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「さっきのあれ、嘘ですよね?」
「…さぁな」
恐らく自分をイッテツから引き剥がす為、適当にかけた言葉だろう。そしてまんまとそれに引っかかってしまった。
「まぁいいですけど、ずっと見てたんですか?」
2人きりになった図書室でほしるべはロウを睨んだ。
「お前が変なことしねぇように俺はいるって言ったろ」
「それストーカーですよ。小柳くんってそんな趣味あったんですね。うわー」
「うるせぇ、」
からかい気味にそう言ってみる。するとロウは少し悲しそうに言った。
「俺はただ…お前との約束を守ってるだけだよ」
「約束?」
身に覚えのない約束を話しに持ち出されてキョトンと首を傾ける。何か約束なんてしていただろうか。
「まぁ覚えてねぇよな」
じっとこちらを見つめながら言うロウにほしるべは思わず手を伸ばし名前を呼んだ。
「ぴょん………___!?」
ガバッ
あれ、今俺…誰のこと呼んだ?
ほしるべは咄嗟に自分の口を手のひらで覆った。
「ほしるべ…お前……」
なんで、小柳くんは小柳くんなのに。今まであだ名でなんて呼んだことなかったのに。
「少しは覚えてんだな。もう何も記憶にねーのかと思ってた」
「っ、、さっきから小柳くんはなんの話をしてるんですか?汗」
俺の知らない約束を知っていたり、俺の知らない名前を持ってたり。
そもそも俺はなんで蛸の触手を見られたのに解除してないんだろう。まるで小柳くんの前では当たり前みたいな…
「別に、思い出してもらわなくていいからな。俺は教えるつもりは無い」
「なんで…」
「……知りてぇの?」
「別に、いいですけど」
ここで知りたいなんて言ってしまうと負けた気がしてほしるべは素直になれなかった。
「昔、俺とお前は近くに住んでたんだよ」
「…なんですか。別にいいって言って_」
「ふ笑、ほんとは知りたいくせにか?」
「っ……」
ロウはほしるべの気持ちなど見透かしているようで話を続けた。
「俺とお前は小さい頃よく遊んでた。でも、いつの間にかお前は遠くに行ってて」
「俺が、小柳くんと遊んでた?」
思い出そうとしても記憶の欠片も浮かばなかった。ただ記憶にあるのは昔からイッテツとよく遊んでいた、ということだけ。
「お前は俺は狼の血が混じってるって言っても、仲良くしてくれた」
「狼……」
あぁ、まただ。小柳くんが狼だったなんて知らなかった筈なのに。驚きもしなかった。まるで当たり前だったみたい。
「そんでお前が暴走してイッテツを襲おうとしてたから止めに来た。これで分かったか?」
「…はい、なんとなく、、は」
それからしばらく沈黙が続いた。
俺はぼんやりと昔のことを思い出す。
俺が人に愛されたいと思ったきっかけを。
ーーー◯◯歳の頃
その日も俺は家に一人だった。しかもクリスマスの日。
「暇だなぁ…」
イッテツが家に行かせて欲しいなんて言ってきたけど、恐らくそれは俺が一人になるからだろう。イッテツには家族が近くにいるんだからそんな気を遣われるのは申し訳ない。だから俺は丁寧に断りを入れた。
別に俺は家に一人でいることに慣れているし、こんな日ぐらいイッテツには家族と過ごして欲しいと思う。
「………テレビ、何かやってるかな」
その日、普段は一人でもあまりつけないテレビをなんとなくつけてみた。
ぱち、ぱちとチャンネルを変える。特に興味が惹かれるものはやっていなそうで俺は親が送ってくれた海外の良くわからないお菓子を食べる。
そうしているうちに段々と睡魔がやってきて数時間ほど寝てしまった。
ーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーー「ん………」
それから目が覚める頃にはすっかり夜になっており、消し忘れたテレビの光が俺を照らしていた。
「テレビ消さなきゃ」
