テラーノベル
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その夜、六人は近所の居酒屋に集まっていた。
洞窟調査の準備が終わり、家の片づけも一段落した。危険な予定もしばらくなく、全員が久しぶりに何も考えず騒げる夜だった。
「今日は飲むよ!」
メバルが、いつもより元気よく宣言した。
マサカゲが眉をひそめる。
「メバルちゃん、飲みすぎるなよ」
「分かってるってば。私はお酒に弱いから、ちゃんとゆっくり飲むの」
「その台詞を言った日のメバルちゃんは、だいたい途中から別人になる」
カキが笑う。
「カキちゃん、失礼だなぁ。私、ちゃんと自分を管理できるよ」
メバルはそう言いながら、生ビールのジョッキを高く掲げた。
「今日は全員で乾杯!」
「俺は飲まない」
K-Tが即座に言った。
彼の前には、ウーロン茶が置かれている。
「えー、Kさんも一緒に飲もうよ」
「飲まない」
「今日は楽しい日なのに?」
「酒は飲まない」
K-Tはいつも通り、短く答えた。
メバルは少し頬を膨らませたが、すぐに笑顔へ戻る。
「じゃあ、最初はお茶で乾杯しよう。Kさんもグラスを持って」
「それならいい」
K-Tがウーロン茶のグラスを持つ。
六人がグラスを中央に集めた。
「お疲れさま!」
「乾杯!」
グラスが触れ合う。
メバルはビールを一口飲み、満足そうに息を吐いた。
「おいしい!」
「最初の一杯はな」
マサカゲが言う。
「マサカゲちゃんも飲んでるじゃん」
「俺は自分の限度を理解している」
「本当に?」
「本当だ」
カキはすでに二杯目を注文していた。
ミステーは枝豆を皿の上に整列させ、アオノは各自の飲み物を確認している。
「メバルはアルコール耐性が低い。摂取速度を抑える必要がある」
「アオノちゃん、そんなにきっちりしなくていいよ」
メバルは笑いながら、店員を呼んだ。
「すみませーん、ビールもう一つ!」
「メバルちゃん、もう一つ頼むのか?」
マサカゲが聞く。
「私の分じゃないよ。カキちゃんの分」
「俺の?」
カキが目を輝かせる。
「飲む!」
「カキちゃんはさっきから飲んでるでしょう」
「今日は特別だろ!」
「まあ、そうだけど……」
メバルは楽しそうに笑い、次にK-Tの前に置かれたウーロン茶を見た。
「Kさんは、ずっとお茶?」
「そうだ」
「一口だけビール飲んでみる?」
「飲まない」
「おいしいよ?」
「飲まない」
「私と乾杯しても?」
K-Tが黙る。
メバルは、少しだけ上目遣いになった。
「今日くらい、私と一緒に飲んでくれてもいいのに」
マサカゲがすぐに止める。
「メバルちゃん、K-Tは飲まないと言っているだろう」
「でも、せっかくみんなで集まったんだよ?」
「飲まないことも本人の自由だ」
「……そっか」
メバルは一度うつむいた。
だが、次の瞬間には明るい笑顔に戻っていた。
「じゃあ、無理には勧めないよ」
「最初からそうしてくれ」
「うん。無理にはね」
メバルは意味ありげに笑った。
それからしばらく、料理を食べながら会話が続いた。
カキは洞窟の奥にあるかもしれない鉱石の話をし、マサカゲが何度も「まだ調査許可を取っていない」と注意する。
ミステーは刺身のつまを「海の草原」と呼び、アオノは酔っていないはずなのに、注文した料理を栄養素ごとに分類していた。
メバルは二杯目のビールを飲み終えたころから、少しずつ変わり始めていた。
頬が赤い。
声が柔らかい。
そして、仲間との距離が近い。
「カキちゃん、今日はいっぱい食べてえらいねぇ」
「そうか?」
「うん。いつも危ないことばっかりするけど、今日はちゃんと座ってるもん」
