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第二章 遠い空の下で
「離れても、想いまで遠くなるわけじゃない。」
第二十六話 届いた一枚
「会えない時間は、心まで離れる時間じゃない。」
四月。
紬が海外へ旅立ってから、二週間が過ぎた。
新しい制服に袖を通した新入生たちが、
校門をくぐっていく。
去年の自分も、あんなふうに少しだけ
不安そうな顔をしていたのだろうか。
湊は写真部の部室の窓から、
その景色を静かに眺めていた。
部室は変わらない。
古い机も。
窓際に置かれた観葉植物も。
夕方になると差し込む柔らかな光も。
変わったのは、一つだけ。
放課後になっても、
「神崎くん。」
そう呼ぶ声が聞こえなくなったことだった。
*
机の上には、小さな写真立て。
クリスマスの日、紬からもらったもの。
中には、四人で笑っている写真が飾られている。
蓮がふざけていて。
美桜が笑っていて。
紬も楽しそうで。
その隣には、一枚のポストカード。
青い石畳の道。
色鮮やかな花が並ぶ街角。
裏には、見慣れた字で短く書かれていた。
『今日見つけたお気に入りの場所。また一緒に歩けたらいいな。』
その一文を読むたびに、自然と笑みがこぼれる。
*
スマートフォンが震えた。
画面には紬の名前。
《写真送るね!》
届いたのは、夕暮れの街並みだった。
オレンジ色の光に包まれた石造りの建物。
その写真は、日本とはまるで違う景色なのに、
不思議と温かかった。
湊は一枚写真を撮る。
部室の窓から見える、夕日に染まる校庭。
そして送る。
《今日は学校がすごく静かだった。》
数秒後。
返信が届く。
《でも、空の色は同じだね。》
湊は窓の外を見上げた。
遠く離れていても。
同じ空の下にいる。
その言葉だけで、
少しだけ距離が縮まった気がした。
*
「神崎先輩?」
突然、部室の扉が開いた。
見知らぬ一年生が、
おそるおそる顔をのぞかせている。
「写真部って……ここですか?」
湊は少し驚いたあと、小さく笑った。
「うん、そうだよ。」
去年の春。
何も分からず、
この部室の前に立っていた自分を思い出す。
「興味ある?」
「はい!」
その返事に、湊は扉を大きく開けた。
「どうぞ。」
新しい春。
新しい出会い。
物語は、また静かに動き始める。
*
帰り道。
校門を出る前に、湊は桜の木を見上げた。
花びらが風に乗って舞う。
去年、この場所で紬と出会った。
今年は、その姿はない。
それでも。
寂しいだけではなかった。
離れた場所で頑張る人がいる。
だから、自分も前を向こう。
そう思えた。
湊はカメラを構える。
風に舞う桜を一枚。
カシャッ。
シャッターの音が、静かな春空へ溶けていった。
📷 Photo.026『同じ空の下』
撮影日:4月12日
同じ景色は見られなくても、
同じ空を見上げることはできる。
距離は離れても、
想いは、まだここにある。
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大正
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コメント
4件
いえいえー!皆様のおかげですから!ありがとうございます! そうなんですよ! ほんとですか!ならよかったです!
わあ、第26話、読み終えました……! 「同じ空の色」っていうやり取り、すごく優しくてじんわり来ましたね。距離が離れても、紬さんからのポストカードや写真が湊くんの日常にそっと寄り添っている感じがして。それに、去年の自分みたいな新入部員が現れて、「どうぞ」って扉を開ける湊くんの成長も感じられて、すごく温かい気持ちになりました。最後の桜のシャッター音、とても好きです。