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あーもうビシャビシャじゃん

と笑いながら、箱ごと渡されたティッシュで喉元とカーペットを拭く。


服はほとんど濡れていなかったけれど、

明那が「ええまってごめん!! クリーニング行く!?」と慌てているのが面白くて、

少し大げさに言ってみる。


『もうね……滝修行だよね。滝修行っていうか滝テロよ』


akn「滝テロ!!?!?!?」


『記憶のクリーニング代請求するから』


akn「記憶のクリーニング代!?!??!?」


『急にオウム返ししかできなくなるじゃん……w』



明那といると楽しいんだよね 本当に


これがずっと続けばいいのに と思うし、

それだけじゃ物足りないくらい好きになってしまったな とも思う。


美味しいものや面白いものに触れて感情を共有したい

進級しても卒業しても仲良くしたい

世界の果ての色を一緒に見に行きたい


あとは なんだろう 挙げていけばキリがないけれど

エンドロールを最後まで観て、この苗字かっこいい、とか言い合いたい。


それは 好きよりもっと貴重な気持ちだと私は思う。




茶番がひと段落つくと、私も新しい酒缶のプルタブに指を引っ掛けた。


今度は、カシュ と音がした。


ゆるやかな傾斜の丘にボールを転がすくらいの勢いで飲む。

喉を落ちていくアルコールが、私に胃の形を教えてくれる。


『明那ってさあ』


口を開いてしまえば、言葉はするすると出てきた。どこにも引っかからずに。


『恋人ほしいとか思わないの』


うーん と黙る明那の表情は、先ほどとは打って変わって硬くなっていた。


akn「なんていうか俺ねえ」


『……うん』


akn「……好きとかよくわかんないんだよねえ……」


その声色も、普段の明那のものへと戻っていた。


私の相槌も、明那の声も、煙のように上へ上へと昇っていく。



好きとかよくわかんない。



明那のその言葉が、私のからだの中心に突き刺さって 取れない。


『……知り合いに』


一拍置いて、続ける。


『明那の好きなタイプ聞いてって頼まれたんだけど』


言い切って 一呼吸挟んでから、明那の顔を見る。

目は合わない。


akn「好きなタイプねえ……」


私も知りたい 。 知らなくてもいいけど

と言おうとして、なんだか気まずくなってしまいそうだなと思って、やめた。


言わなくていい本当のことだってある。やさしい嘘があるように。


うーん、 まあ、


少しの間があってから、明那が答えた。



akn「俺のことを好きにならない人かな」



少し 遠くの方を見つめて。

私はというとそんな明那を見つめながら、遠くの方になりたいと思った。


明那の視線の先の 何かになりたい。

……そう思わない人が明那の好きなタイプなんだろうけど



どう答えようか迷って、私は正直な感想を口にした。


『めちゃくちゃなこと言ってるのわかってる?』


それを聞いた明那は、ぶは!と吹き出す。


akn「矛盾してるのはわかってるけど、俺のこと好きなの何? みたいな……」


吹き出してから、少しずつ冷えていく。

部屋の温度は変わっていないはずなのに。


akn「好きになられたら好きになれないね」

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