「俺はいつも座ってるぞ」
「洞窟の入口では立って走ってただろ」
マサカゲが突っ込む。
「細かいことはいいの」
メバルは笑い、カキの肩をぽんぽん叩いた。
「カキちゃん、もっと飲む?」
「飲む!」
「よし、追加!」
「メバルちゃん、自分のペースを考えろ」
マサカゲが言った。
「大丈夫だよぉ。ぼく、まだ全然酔ってないもん」
全員の動きが止まった。
メバルは自分で自分の言葉に気づき、首をかしげる。
「……あれ?」
「今、ぼくと言ったな」
マサカゲが確認する。
「言ってないよぉ」
「言った」
K-Tが短く答えた。
「Kさんまでぇ……」
メバルは頬を膨らませる。
「ぼくはメバルちゃんじゃないもん。ぼくだもん」
「それは酔っている人の発言だ」
アオノが淡々と告げた。
「アオノちゃん、ぼくを分析しないでよぉ」
「分析は必要だ」
「必要ないの。今日は楽しく飲む日なの」
メバルは自分のジョッキを掲げた。
「みんな、もっと飲もうよ!」
「俺は飲まない」
K-Tが言う。
メバルは、今度はすぐに引き下がらなかった。
「Kさんも飲もう?」
「飲まない」
「ちょっとだけ」
「飲まない」
「せっかく私がお願いしてるのに?」
K-Tはメバルを見た。
すでに彼女の目は少しとろんとしている。
「メバルは酔っている」
「酔ってないよぉ」
「酔っている」
「じゃあ、Kさんが一緒に飲んでくれたら、ぼくは酔ってないって証明できる」
「どういう理屈だ」
マサカゲが呆れる。
メバルは店員から運ばれてきたビールを一缶、K-Tの前へ置いた。
「Kさん、これは私が頼んだ分」
「そうか」
「だから、一口だけ飲んでくれたら、私が責任持って残りを飲むよ」
「メバルちゃん、それは責任を取るとは言わない」
マサカゲが止める。
しかし、メバルはK-Tの前でグラスを持った。
「一緒に乾杯しよう?」
K-Tはしばらく黙っていた。
「……一口だけだ」
「やった!」
メバルの顔が輝く。
K-Tが缶を開ける。
メバルとグラスを合わせ、ゆっくり口をつけた。
「どう?」
「苦い」
「でも、飲めるでしょ?」
「飲める」
K-Tはもう一口飲んだ。
「Kさん、そこまでに――」
マサカゲが言い終える前に、K-Tは缶を傾けた。
数秒後、缶は空になっていた。
「……」
「もう一つ」
K-Tが言った。
カキが目を輝かせる。
「K-T、飲むのか?」
「飲む」
「最初は飲まないって言ってたのに!」
「飲んでしまった」
「それ、理由になってるのか?」
マサカゲが聞く。
K-Tは少しだけ口元を上げた。
「楽しい」
全員が一瞬黙った。
K-Tが自分から「楽しい」と言うのは、珍しかった。
「Kさん、機嫌よくなってる?」
メバルが嬉しそうに聞く。
「そうかもしれない」
「じゃあ、もっと飲もうよ!」
メバルはすぐに追加注文をした。
「メバルちゃん、止めろ!」
マサカゲが言う。
「大丈夫だよぉ。Kさん、強そうだもん」
「強いかどうかの問題ではない」
「でも、Kさんが楽しそうなの、ぼくは嬉しい」
メバルはK-Tの隣へ移動し、肩を寄せた。
「Kさん、もっと飲んでいいよ」
「分かった」
「分かったじゃない!」
マサカゲが叫んだ。
その後、K-Tの飲む速度は、驚くほど速かった。
一缶飲む。
メバルが次を開ける。
K-Tが飲む。
メバルも飲む。
カキが便乗して飲み、マサカゲが止めようとして自分も一杯飲み、ミステーが「液体の麦畑を味見する」と言い出して飲み始めた。
アオノは最初こそ水を飲んでいたが、メバルにグラスを差し出された。
「アオノちゃんも飲もうよぉ」
「私は観察役だ」