リモコンに手を伸ばした時、なんとなく俺はテレビに映っていたドラマに興味を惹かれた。
『宏美、愛してる!』
『私も…剛の事愛してるよ』
今考えると、誰かと見ていたら少し気まずくなってしまいそうなシーンだった。
それからテレビに映る2人は流れでキスをする。
軽いキスから段々と激しく。
「…………いいな」
当時の俺はまだ幼く、そのシーンに対して恥ずかしいとかいやらしいと言う感情を持たなかった。
ただ、これが愛されるということなのだろう。ということばかり考えながらそのシーンを見入った。
親から愛されていないとは思ったことはない。そもそも親が海外にばかり居るのだって俺の為なんだから。
でも、その時考えないように。口に出さないようにしていたけど…
寂しかった
「…イッテツに会いたいな」
ビデオを見た俺は、ぽつりとそんなことを呟いて再び画面に目を向けたーーー
「小柳くんは俺の事昔から知ってたんですよね?」
「あぁ、そうだよ」
「…なら、なんで高校で初めてあった時言ってくれなかったんですか?」
小柳くんと初めて喋ったのは確か、入学式の時。
その日俺は髪をしばるゴムをどこかに落としてしまって、それを探していたら後ろから声をかけられて、落としたゴムを渡してくれた。
それが小柳くん。
「別に、かなり昔の事だったし。初めて喋った時多分俺の事忘れてんなって分かったからやめといただけだよ」
「そうですかぁ、、」
そう思うと俺と小柳くんが仲良くなったのはかなり奇跡かもしれない。
なんでいつの間にかこんなに仲良くなったんだっけ…
「なぁ、ほしるべ」
「……はい、何ですか?」
考えに耽っていると小柳くんが俺の名前を呼んだ。
あ、昔はなんて呼ばれてたんだろう。
「ほしるべって、イッテツの事好きなのか?」
「え」
小柳くんはいきなりそんなことを聞いてきた。まぁキスしてたら疑いたくもなるだろうけど。
「そりゃあ好きですよ?イッテツは親友なので」
特に隠す必要もなかったので本心を話した。イッテツには嫌われたくないしずっと俺の事を愛してほしいから。
「好き、ってのは付き合いてぇの?」
「いえ?俺達は親友ですので」
すると俺の答えに納得がいかなかったのか小柳くんは頭をがしがしと掻いた。
「あー、じゃあつまり。そういう好きってわけじゃねぇんだな?」
「いえ、好きですよ?」
「いや、まぁそうなんだけど。なんつーか、、」
小柳くんは何が言いたいんだろう。
………あぁ、俺とイッテツは付き合ってるわけじゃないから引き剥がそうとしてるのかな。
「まぁ、イッテツはリトの事が好きですからね。俺は負けてるかもしれないけど…俺だってイッテツの事…」
「あのさ。聞きたいんだけど」
「……なんですか??」
俺の話を遮ってきた。小柳くんのくせに。
「ほしるべの事好きなのはイッテツじゃなきゃいけねーの?」
「?」
「どういう意味ですか?」
「だから…」
何だろう、こんな小柳くん珍しい。いつもはもっと調子に乗ってる感じなのに。
「俺、お前の事好きなんだけど」
「…はぁ?!汗」
心の中で小柳くんを馬鹿にしていたら、何故か告白された。理解できなくて黙っていると彼は更に話し続ける。
「だから、俺がお前の事愛してやるってことだよ」
どんっ、と所謂壁ドンをされ至近距離で愛を囁かれる。
「いや…言ってる意味がよく分からな_」
「愛してる」
「耳元で止めてください!//」
俺は咄嗟に触手を使って距離を取ろうとした。けれど俺の扱いなんて分かりきっているようでかわされてしまう。
「なーんだ。お前よくイッテツに愛してくれって言ってるくせに」
「言われるのは恥ずいんだな笑」
悔しいけど俺の顔は熱を持って、おまけに何も言い返せなかった。
「はっ笑、図星かよ」
「っ〜〜!うるさいです///」
咄嗟に顔を隠そうとした。小柳くんはそんな俺に追い打ちをかけるように俺を抱きしめる。
「ほしるべが寂しくならないように俺がずっと愛してやるから」
「だから俺と付き合わねぇ?」
