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え……ここは…どこ?迷ったのかしら
逃げなきゃ!早く早く!村まで!
曲がるところを間違えた?
確認したくても、スミレは立ち止まる訳には行かなかった。
逃げなきゃ、急いで!
振り返る余裕はない。
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えになりながら、スミレは必死に走り続けていた。
雑草の生い茂る道なので、ザクザクと走る度に音がする。草を踏みしめ進んでいくうちに、
いつの間にかコツコツという固い音に変わっていた。
「はぁ…はぁ……はぁ……もう、無理……」
スミレの体力は、限界に近づいていた。勢いよく振り返り、背後を確認する。
誰も追いかけてきてない。
逃げ切れた……。良かった……。
スミレは、ほっと胸を撫で下ろすと、走るのをやめて歩き出す。
ふと足元を見ると、草道ではなく固い道を歩いていた。
固い道一一絵画で見た街道とも違う黒っぽい道だ。
もしかして、山を抜けて隣国まで迷いこんでしまったのかもしれない。どうしよう。
いつの間にか霧が立ち込めており、周囲の景色が見えなくなっていた。
どうしよう……。
闇雲に動き回っても、視界が開けそうにない。
立ち止まると、まるでスミレの身体にまとわりつくように、霧が濃くなる。自分の身体さえ見えなくなった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう
怖い……。
スミレはぎゅっ、と目を閉じて、両腕で自分の身体を抱きしめると、脱力して膝から崩れ落ちた。
すると、突然背後から突風が吹いてきて、地面に押し倒される。
「痛っ!」
受け身が上手く取れずに、顔の左側を地面に擦りつけていた。
「いったーい!」
恐る恐る顔に手を当てると、少しだけ血がついた。
「もぅ、最悪……」
最悪な気分で、泣き言をつぶやきながら立ち上がる。ふと、視線を上げると、目の前に真っ白な扉があった。
「え?扉?さっきまで何もなかったのに?」
不思議に思いながらも、スミレは ノックしようと扉に手を近づける。
スミレがノックする前に、 ゆっくりと扉が開いていった。
見えない誰かに、「どうぞ」と言われたように感じた。
スミレは、誘われるように中へと足を踏み入れていた。
「あ、あのぅ、どなたかいらっしゃいますか? 道に迷ってしまって…お、お邪魔させていただきます!」
バタンと、 後ろで扉が閉まる音がしたので、閉じ込められるのではないかと不安になる。
振り返って確認すると、 施錠されていない。
ほっと胸を撫で下ろし、改めて室内を見回そうとしたスミレは、叫び声を上げる。
「ぎゃぁーーーーーー!」
「どうされました?」
突然、目の前に女性が現れていたのだ。驚いて絶叫するしかない。
「大変失礼致しました。驚かせてしまいましたね、お客様」
「お、お、お客様?」
「はい、ようこそいらっしゃいました。ここはcafeソリュブル。と言ってもインスタントしか置いていないのですが。
コーヒー、ココア、カフェモカ、紅茶どれになさいますか?今日のおすすめはカフェモカです。
と言っても、コーヒーとココアを私流に混ぜてるものですが、勿論インスタントです。意外と美味しいのですよ。いかがでしょうか?」
にこにこと早口で説明しているのは、このお店の店員らしき中年の女性。
黙っていると穏やかな雰囲気なのに、話し出すと明るくハキハキとした口調で、一言で表すと、元気な人。
さっきまで泣きそうになっていたことも吹き飛ぶくらいに、女性のペースに呑まれそうになっていた。
何か飲み物を飲んで、ひとまず気持ちを落ち着けよう。
手持ちは寂しいけど、道も尋ねたいし、一番安い飲み物をいただこうかな。
スミレは、ポケットに入れたお金を確認しながら考えをまとめた。
「あの、おいくらですか?お恥ずかしい話ですが、あまり、手持ちがなくて…」
「お代は結構です」
「え?そんなっ」
「あぁ、タダということではありませんよ。お金の代わりにあなたのお話を聞かせてください。飲み物を飲み終わるまで。
飲み物は━━おすすめのカフェモカでよろしいでしょうか?」
「は、はいっ。その、カフェモカ?というものを飲んだことがないもので…」
「あなたは……なるほど。私と違う世界の方のようですね。甘すぎず苦すぎず温かい飲み物ですよ。どこでも好きな席におかけになって少々お待ちください」
店内は、どこも真っ白だった。
スミレは、壁際の椅子に腰掛けることにした。
「お待たせいたしました。本日おすすめのカフェモカです。私も向かいの席に腰かけてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
カップには、不思議な色の飲み物が入っていた。
紅茶しか飲んだことがないけれど、都会にはこんな飲み物があるのね。
ふぅ、ふぅ、と息を吹きかけ一口飲むと、
喉から胃へと温かさが広がる。
「美味しい」
初めて飲んだカフェモカは、ほんのり甘くて、温かい。
「ガヴェイン……」
無意識に、遠い昔、いなくなった大好きな彼の名前を呟いていた。
「ゆっくりお飲みなさい。その方は、あなたの想い人なのかしら?」
「想い人……?とても、とても大切な人です。私は、スミレと言います」
気がつけば、涙がスミレの頬をつたっていた。
もうひとくち飲み物を飲むと、スミレは、ここに来るまでの経緯を、訥々と話し始めていた。