「観察しながら飲めばいいの」
「そのような作業手順は想定していない」
「ほら、乾杯」
メバルがアオノのグラスに自分のグラスを当てる。
アオノは数秒考えたあと、少量だけ飲んだ。
「苦い」
「でしょ? でも、楽しいよ」
「楽しさと苦味の因果関係は不明」
「アオノちゃん、もっと飲めば分かるよぉ」
「必要な検証なら、追加する」
「そうそう!」
アオノまで飲み始めた。
マサカゲは頭を抱えた。
「これはまずい。全員、完全にメバルちゃんのペースに引きずられている」
「マサカゲちゃんも飲もう?」
「俺はもう十分だ」
「じゃあ、私が隣にいてあげる」
「それと飲酒量に何の関係がある」
メバルは立ち上がり、少しふらつきながらマサカゲの隣へ移動した。
「マサカゲちゃん、いつも真面目にしてるから疲れるんだよぉ」
「疲れてはいない」
「嘘だよ。顔が怖いもん」
「これは普通の顔だ」
「じゃあ、ぼくが笑わせてあげる」
「メバルちゃん、近い」
メバルはマサカゲの肩に腕を回した。
「マサカゲちゃん、ぼくがぎゅーってしてあげる」
「待て、何を――」
メバルはそのまま、マサカゲに抱きついた。
マサカゲの眼鏡がずれる。
「メバルちゃん!」
「えへへ。マサカゲちゃん、あったかいねぇ」
「これは暑いだけだ!」
「もっと飲む?」
「飲まない!」
「じゃあ、ぼくが飲ませてあげる」
「それはやめろ!」
マサカゲは必死にメバルを引き離した。
しかし、メバルはすぐに別の方向へ向かう。
「アオノちゃーん」
「何だ」
「アオノちゃんも、ぎゅーってしていい?」
「許可する」
「許可するんだ!?」
メバルはアオノに抱きついた。
アオノはまったく動じない。
「接触を確認」
「確認しなくていいよぉ」
「メバルの体温が上昇している」
「それは酔ってるから!」
「呼気からアルコール臭も検出」
「アオノちゃん、今はそういうの言わないで!」
メバルはアオノの肩に頬を寄せた。
「アオノちゃん、機械よりぼくを見てよぉ」
「現在、見ている」
「もっと優しく見てぇ」
「優しい視線の定義が不明」
「アオノちゃんは真面目だなぁ」
メバルは満足そうに笑い、アオノを抱きしめたまま離れない。
K-Tがその様子を見ていた。
手には新しい缶ビールがある。
「メバル」
「なぁに?」
「次は俺と飲む」
「もちろん!」
メバルはアオノから離れ、K-Tの隣へ戻った。
マサカゲがすぐに口を挟む。
「K-T、もう十分だ。メバルちゃんも飲ませるな」
「メバルが勧めた」
「だから断れ!」
「断らない」
「なぜだ」
「楽しいからだ」
K-Tのろれつは、少しずつ回らなくなっていた。
普段の短い言葉が、わずかに伸びている。
「メバル、もっと飲め」
「うん。Kさんもね」
「飲む」
「二人とも止まらないじゃないか!」
マサカゲが叫んだ。
しかし、すでに彼自身もかなり酔っていた。
「マサカゲちゃんも飲む?」
「俺は……飲まない」
「顔が赤いよぉ」
「これは照明だ」
「店の照明は青白い」
アオノが言う。
「アオノちゃん、今それ言う?」
マサカゲは渋々グラスを持った。
「一杯だけだ」
「乾杯!」
メバルが勢いよくグラスを合わせた。
その後、誰も「一杯だけ」を守らなかった。
時間が進むにつれ、個室の中はますます騒がしくなっていく。
カキはテーブルの上の箸をドラムスティックのように振り回したが、メバルにすぐ取り上げられた。
「カキちゃん、食器で演奏しちゃダメ!」
「楽器は持ってないぞ!」
「そういう問題じゃないよ!」
ミステーは枝豆を小皿へ集めている。
「私は今、緑色の財宝を守っている」
「ミステーちゃん、食べていいんだよ」
