テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……そろそろいいか?」
その時凛の声が聞こえてきて蓮達はハッと振り返る。
「今日3人に来てもらったのは、撮影前に顔合わせをして貰おうと思ったからだ。お前らには言っていなかったから驚いただろうが、本番が始まれば嫌でも一緒に行動を共にすることが多くなるからな」
凛の言葉に蓮はハッとしてナギを見た。しまった、美月の件でうっかり自分が隠れようとしていたという事を忘れていた。
でもまぁ、いつまでも逃げ回っているわけにはいかない。
いくら別撮りと言っても、役者同士での読みあわせや、シーンごとにの動きのすり合わせなど、一緒に行動する場面は多いはずだから。
正直言って自分がこのままレッド役を続けて言ってもいいものか迷いはあるが、ずっとこのままと言うわけにはいかないだろう。
「取敢えず、状況を整理したい。今回の主役、小鳥遊君は|楽谷赤也《らくたに あかや》役を演じる。アクターはレッド。蓮、お前だ」
「……はい。あ、えっと……御堂、蓮ですよろしく」
「……うん」
呼ばれて立ち上がり、改めてナギと向き合う。だが、やはり怒っているのかふいっと顔を背けられてしまった。
「次に、草薙君。彼は泉 青葉《いずみ あおば》役を演じて貰う。アクターはブルー。 棗 雪之丞が担当する」
「は、はいっ! あっ、あのっ……よ、よろしくお願いしますっ」
「そんなに緊張しないで大丈夫ですよ。私の方が年下なので」
おどおどと前に出た雪之丞は緊張の為か、いつもよりさらに背中が丸く小さくなってしまっている。それを見て、弓弦はクスっと笑みを零した。
流石、キャリア歴が長いだけあって、動じない。
「で、最後だが。草薙、美月さんだ。彼女は恩田桃子《おんだ ももこ》役を演じて貰う。アクターはピンク。担当は逢坂東海。以上だ。何か質問はあるか?」
「アタシのアクターさん、男の子なんだ」
「……悪いか? 今回の撮影、結構危険なアクションが多いんだ。女じゃ務まらねぇよ」
「ふぅん。よろしくね、はるみん」
ニコっと笑いながら彼女が発した言葉に、蓮が思わず噴き出した。
「ちょっと! はるみんってなんだよっ!」
「えー、だって東海(はるみ)でしょ? 呼びやすくていいじゃない」
「よくねぇよ!」
「ぶはっ、いいんじゃないか? はるみん。可愛いじゃないか」
「……ムカつくッ」
堪えきれないとばかりにニヤニヤしながら蓮が口を挟むと、東海はキッと睨み付けてきた。
「ははっ、まぁまぁ落ち着きなよ、はるみん。苛々してるんなら小魚でも食うか? なぁ、はるみん」
「いらねぇよ! 馬鹿蓮!! アホっ!」
「れ、蓮君。あまりからかっちゃ駄目だよ」
雪之丞が苦笑して注意するが、蓮はニヤリと笑ってみせた。
「なんだよ、雪之丞。いいじゃないか、愛称で呼ばれるってのは親近感があって仲良くなるのにはもってこいだろ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「そうだ。雪之丞も何か愛称があればいいんじゃないか? うーん……ゆき? ゆっきー?」
「その人、雪之丞って言うんでしょう? だったら、はるみんに合せてゆきりんでよくない?」
頭を悩ませる蓮に、すかさずナギから横槍が入る。
「あ、それもアリだな。よし、今度から雪之丞の事はゆきりんと呼ぼう」
「ええっ、ゆきりんって」
「可愛いじゃないか。ゆきりん」
「……でも……」
雪之丞が困り顔を浮かべると凛がくくっと可笑しそうに笑う声が聞こえてきた。
「仲が良いのは良いことだ。それでこそチームワークも生まれてくるってものだろう。可愛くていいんじゃないか? はるみんと、ゆきりん」
「凛さんまで!」
止めてくれると思っていた凛にまで肯定されて、東海は明らかにショックを受けたようだった。
「……ッ、おい! ちんちくりん! 俺は認めないからなっ! 下手くそな演技したら許さねぇぞ!」
「はいはい、わかったわよ。仲良くしましょ。はるみん」
「っ、だから! はるみんって呼ぶな!!」
怒り心頭と言った東海の叫びが稽古場全体に響き渡った。
「……ちょっと、終わったら顔貸して」
「……ッ」
笑っていた蓮の耳に、ナギがそっと耳打ちしてきて一気に顔が強張る。
「話があるんだ」
淡々と語る彼の口調からは何の感情も読み取れない。蓮は背中に冷たい汗が流れていくのを感じた。
突然の顔合わせの後、ナギに呼び出された蓮は連れ立って休憩室に向かった。
中に誰も居なことを確認し、鍵を掛け、彼と向き合う。
「話って、何?」
恐る恐る尋ねてみるが、ナギはじっと蓮を見つめたまま何も言わない。
やっぱり、怒っているのだろうか。 約束を反故にした不満を言われるのだと覚悟していたが、中々その口からは何も語られない。ただ二人の間に重い沈黙が流れるだけだ。
(やっぱり、僕から謝るべき、だよな)
そうだ、謝らないと――。
「この間は、本当に悪かった」
「あの時は行けなくて、ごめんっ!」
謝罪のつもりで頭を下げようとしたタイミングで互いのおでこがぶつかり、ゴチっと鈍い音を立てる。
「~~~ッ」
なんて石頭なんだ。
蓮はジンと痛む額を押さえながら涙目で彼を見た。
「……」
「……」
痛みのせいで互いに無言になる。先に口を開けたのは、蓮の方だった。
「いきなり頭突きかまされるとは思わなかった」
「それはこっちのセリフ。いくら怒ってるからってありえなくない?」
お互いに言いたいことを口にして、はたっと気付く。
怒っているのはナギの方で自分ではない。
いや、その前に彼はさっき、何と言った?
「行けなくてごめん」自分の耳が正しければ、確かに彼はそう言ったはずだ。
「えっと、勘違いさせたら悪いんだけど……あの日、君は来なかったんじゃなくて、行かなかったの?」
確かめるように恐る恐る尋ねると、ナギはこくりと静かに首を縦に振った。
「あの日、直ぐに終わる予定だった撮影が、一人の我儘な女のせいで長引いちゃって……夜までかかって。元々お兄さんの連絡先も聞いてなかったし、時間も時間だったから流石にもう居ないだろうと思って……」
「そう、だったのか……」
あの日、待たせてしまったと思っていたが、実際はそうではなかったらしい。