「しっかりして!」
ライの呼び掛けはラウロの耳に届かない。
『───⋯ちっ。やっぱりダメか。仕方ねぇ』
突如にして、地に響くような声がラウロの頭に響く。あの黒い世界にいた男の人の声だ。
「あ⋯⋯」
自然と落ち着いてきた。あの時の人が何か僕にしてくれたんだろうか。でも、何かおかしい…。
「ラウロ?」
「誰かが…殺されて……僕の、大切な誰か…」
「「っっ」」
⋯だからラウロはあんなにうなされていたのね。
「ごめんなさい。貴方を見つけてからすぐにポーションを使えばよかったんだけれど、持ってきていなくて」
「ねえアリサ、私たちが面倒見てあげた方がいいんじゃない?」
「そうね。でも、冒険者は続けていけるの?」
2人が留守の間どうすればいいか考えていた時、
「……でも僕⋯僕、強く⋯」
「え?」
「強く、ならなきゃいけないんだ⋯」
ラウロが急に何かを呟き始めた。2人は明らかにおかしいと感じた。目が虚ろに見える。でもしばらく経つと、
「あ、あれ……僕今……」
⋯さっきのは気のせいだったのだろうか。だがこの引っ掛かりはすぐにとれてしまう。
「大丈夫?」
「ライ⋯姉さん⋯アリサ姉さん⋯僕を鍛えて!」
「「姉さっ⋯⋯」」
姉さんと呼ばれた⋯!!
相手は家族を失った子供なのだから、『その呼び方は困る』とか当然言えない。それに、
「「(か、かわいい⋯!)」」
姉さんなどと呼ばれたことは無かったし、プライバシーを無視して説明すると、彼氏も兄弟もいなかった2人にとって、ある意味大ダメージだ。
「そうだ、姉さんたちと一緒に冒険者になったらいいんだ!」
「こほん、でもラウロ。冒険者は命の危険を伴うのよ?」
「そそ、そうだよ!」
「それでも僕はなりたいんだ」
ラウロの意思は変わらず、仕方がなく基礎能力を教えることにした。
「いい?1人で何とかこなせるようになったら1度この街を出てみて」
「自分の力で強くなるのが1番いいんだよ?離れるのは悲しいけどね」
「⋯わかった。でも、姉さん達と肩を並べられるようになったら戻ってきてもいい?」
「もちろんよ」
「うんうん!」
僕は嬉しかった。悲しいことだらけだったから。
⋯あれ、でもどうして冒険者になりたいって言ったんだろ?
強くなる方法がほかになかったから?でもなんで強くならなきゃいけないんだ?⋯まぁいいか。
あの出来事を追うには情報もいるし。
「じゃ、よろしくね、ラウロ!」
「辛くなったらいつでも言って」
「うん、ありがとう!!」
(3日後)
僕は近くの広場で体力づくりからすることになった。
この世界では1人につき『加護』という、いわゆる魔法を使う上の土台みたいのようなものがある。
その『加護』は、10歳にならないと分からないため、(僕は8歳)2年間で身体能力をあげるということだ。
「ラウロ、ほんとにいいの?体はまだ完全に治ってないし、精神的にも⋯」
「大丈夫、美味しいご飯も食べたし」
そう、ここではふわっふわのパンが食べられるのだ。外はカリカリなのに、中は空気が沢山含まれていて、もちもちしている。
硬いパンしか食べたことがなかった僕はびっくりした。ああ、妹のラーナにも食べさせたかったな⋯。父さんと別れた時一緒に行ってしまって、あれから1度も会っていない。
僕の妹は今どこにいるんだろう。
「ならいいのだけれど⋯。無理はしないで」
「うん」
「じゃ、ランニングからかな?」
突然、無理しないでという言葉を無視するかのような提案がだされた。
「ライ、流石にいきなりはダメよ。そうね、ゆっくりでいいから山登り的なのはどうかしら?」
「ウォーキングね!」
「そうそれ。あ、完全回復するまで街を探検してみたら?これなら怪我の心配も無いわ」
探検⋯!とっても気になる。
「行きたい!」
「決まりっ!自由に歩いていってね。気になるものがあったらこのお金で買っていいから」