「宝を食べるのか?」
「枝豆だからね?」
アオノは酔っているのに、空き缶の本数だけは正確に数えていた。
「現在、K-Tとメバルの摂取量は二十本を超過」
「二十本!?」
マサカゲが叫ぶ。
「二人で?」
「二人で」
K-Tは空になった缶を手に持ったまま、上機嫌に笑っている。
「まだ飲める」
「飲めるかどうかじゃない!」
マサカゲが缶を取り上げようとした。
K-Tは反射的に腕を引いた。
その動きがあまりにも速く、マサカゲの手は空を切る。
「K-T、酔ってるのに動きだけ速いな!」
カキが笑う。
「反射神経、通常時より上昇」
アオノが報告した。
「でも判断力は低下している」
「俺は正常だ」
K-Tが言った直後、テーブルの端に置かれていた自分の水をビールと間違えた。
飲んでから、少し考える。
「……水だ」
「当たり前だよ!」
メバルが笑い出す。
「Kさん、今度はちゃんとビールだよぉ」
メバルはビールのグラスをK-Tへ渡した。
しかし、自分の手元に残ったのは水だった。
それに気づかず、メバルも一気に飲む。
「……あれ?」
「どうした?」
K-Tが聞く。
「これ、水……」
「そうだな」
「私のビール、どこ?」
K-Tが自分の手元を見る。
「俺が持っている」
「交換しちゃった?」
「そうかもしれない」
「じゃあ、Kさんのをぼくが飲むねぇ」
「メバル」
K-Tが呼び止める。
しかし、メバルはすでにK-Tのグラスを持っていた。
「乾杯しよ?」
「乾杯」
二人はまた飲み始めた。
マサカゲは、ついに説教する気力もなくなっていた。
「……誰か、二人を止めてくれ」
「止める必要がある?」
アオノが尋ねる。
「ある!」
「しかし、全員が飲酒を継続している」
「だからこそ止めるんだ!」
「マサカゲも継続している」
「俺は……」
マサカゲは自分のグラスを見た。
「……俺も飲む」
「マサカゲちゃん、えらい!」
メバルがまたマサカゲに抱きつく。
「えらくない!」
「ぼく、マサカゲちゃんのそういうところ好きだよぉ」
「メバルちゃん、酒臭い!」
「アオノちゃんも好き」
「私も?」
「うん。大好きぃ」
メバルはアオノにも抱きついた。
アオノは抱きつかれたまま、何の抵抗もなくグラスを飲んでいる。
「アオノ、助けてくれ」
「私は現在、メバルに拘束されている」
「その言い方はやめろ!」
カキがテーブルに突っ伏した。
「俺、眠い……」
「カキちゃん、寝ちゃダメだよぉ」
メバルが声をかける。
「メバルちゃんが飲ませるからだろ……」
「えー? だって楽しいもん」
メバルはふらりとK-Tの隣へ戻った。
「Kさん、もっと飲もう?」
「飲む」
「Kさんは素直だねぇ」
「メバルも素直だ」
「ぼく、素直?」
「素直だ」
K-Tは上機嫌で笑い、メバルの肩に腕を回した。
「メバルは、仲間を大事にする」
「うん。大事だよぉ」
「でも、飲ませすぎる」
「だって、みんなと一緒に酔いたいんだもん」
メバルの声が少し小さくなる。
「ぼくだけ酔って、みんながしっかりしてるのは寂しいの」
K-Tはしばらくメバルを見つめた。
そして、缶を置いた。
「なら、俺も酔う」
「もう酔ってるよぉ」
「まだ足りない」
「Kさん、それはダメ!」
マサカゲが反応した。
だが、その声にも力がない。
「今日は、もうやめろ」
「マサカゲちゃんも酔ってるじゃん」
「酔っていても止める」
「えらいねぇ」
メバルはまたマサカゲの肩へ腕を回した。
「でも、今日はぼくの言うこと聞いて」
「聞かない」
「一緒に飲もう?」
「……一杯だけだ」
「やったぁ!」
マサカゲは自分で自分の首を絞めたことに気づいていない。