そんな事言われたら頷くしかないに決まってる。俺は無言で顔を縦に振った。
「…小柳くんのくせに」
「はいはい笑」
その少し前
「はぁ、っ…はぁっ」
ロウに助けられたイッテツは廊下を走りながらリトのことを探していた。
「はぁッ………__あ、いた。」
「リトくん!!!」
走りながら各教室を見回っていると1組の教室にリトがいるのが見え慌てて止まった。
呼吸を整えながらゆっくりと中へ入る。リトもこちらに気づいたようで手を振ってくれた。
「テツ〜!」
「ロウ…くんが、リトくんが呼んでるって言ってたから来たよ」
「え?俺が?……____あー、うん。俺テツに会いたくなっちまってさ」
ロウにそんな事を伝えた記憶はないが恋人に会えたのだからあまり深く考えないことにした。
「テツ…お前何かあった?」
リトはイッテツに抱きつこうとしたが、どこか浮かない顔をするイッテツを見て心配になった。
「えっ、ぁ、いや…別に…」
「嘘つけ、何かあったろ」
明らかすぎる反応にリトはイッテツが何かを隠していることを悟った。そもそも前から何かおかしいと思っていたし。
「ごめん、僕るべくんと……その…」
イッテツは迷った。今までのほしるべとしたことを。前はこれ以上しないかわりに黙っておこうと考えていたがやはり隠しているのは良くない気がした。
「あのね、…僕。るべくんとキスとか、しちゃってたん…だよね」
いきなり過ぎてタイミングを間違えてしまったかもしれないと後悔したけれど、今しか言うタイミングは無いと思った。そして、リトはイッテツの言葉を聞いて怒りも驚きさえもせず
「あー。それは、なんとなく知ってたよ」
とだけ言った。
「え、、っ……知ってた、の?汗」
イッテツはその瞬間色々なことが脳裏によぎった。もうすでに嫌われていたとか、今から別れ話をされるんじゃないかとか。
でもリトの表情は変わらず穏やかで寧ろイッテツの事が大好きだと言わんばかりの笑顔だった。
初めてテツとキスした日。テツは照れてたけど、でもどこか慣れてる感じがして。心のどこかで多分したことあるだろうなって。でも昔恋人がいた可能性だってあるから俺は何も聞かなかった。
それから、そういうやり取りをする場面を見ることはなくても、るべがテツに何かしていることはなんとなく知っていた。
そして、それをみんなやテツが俺に隠そうとすることも。なんとなく。…知ってた。
「ほしるべの野郎、随分とテツに色々してくれてたみてぇだな」
「お、怒らないであげて!汗るべくんも寂しかったんだよ…」
ほしるべに怒りを顕にするリトをイッテツは必死に宥めた。
「はぁ〜……。まぁ、可愛い恋人に言われちゃ許すしかねーな笑」
リトは冗談交じりにそう笑うとイッテツの頭に手をぽんと置いた。
「可愛い恋人って…//」
「事実だろ?」
身長差が少しあるのでイッテツはリトを見上げる形でぷんぷんと怒った。リトはそれを愛くるしいと思いながら見つめる。
「じゃあさ、申し訳ないと思ってんなら俺に今キスしてよ」
「………え?」
リトはそう言いながら自分の唇を指でトントンと指す。ココにキスしてみろということだろう。イッテツは少し躊躇いながらも、かかとを浮かせ、リトの服を掴みながら顔を近づけた。心音が早くなるのがわかる。
「…っ……///」
あれ、なんで僕こんな緊張してるんだろ。るべくんとかマナくんにキスしようとした時はこんなにドキドキしなかったのに。
「__………ちゅ、ッ」
「ハハッ笑!お前…顔赤すぎ笑」
「…ぅ……////」
そっか。キスってこんなにもドキドキして、ちょっと怖くて、それで、こんなにも幸せなものなんだ。
「明日さ、テツの家行っていい?」
「ぇ、、あ…うん。…いい、よ?」
きっと今日のキスは今までで一番忘れられないものになっただろうと思った二人だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
終わり