「念の為これも渡しておくわ」
「なにこれ?」
「ネックレス型の結界魔導具よ。効果は⋯まあ簡単に言うとあなたを守ってくれるものね。」
「ありがとう、アリサ姉さん」
「私達はクエストを受けてくるから。先に帰っててね」
「分かった。行ってきます!」
そう言うとラウロはすぐに行ってしまった。
「⋯あんなに明るかったのね、彼」
「子供だし、そりゃそうだよ。逆に大人しいくらい。無理して抱え込んでないといいけど」
「そうね⋯」
2人が依頼中の間、ラウロはまず出店が立ち並んでいるところを見つけた。
「うわぁ〜!凄い、美味しそうな食べものがいっぱいだ!」
姉さん達に何か買ってあげたいな。
「いらっしゃい!坊や、何がいるんだい?今朝取れたばかりの新鮮な果物ばかりだよ!」
「くだもの?おばさん、いちばん美味しいのある?」
「それならこのマスケットだね。多少の値はつくけど間違いないね」
それは透明度のある黄緑色で、ひとふさに沢山ついている。1粒1粒が丸くて可愛い。まるで宝石みたいだ。
「食べてみるかい?」
「やった!初めて食べるんだ、くだもの⋯⋯!」
「あんた、食べたことないのかい?!大変だ、まけてやるから他のも取っていきな!」
僕がくだものを知らなかったからか、沢山おまけしてくれた。
他にも、くしやきとか、ふくやさんで何故か服をもらった。そうしているうちに僕はだんだん不安になってきた。
お金、全然払ってない。むしろ無料提供されてる、と。
とにかく、なんやかんやでもう持ちきれないくらいの買い物(?)をしてしまった。多少足元がグラグラするが、問題はそこではなかった。
「どうしよう、姉さん達にお土産買ってない⋯」
困った。これだけものがあると買おうにも買うことが出来ない。諦めるか……。それとも1回帰ってから、いや……
「……どうした…んだ?」
「うわっ!」
急に目の前に現れるから、僕はバランスを崩して、手持ちのものを全て手放してしまう。
おばさん達がくれたくだものや服が、次々と宙に浮いて……。
「あぶ……ない」
と言う声が聞こえたと思ったら、僕の荷物を持った子がいた。
「えっと、ごめん。ありがとう」
「どういたし……まして」
「荷物、重いからおろしてもいいよ?」
「わかっ……た」
白い髪に青い目。僕より少し背が高くて、背中に大きな剣をさげている。この子も冒険者なのだろうか。
「僕はラウロ。君は…?」
「ボクは…レオン……」
「レオン、さっきは本当にありがとう。」
「いい……当然の…ことだ。それより…君は……何に困っていた…んだ…?」
どこかぎこちない話し方で僕を心配してくれた。
「ああ、姉さん達にお土産買いたくて、でも何がいいか分からないし」
「……ついて、来て」
「ただいま」
「あっ、おかえりラウロ!どう?楽しかったでしょ?」
「髪も切ってきたのね。スッキリしてていいと思うわ」
「えへへ…。これ、姉さん達に」
僕が取り出したのは2つ。ライ姉さんにはイアリング、アリサ姉さんには髪止めだ。レオンが言うには防御力向上の魔法が付与されているらしい。
「ええっ、いいの?ありがとう!!」
「ありがとう」
「あと、外にも置いてあるんだけど…持ちきれなくて」
ライとアリサが出てみるとそこには山積みの荷物が。
「すごい量ね……」
「ラウロ、これどうなったらこうなるの…?」
「えっと…」
僕は夕飯を食べながら沢山話したのだった。
はい!長くなりましたが読んで頂きありがとうございました!
次(番外編)として、ラウロ、ライ、アリサのイラストを公開します!
レオンはまた今度……
コメント
2件
ふはははは!我、神なり!なんつって 《白》「ふざけるな」 ……コメントありがとうございます!いつも励みになっていて…🙏 今後も頑張ります!!
ライ姉さんとアリサ姉さんが優しすぎる件について!そしてこの面白さ……ああ、ただの神か