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翌朝目を覚ますと、隣で寝ていたはずの言がいなかった。
不思議に思ってスマホを見ると、先に出社するという旨の連絡が入っていた。
「…!やば」
直後に30分弱寝坊していることに気がついて、慌てて起き上がった。
「おはようございます…」
「おはよう…って、めっちゃ疲れてない?」
走ってきたでしょ、と笑う山本さんに「寝坊したんです」と言い訳をしていると、部屋の奥から言がひょっこり顔を出した。
「あれ、遅かったね」
「言ちゃんが起こしてくれないから寝坊したんだよ」
文句を垂れながら駆け寄って肩を掴もうとすると、「自分で起きろよ」と躱された。
_避けられたことあんまり無いのに、珍しいな。
「…もう、つれないなあ〜」
ほんの少しだけの違和感を払拭できないまま、いつも通りにふざけてみせる。
ところが、言はそれに突っ込むことも無く「今日忙しいからあとでね」と部署に戻って行った。
一連の流れを見ていた山本さんと顔を見合わせる。
「…何かあった?」
「いや、分かんないです…」
昨日の夜はいつもどおりだったんだけど、と呟くと、「変な夢見たとか?」と山本さんが真面目に考察し出した。
「…もしかして、僕何かしちゃったのかな」
「うーん、2人に限ってそれは無いと思うよ」
だよなあ。自覚が無いなら事実も無い。僕と言は、そんな風に考えられるくらいには分かりあっている。
2人して頭を捻っていると、僕の部署の方から「問さーん」と呼ぶ声が聞こえた。
「行かないと…じゃ、失礼します」
「うん、行ってらっしゃい」
何かあったら言ってね、という山本さんの気遣いに会釈して、僕は呼ばれた方に向かった。
夕方になり、今日こそは、と言の部署へ足を早める。
ガラス張りのドア越しに部屋の中を覗くと、言の姿が見えない。
「すみません、言ちゃんってもう…」
ドアを開けて、まだパソコンに向かっていた伊沢さんに問う。
「あれ?てっきり問も一緒に帰ったのかと思ってた」
珍しいね、という伊沢さんの不思議そうな呟きは、頭に入ってこなかった。
今朝に感じた違和感が、また大きく膨らむ感覚が僕を襲う。
「…もしかしたら急いでたのかも。僕も今日はこれで帰ります!」
「はーい、気をつけて」
できるだけ明るく言って、扉を閉めた。
連絡なしに先に帰るなんてよくあることなのに、今日は心にもやが渦巻いている。
本当に何かしちゃったのかな。
不安になって、無意識に下唇を噛む。
でも今朝の様子だと、それとなく聞いたところでまた流される気がする。
外に出ると、生暖かい風が頬をなでた。
「相談くらいしてくれてもいいのに…」
そんな呟きは、暗くなり始めた空に消えてしまった。