が麻痺し、三日三晩眠り続け、やっと気が付き、フラフラながらも歩けるようになった。
「で、その後どうなったんだ……?」
ヒノトの看病に来ていたのは、リオンだった。
「カナリアも……魔族化され、連れて行かれた……」
その言葉に、ヒノトは絶句する。
やはり、レオたちの眼光が変わった時、大きな物音を立てたのは、カナリア・アストレアだった。
リオンの話では、リゲルら風紀委員たちと、駆け付けたリオン、グラム。そして、医療班に居ながら、魔族戦争参加者だった医療班長を元に交戦を続けていたが、たった一人の実力者ではカナリアを止めることが出来ず、セノ=リュークが現れて連れて行かれたと話した。
リゲルは、大号泣し、自身の無力さに打ちひしがれ、伝播するように、他の風紀委員メンバーも、その後も暫く泣き続けていたと言う。
そんな中、国王は公式戦参加者を集め、選抜式を行うことはせず、速やかに全員を解散させた。
「ヒノト、君は、リリム、グラム、リゲルと共に、シルフ班として異邦人の国、倭国へと向かうことになる」
それは公式戦前夜に、レオから言われていたことだった。
しかし、そんな言葉に、少し引っ掛かる点がある。
「リオンは…………?」
「僕は、お父様……国王ラグナ・キルロンド班として、エルフ族の国、エルフ王国へと行く」
その目付きは、以前のリオンのものではなかった。
握り拳を握り締め、鋭い目付きをヒノトに向けた。
そんなヒノトが掛けられる言葉は一つだけだった。
「レオも……カナリアも……絶対に取り戻す…………!」
「その為に、キルロンド王国の王子として……一人の戦士として、僕も強くなる…………!」
そう言い残し、リオンは去って行った。
昼過ぎ、医療部隊は昼休憩や、警備の交代に向かったりなどバタバタし、ヒノトは呆然と空を眺める。
(あの力…… “灰人” って話してたよな…………)
ヒノトには、灰人になっていた時の記憶が残っていた。
(あの力……父さんは『他人の魔力を自分の力にする』って言ってたけど、具体的に誰のをどう使えるとかってのは全然分からなかったんだよな…………)
覚えてはいるが、どう灰人となったのか、他人の魔力をどのように扱ったかは、全然分からなかった。
そんな、呆然と空を見上げ、身体の安静と、早く強くならなければと焦る気持ちが混濁する中 ――――
ひょこっ
「えっ……?」
窓の外から、ヒノトを見遣るのは、青緑色の瞳を宿し、長い白髪を靡かせた少女だった。
「女の……子…………? じゃなくて…………!」
そう、白髪…………と言うことは、
「魔族か…………!?」
咄嗟に臨戦態勢を取ろうとするが、身体にうまく力が入らず、ヒノトはベッドから転げ落ちる。
「君があの時の灰人のヒノトくん!?」
すると、満面の笑みで顔全体を窓から覗かせた。
「私、ルルリア=ミスティア! ソルくんを魔族化させたの、私だよ!! 覚えてる?」
「お、お前……ま、魔族でいいんだよな……!?」
「あははっ! ヒノトくん面白い! 今そう言ったばかりじゃん! そう、魔族幹部の正真正銘の魔族!」
そう言うと、ルルリアは無邪気な顔で笑った。
ヒノトは、警戒をしつつも、何が起きているのか分からずに身を硬直させてしまった。
「そ、その魔族が……何の用だよ…………!」
威圧しつつも、現状戦える状態にないヒノトは、ルルリアを前に質問で迫る。
「ヒノトくんに会いに来ただけだよ?」
「は……? 俺に会いに……? なんで…………」
すると、ルルリアは目を輝かせる。
「私、ヒノトくんに一目惚れしちゃったの〜!!」
「え、あ、は!? お前、魔族だろ……!?」
「魔族だよ。でも関係ある? 誰かを好きになるのに、種族って関係なくない?」
そう言いながら、ルルリアは無遠慮に窓から入り込み、立ち上がれないヒノトの前で座り込む。
(コイツは、確かシルフさんと貴族院代表……ロス先輩とグロス先輩の四人でも勝てなかった魔族…………!)
薄らとした記憶を巡らせ、警戒をし続けるが、今の現状に武器もなければ、臨戦に応じれる体力もない。
苦い顔を浮かべるヒノトに対し、魔族、ルルリア=ミスティアはニコニコと笑っていた。
(俺も魔族化させに来た……? いや、灰人の力を利用? 全然わかんねぇ…………クソッ…………!)
そんな中で、窓の外にもう一人の影が現れる。
「お前はホント……勝手が過ぎるぞ」
そこに現れたのは、新手の魔族、四天王、雷の使徒 セノ=リュークだった。
「お前は…………四天王の…………!!」
その光景に、ヒノトは更に目を見開く。
「あぁ、やはり動けないか、ヒノト・グレイマン」
そう言うと、セノもルルリアと同じように、何の警戒心もなく病室へと入って来た。
「お前ら…………! レオとカナリア、ソル先輩を返せよ!! 今度は何を企んでるんだ!!」
声を荒げるヒノトに、セノは溜息を一つ溢すと、ルルリアの頭を、パシンッ! と叩いた。
「痛いです……」
「コイツが無断でお前のところに来た。それだけだ」
「は…………?」
呆然とするヒノトに、セノは鋭い目を向ける。
「驚くのも無理はないだろう…………。だが、本当に今回は潜入でも何の企みもない。コイツの勝手な暴走で、俺はコイツを迎えに来ただけだ。戦えないくせに、そのチャチな警戒だけするの、やめなよ」
戦えない身体の中でも、警戒を緩めずに威圧的な態度を示すことをしっかり把握されており、殺されるかも知れない緊張感の中で、多少の恥ずかしさを感じる。
「まあでも、歯向かって来ない静かな時間もいい。少し、話をしてみないか? ヒノト・グレイマン……」
「話…………? 誰がお前ら魔族なんかと……話すことがあるかよ…………!」
ヒノトが起き上がろうとした瞬間、ヒノトは思い切り重力に押し潰される。
“闇魔法・彼岸”
その魔法に、ヒノトは目を見開く。
「自分のパーティメンバー……リリム様の魔法を使われて……。でも僕たちは魔族だ。簡単な闇魔法なら代償なしで使えるに決まっているだろ?」
そのまま、ヒノトを重力で圧し続け、座る。
「君は今、自分の状況を理解できているはずなのに、僕たちが手を出さないからと言って、図に乗りすぎだ。君に拒否権はないし、太刀打ちもできない。何もしないと言っているのだから、黙って話を聞け」
そう言うと、ヒノトへの闇魔法を解いた。
ヒノトは少し距離を置きながらも、静かに座った。
「私はこっちすーわるっ!」
ヒノトが何も出来ないことをいいことに、ルルリアはヒノトの真横を陣取り、ニコニコと腰を掛けた。
こうして、ヒノトと魔族たちの会談が始まった。