深夜を過ぎるころには、全員が完全に酔っていた。
カキは椅子にもたれて眠り、ミステーは枝豆の小皿を抱えている。
アオノは酔っても表情がほとんど変わらないが、同じ水のグラスを何度も確認していた。
マサカゲはメバルに肩を抱かれたまま、「明日から飲酒管理表を作る」と繰り返している。
メバルはK-Tの隣に座り、頬を真っ赤にして笑っていた。
「Kさん、楽しいねぇ」
「楽しい」
「ぼく、みんなのこと大事だよぉ」
「知っている」
「Kさんも?」
「大事だ」
K-Tの返事は、ろれつが回っていなかった。
だが、言葉の意味ははっきりしていた。
「じゃあ、もう一回乾杯!」
メバルがグラスを掲げる。
K-Tもグラスを掲げた。
マサカゲ、アオノ、カキ、ミステーも、それぞれふらつきながらグラスを持つ。
「これで最後だよぉ」
メバルが言った。
「本当か?」
マサカゲが聞く。
「本当、本当」
全員がグラスを合わせた。
「乾杯!」
その直後、メバルがふらりとK-Tへ寄りかかった。
K-Tも同じ方向へ傾いた。
二人はそのまま肩を寄せ、互いに笑った。
「Kさん、ホテルに泊まらないとダメだねぇ」
「帰れない」
「うん。今日はみんなでホテル」
アオノがスマートフォンを取り出す。
「近隣ホテルを検索する。六人で宿泊可能な部屋を確保する」
「アオノちゃん、えらい……」
「酔っているが、業務は遂行可能」
「すごいねぇ」
メバルはアオノに抱きついた。
「アオノちゃん、ホテル探してくれてありがとぉ」
「どういたしまして」
「メバルちゃん、アオノに抱きついたまま寝るな」
マサカゲが言う。
「マサカゲちゃんにも、あとでぎゅーってするねぇ」
「私はもういい!」
「じゃあ今する」
「今じゃない!」
メバルが笑い、マサカゲに再び抱きつく。
マサカゲは抵抗しようとしたが、酔いで力が入らず、そのまま椅子の背もたれへ沈み込んだ。
K-Tは立ち上がった。
「行く」
「Kさん、ふらついてるよ」
「問題ない」
「今日はその言葉、何回目?」
「分からない」
K-Tは数歩進んだ。
途中、店員が通路に置いた小さな看板に足を取られそうになる。
しかし、K-Tは瞬時に体勢を戻し、看板を片手で受け止めた。
「危険」
店員が驚く。
K-Tは看板を元の位置に戻した。
「問題ない」
「だから、問題あるってば!」
メバルが叫んだ。
結局、ホテルまでは全員で移動することになった。
マサカゲはカキの肩を借り、ミステーは枝豆の小皿を大事に抱え、アオノはメバルを支えながら歩く。
メバルは途中でK-Tの腕をつかんだ。
「Kさん、こっち」
「分かった」
「ぼくが支えるからねぇ」
「俺が支える」
「じゃあ、一緒に支えよう」
二人は互いに腕を組み、ふらふらしながら歩いた。
K-Tは足取りこそ危うかったが、周囲への反応だけは異常に速い。
車の音が聞こえればすぐに立ち止まり、通行人が近づけば自然に仲間を内側へ寄せる。
そのたびにメバルが感心した。
「Kさん、酔ってても頼りになるねぇ」
「酔っていない」
「酔ってるよぉ」
「少しだけだ」
「いっぱいだよ」
ホテルに到着すると、全員が部屋へ入った。
ベッドが二台、ソファが一つ、床には簡易マットが敷ける。
「誰がどこで寝る?」
マサカゲが聞いた。
「俺は床でいい」
K-Tが言う。
「Kさんはベッドで寝て!」
メバルが強く言った。
「怪我もしてるし、酔ってるし、床はダメ!」
「問題ない」
「ダメ!」
メバルはK-Tの腕を引っ張った。
「ほら、ここ」
「分かった」
K-Tはベッドに腰を下ろした。
メバルもその隣に座る。
「水を飲んでね」
