「貴女が、戻って来てくれて嬉しいわ」
そう言うと王妃のクロディルドは微笑む。相変わらずの美貌と気品の高さだ。淑女から程遠く、端からなるつもりのないリディアでさえ、憧れの単語が頭を過ぎる。
「王妃様、お久し振りでございます。また、本日よりお世話になります故、宜しくお願い申し上げます」
柄にもなく久々にリディアは緊張する。王妃付きの侍女として城へ来たは、もう六年程前の事だ。その時もこんな風に緊張していた事を思い出す。
酷く懐かしく感じる。あの時は父が亡くなり、そう時間も経っていなかった……。
「さあ、堅苦しいのはお終いよ。今日はリディアが戻って来てくれたお祝いに、沢山お菓子を用意してるの。皆で召し上がりましょう」
クロディルドは、手を叩くと張り詰めていた空気は一瞬にして穏やかなものへと変わった。
少し変わった光景だが、クロディルドと共にリディア達は席に着いていた。普通ならば、主人と侍女が同じテーブルに着くなどあり得ない。
だがこれはクロディルドの拘りで、リディアやシルヴィが侍女になるずっと昔から続けているそうだ。
テーブルには溢れんばかりのお菓子が並べられており、凄い事になっている。
スコーンにクッキー、ケーキにパイ……兎に角考えられる種類のお菓子が集結していた。
「これはまた、量も種類も凄いですね……王妃様」
呆気に取られ、若干引いているのはシルヴィだ。彼女もリディア同様王妃付きの通いの侍女として働いている。クロディルドの侍女は、リディア、シルヴィと後もう一人いる。二人よりも二回りほど歳が離れ城に常駐しているヒルデという女性だ。
「クロディルド様、張り切り過ぎでございます。流石にこの量を四人で食べきりのは些か無理があるかと」
王妃のクロディルドを侍従の者の中で、名前で呼ぶのはヒルデだけだ。その事からして、二人の信頼関係が強い事が窺える。
「あら、やだ。少し多かったかしら?」
少しどころではない、とヒルデもシルヴィも苦笑する。だがリディアだけは目を輝かせテーブルを眺めていた。
「こんなに沢山……美味しそう」
頬に手を当てる姿はまるで恋する乙女だ。
「ふふ……リディアならそう言ってくれると思っていたわ」
嬉々としてお菓子を口に運ぶリディアだが、ここは自邸ではないので淑女を装い、小さくフォークとナイフで切り分けて食べる。正直かなり面倒臭い。ちまちま食べると、気分的に美味しさも半減する様に思えてしまう。
「それにしても驚いたわ、婚約破棄なんて」
話題は予想通りリディアの婚約破棄の話に、自然となった。
「婚約すると聞いた時も、驚いたけれどね。だって、リディアには私の息子達のどちらかと結婚して貰おうと考えていたのよ。だからね、それはもう落ち込んだわ」
意外過ぎるクロディルドの言葉に、リディアは思わず手にしたフォークを落としそうになった。
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