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酔った弾みなのか。

弾みだったのか。


じゃあ、まあ、いいか。

いやいや、よくないぞ、と思いながら、次の日、京平は専務室でウロウロと歩き回っていた。


なんせ、相手は御堂だからな。

女なら、ああいうタイプにキスとかされたら、ふらふらっと行ってしまうんじゃないのか?


そんなことを考えていると、ノックの音がして、

「失礼します」

と祐人が入ってきた。


「御堂。

お前……」


「すみませんでした」

と先に祐人は謝ってくる。


「さっき、坂下から聞きました。

この度はいろいろとご迷惑をおかけしまして」

……御堂。

お前にとって、のぞみとのキスは、そんな取ってつけたような謝罪の言葉ですまされる程度のものなのか?


ホッとするような。

俺はあれだけ迷って、のぞみにキスしたのに、と思うと、ちょっと腹立つような。


などと考えていると、祐人は、

「坂下はまだ、専務とのこと迷ってるみたいなんですけどね。

お前には過ぎた相手だ、観念しろ、と言っておきましたから」

とあっさり言ってくる。


「……そうか。

ありがとう」


何故、俺は勝手にのぞみにキスした男に、礼を?

と思ったが、祐人は、いえ、と言って、仕事の報告をすると、


「では、失礼します」

と言って、さっさと出ていってしまった。


……終わったのだろうかな、これで、この一件は。


そうなんだろうな。

御堂は特にのぞみに興味はないようだし。


のぞみも俺の方がいいと言ってくれた。

ちょっとムカつくが、今回の件で、のぞみも俺に告白らしきものをしてくれたわけだし。


御堂は失いたくないくらい優秀な部下だ。


よし、これで終わりにしよう。

今度、なにかの呑み会で、酔った弾みで、一発殴るくらいは許されるだろうしな。


よし、終わりだ、終わり、と京平は気持ちを切り替えようとした。




終わりか。


……本当に?

とちょっと思ってしまったのが、何故なのか、自分でもわからなかったが。



あ、祐人。

ちょっとめんどくさい仕事を終え、ホッとしながら、階段を上がってきた万美子は廊下に祐人の姿を発見した。


ちなみに、階段を上がってきたのは、プロポーションを保つため、出来るだけ階段を使うようにしているからだ。


「ゆ……」


祐人の姿を見るだけで、疲れが吹き飛ぶわ、と思いながら、声をかけようとしたのだが、祐人は資料室のドアを開けかけたまま、何処かを見ている。


その視線の先では、給湯室の前で、のぞみがお局様に叱られていた。


のぞみは、ぺこぺこ、笑いながら詫びているのだが、傍目に見ていると、

いや、あんた、本当に真面目に叱られてんの?

という感じだ。


やがて、お局様は、のぞみの何かに釣られたように笑い出した。


そのまま二人で、話しながら秘書室の方に行ってしまう。


「で、駅前のクレーンゲームはですね……」

というのぞみの声が微かに聞こえてきた。


いや、あんた、お局様になんの話してるんだ、と思ったとき、斜め前に居た祐人がのぞみの方を見ながら、少し笑った。


……なんだろう。

なにか気になるな、と思ったとき、祐人が振り向いた。


「万美子、サボリか?」

「な、なんで人の顔見たら、サボリって決めつけんのよっ」


「俺はサボリだ。

資料室でちょっとゆっくりしようかと。


ストレスが解消できるとコンビニが言っていたチョコレートだ、お前も食うか」

とチョコの箱を差し出してくる。


いや、コンビニが言ってたわけじゃないんじゃ、と思いながらも、

「……ありがとう」

と受け取り、二人で資料室に入る。




万美子が、祐人と二人でサボれたので機嫌よく秘書室に戻ると、のぞみが鼻歌まじりにキーボードを叩いてた。


「ねえ」

と側に行って、呼びかける。


「さっき、お局……

新田さんと、なに話してたの?」

と訊くと、


「ああ。

なんか給湯室の掃除について叱られてたんです」

とのぞみは言った。


「……クレーンゲームがどうとか聞こえたんだけど」


「お掃除の話から、私がクレーンゲームでとったお掃除ロボットの話になったんですよ」

そう言い、のぞみは笑う。


「あるの? クレーンゲームでそんなの」

「六千円くらい突っ込みましたかね~」


「……もっと他のことにお金使いなさいよ」


などと話していると、珍しく、京平と常務が一緒にやってきた。


秘書室長と常務が話しているとき、チラ、と京平がのぞみの方を見た。

のぞみは照れたように俯く。


専務と付き合ってるとかいう話は、本当だったのか。


じゃあ、祐人はやっぱり関係ないか、と思って、その場を離れようとしたとき、

「永井さん」

と後輩の男の子が恥ずかしそうに話しかけてきた。


丁寧に仕事を教えてあげ、にっこり微笑むと、真っ赤になって去っていく。

すると、下からのぞみが言ってきた。


「不思議ですよね~。

人はどの段階から、いい女になるんでしょうか。


永井さんにも子どもの頃とかあったわけですよね?

子どもの頃からこんな色っぽかったり、いい女だったりするわけではないと思うので。


一体、人生のどの段階で、こんな風に変わるものなんでしょうね。


……私は変わるタイミングを失ったままみたいなんですけど」


そう言うのぞみは、真剣に悩んでいるようだった。


そういえば、自分でも、どの辺りで、大人の女に変わったのかわからない。


化粧をしたからとか、服装が大人のそれになったから、とか言うのではなさそうだが。


「なんだかわかんないけど、ゆっくり変わっていったのよ。

あんたもゆっくり変わってってるのかもよ。


……まあ、あんたに関しては、変わらないままの方が、いいような気もするんだけどね」

と祐人とキスした女だが、ちょっと仏心を出して言ってみた。


「そうなんですかね~?」

とのぞみは小首を傾げながら言ってくる。


「ところで、永井さん、鹿子かのこのうちは、和菓子屋だって知ってました?」


「……あんたの話はなんでそう、ポンポン飛ぶのよ」


なにか悩んでたんじゃなかったのか、と思いながら言うと、

「いえ、来週、月一の特売日があるんですよ。

ご一緒にどうかと思いまして」

とのぞみは笑って言ってくる。


「はいはい、行くわよ」

と返事をしたとき、また、チラ、と京平がこちらを見たのに気がついた。


……ラブラブだな。


専務、のぞみをガッチリ捕まえて離さないでくださいよね、と思いながら、京平を見つめていると、のぞみが心細そうな顔で見上げていた。


「いや、興味ないからっ。

あんたの専務にはっ」

と小声で訴える。


祐人のデスクは、のぞみのすぐ側だが。


仕事で出ていて、まだ戻ってきてはいなかった。




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