「飲む」
メバルはペットボトルを渡した。
K-Tは一口飲んだ。
メバルも飲む。
しかし、二人とも完全に酔っているため、途中でどちらが自分のペットボトルか分からなくなった。
「これ、Kさんの?」
「分からない」
「じゃあ、ぼくが飲むねぇ」
「メバル」
「なぁに?」
「それは俺の水だ」
「じゃあKさんも飲んで」
「分かった」
二人は同じペットボトルを交互に飲んだ。
それを見たマサカゲが、最後の気力で注意する。
「いろいろとどうなんだ……」
「問題ない」
K-Tが答える。
「それは水の問題じゃない!」
メバルは笑いながら、K-Tの肩に寄りかかった。
「Kさん、今日は楽しかったねぇ」
「楽しかった」
「また飲もうね」
「飲む」
「今度はもっと飲む?」
「飲む」
「Kさん!」
マサカゲが叫ぶ。
しかし、二人はもう聞いていなかった。
メバルはK-Tの肩に寄りかかったまま、眠そうに目を閉じる。
「ぼく、みんながいると安心する……」
「俺もだ」
「Kさんも?」
「俺も」
K-Tはそう言ったあと、ゆっくり目を閉じた。
メバルの体が傾く。
K-Tは反射的に支えたが、自分も酔っているため、そのままベッドへ倒れ込んだ。
「Kさん?」
「問題ない」
「ぼくも……問題ない……」
二人はそのまま眠りについた。
少し離れた場所では、アオノが床に敷いたマットへ横になり、マサカゲはソファで眠っている。
カキはベッドの端に丸まり、ミステーは枝豆の小皿を抱えたままだった。
部屋には、六人分の寝息が響いている。
翌朝、最初に目を覚ましたのはK-Tだった。
頭が重い。
口の中が乾いている。
何より、右腕に妙な重みがある。
K-Tはゆっくり視線を下ろした。
メバルが、布団の上でうつ伏せになり、K-Tの肩へ寄りかかって眠っている。
K-Tは数秒、状況を理解できなかった。
「……」
メバルは幸せそうに眠っている。
K-Tは動こうとした。
しかし、少し動いた瞬間、メバルが寝返りを打ち、さらにK-Tへ寄りかかった。
「……動くな」
誰に向けた言葉か分からない。
K-Tは天井を見つめた。
そこへ、アオノが起き上がる。
「起床時間」
「アオノ」
「何だ」
「メバルを起こせ」
「自分で起こせばいい」
「……」
K-Tがメバルを見る。
メバルは寝言を言った。
「Kさん……もっと飲もうねぇ……」
「飲まない」
K-Tが即答した。
メバルが目を開ける。
「ん……Kさん?」
「起きたか」
「ここ、どこ……?」
「ホテルだ」
「そっかぁ……」
メバルは再び目を閉じた。
「ぼく、もうちょっとだけ寝る……」
「メバル」
「なぁに……?」
「俺に寄りかかっている」
「……え?」
メバルはゆっくり状況を確認した。
自分がK-Tに寄りかかっている。
K-Tが驚いたような、困ったような顔をしている。
メバルは一瞬で目を覚ました。
「えっ、ちょっと待って! 私、何してるの!?」
慌てて起き上がる。
しかし、酔いが残っていて足元がふらついた。
K-Tが反射的に腕を伸ばし、メバルの肩を支える。
「危険」
「Kさん、ありがとう……って、違う! 昨日のこと、私、覚えてない!」
マサカゲがソファから起き上がる。
「……頭が痛い」
カキも目を開けた。
「うわ、缶がいっぱい……」
床とテーブルの周囲には、倒れた缶ビールが大量に並んでいた。
アオノが数える。
「二十七本」
「二十七!?」
メバルが叫ぶ。
「Kさんと私で?」
「二人で二十七本」
アオノが答える。
「ぼくたち、そんなに飲んだの!?」
「飲んだ」
K-Tが答えた。
「Kさん、覚えてるの?」
「ところどころ」
「私、変なこと言ってなかった?」
「言っていた」
「何を?」
「みんなに抱きついた」
メバルの顔が青ざめた。
「えっ」
「マサカゲとアオノに抱きついた」
「ええっ!?」
マサカゲが眼鏡を直しながら言う。
「抱きつかれた。何度も」
「アオノちゃん、ごめん!」
「問題ない。接触は確認済み」
「アオノちゃん、確認しなくていい!」
カキが笑い出す。
「メバルちゃん、昨日すごかったぞ。K-Tにはもっと飲めって言うし、マサカゲにはぎゅーってするし、アオノには機械より自分を見ろって言うし」
「やめてぇ!」
メバルは顔を両手で覆った。
K-Tはベッドの端に座ったまま、まだ少し酔いが残っている。
「メバル」
「はい……」
「昨日は楽しかった」
メバルが指の隙間からK-Tを見る。
「本当に?」
「本当だ」
「でも、二十七本は飲みすぎだよ」
「そうだな」
「私、Kさんを止めなきゃいけなかったのに、逆にもっと飲ませちゃった」
「俺も止まらなかった」
「だからって……」
メバルはしょんぼりとうつむいた。
K-Tは少し考えたあと、短く言った。
「次は飲まない」
「本当に?」
「本当だ」
「私も飲ませない」
「それがいい」
「うん……」
マサカゲが立ち上がった。
「全員、水を飲め。今日は帰宅したら休む。飲酒はしばらく禁止だ」
「俺は平気だ!」
カキが立ち上がろうとした。
その瞬間、ふらついてベッドへ倒れ込む。
「平気じゃないだろう」
マサカゲがため息をつく。
「アオノ、全員の水分を確認してくれ」
「了解」
「ミステーは枝豆を置け」
「これは私の宝物」
「食べ物だ」
「宝物も食べ物も、時に同じ」
「違う」
メバルはK-Tへ水を差し出した。
「Kさん、これ飲んで」
「水か?」
「今度は絶対に水!」
K-Tはラベルを確認した。
「水だ」
「よかった……」
K-Tが水を飲む。
メバルも自分のペットボトルを飲んだ。
そして、ふとK-Tの腕を見る。
昨夜、自分がずっと寄りかかっていた腕。
メバルは一気に顔が赤くなった。
「……あの、Kさん」
「何だ」
「今朝のこと、できれば忘れて」
「無理だ」
「即答しないで!」
「メバルが寄りかかっていた」
「言わないで!」
「俺は動けなかった」
「それも言わないで!」
カキがまた笑う。
K-Tはカキを見た。
「カキ」
「はい」
「笑うな」
「ごめん!」
カキはすぐに姿勢を正した。
しかし、数秒後にはまた笑っている。
メバルはため息をつき、K-Tの腕を軽く叩いた。
「もう、今日は絶対に飲まないからね」
「分かった」
「みんなも!」
「分かった」
六人は、ひどい二日酔いを抱えながらホテルを出た。
K-Tはふらついていたが、周囲の気配には敏感で、エレベーターの扉が開くたびに真っ先に確認した。
メバルはそんなK-Tの隣を歩きながら、何度も水を勧める。
「Kさん、水飲んで」
「飲んだ」
「もう一口」
「分かった」
「カキちゃんも」
「俺はジュースがいい」
「マサカゲちゃんは?」
「水だ」
「アオノちゃんは?」
「水」
「ミステーちゃんは?」
「枝豆」
「水!」
メバルのツッコミがホテルの廊下に響く。
全員がベロンベロンになるまで飲んだ夜は、ひどく騒がしく、失敗も多かった。
それでも、誰も大きな怪我をせず、全員そろって朝を迎えられた。
メバルはホテルの外で、もう一度K-Tに頭を下げた。
「Kさん、本当にごめんね。私、酔うと周りに飲ませたくなるみたい」
「知っている」
「次からは気をつける」
「頼む」
「それに、マサカゲちゃんとアオノちゃんにも謝らないと」
「必要ない」
アオノが言った。
「昨夜の出来事は記録済みだが、損害はない」
「記録しないで!」
マサカゲは深いため息をついた。
「俺も、もうしばらく酒はいい」
カキが手を挙げる。
「でも、楽しかったな!」
「カキちゃん、反省してる?」
「してる! でも楽しかった!」
「正直すぎるよ!」
K-Tはホテルの入口を振り返った。
そして、メバルを見た。
「次に飲むなら」
「うん」
「全員、最初に水を飲む」
「分かった」
「酒の量を決める」
「分かった」
「俺には飲ませない」
メバルは一瞬だけ困った顔をした。
だが、すぐに笑った。
「うん。Kさんには飲ませない」
「約束だ」
「約束」
メバルは小指を差し出した。
K-Tは少し考えたあと、その小指に自分の小指を絡める。
「約束」
その様子を見て、カキがまた笑い始める。
「K-T、昨日はあんなに上機嫌だったのに、今日は真面目だな!」
「カキ」
「はい!」
「黙れ」
「はい!」
六人は家へ向かって歩き出した。
メバルはK-Tの隣を歩きながら、何度も小さくあくびをした。
「私、帰ったら寝る……」
「寝ろ」
「Kさんもね」
「分かった」
「でも、その前に水を飲んで」
「分かった」
「絶対にお酒は飲まないでね」
「分かった」
メバルは満足そうに笑った。
ただし、家に到着してから十分後。
冷蔵庫を開けたカキが、奥からビールの缶を見つけた。
「なあ、これどうする?」
メバルが飛び起きる。
「飲んじゃダメ!」
K-Tも冷蔵庫へ近づいた。
「……」
「Kさん、見ないで!」
「俺は飲まない」
「本当に?」
「本当だ」
K-Tは冷蔵庫を閉めた。
メバルは安心して息を吐いた。
その直後、ミステーが横から言った。
「では、缶ビールを宝物庫へ戻す」
「誰も飲まないなら、それでいいよ」
メバルはそう言った。
アオノが冷蔵庫に鍵をかける。
「飲酒制限を実施する」
「アオノちゃん、家の冷蔵庫に鍵をつけたの?」
「必要な措置だ」
マサカゲがうなずく。
「今回は賛成だ」
カキだけが残念そうな顔をした。
「俺、次は一杯だけにする」
「カキちゃんは一杯だけでも危ないから、まず水!」
メバルの声が家中に響く。
K-Tはソファへ座り、渡された水を飲んだ。
そして、疲れ切った様子で目を閉じる。
「Kさん、寝るならちゃんと横になってね」
「分かった」
「私、昨日みたいに寄りかかったりしないから」
「……」
K-Tは目を開けた。
「それは、言わなくていい」
メバルの顔が真っ赤になる。
「忘れてって言ったのに!」
「無理だ」
「Kさん!」
家の中に、いつもの騒がしい声が戻ってきた。
飲みすぎて、酔いすぎて、全員が大変な目に遭った夜。
それでも、最後には全員が同じ家へ帰ってきた。
そしてメバルは、もう二度とK-Tへ無理に酒を勧めないと誓った。
――少なくとも、その日のうちは。
コメント
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おお、めっちゃ楽しい回でしたね!最初は「飲まない」って断言してたK-Tさんが、メバルさんの策略でまんまと飲み始めてから止まらなくなるところ、思わず笑っちゃいました(笑)。「楽しい」って口にするK-Tさんが珍しくて、そこが一番印象に残りました。六人それぞれの酔い方の個性が際立ってて、アオノさんの「接触を確認」とかミステーさんの枝豆宝物化がツボです。翌朝の気まずそうな距離感も含めて、仲間のあたたかさが伝わってくる話でした。次回も楽しみにしてます!
#CREATIVE BASE
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