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四季に視線を移すと、明るく笑っている姿が目に映った。
「なあ、めいって名前的に父ちゃん母ちゃんジブリ好きっしょ」
聞いていないのか分からない少女を相手取り、次々と質問を繰り出していく四季。
守はそこに、少し困惑しながらもめいの隣、四季の反対側に座って参戦した。
「めいちゃん、何好き?動物とか、食べ物とか」
「何でも良いよ」と、 優しく、暖かく聞こえるように、安心してくれるように、細心の注意を払いながら質問する。
何度か質問を投げかけたが反応は無い。
四季は、やけくそになって「もう入生田寺にでも行くかぁ?」とぼやいた。
すると、ぴくりとめいが反応した。
「…行ったことない」
小さく消えそうな声だったが、反応を待っていた守と四季にはちゃんと聞き取れて、「行ったことねえの?」と四季が聞き返した。
「…知らない」
守はその言葉に昔の記憶を掘り返しながら訊ねる。
「教科書とかで見ないのかな…。小学生?」
それに「学校行ってない」と答えるめいに、四季は「意外と不良なのか…?」と検討違いな事を言っている。
守はそこに苦笑しながら「違うと思うよ」と柔らかく否定すると、改めてめいを見た。
(本当に、似てる…)
全ての希望を投げ捨てたかのように光を失っている瞳と、感情が抜け落ちたかのように動かない表情が。
(気分転換もこの子に必要だ)
守は自分の頬をぱしんと叩いてから、四季とめいに中の方を指差して言った。
「少し、中に行こうよ」
中に入ると、ばたばたと遺体を乗せた担架を持った人が何人も行き来している。
守はその中に立って指揮をする花魁坂に「これって…」と声をかけた。
「ある場所で鬼の死体が大量に見つかってね…」
花魁坂と話していると、めいが息を飲み、ある担架に駆け寄った。
「パパッ!ママッ!」
そこには力無く担架に横たわっている角が生えたスキンヘッドの男性とショートへアの女性の姿があった。
めいは父親の担架にすがり付いて泣いている。
花魁坂は少し俯き、呟いた。
「慣れないね…。こういうのは」
守はパーカーの上から心臓の辺りを掴み、今にも泣いてしまいそうな声で答える。
「慣れたくないよ…」
あまりにも泣くので、ある一室に父親と母親の遺体を寝かせ、四季と守は遺体運びを手伝うことになった。
「めいちゃん、ここで待って…」
「待っていて」。守のその言葉は完成すること無く消えた。
めいに視線を向けると、めいの父親が自分自身の娘の首を絞めていたからだ。
「アンタ、何やってんだよ!自分の娘を… 」
四季が肩を掴み、父親を見るとぽっかりと穴が開いたような目があった。
守はそれを見て弾かれるようにめいの目を塞いだ。
花魁坂は言う前に守が行動したことで、無言で懐からメスを出す。
「…ごめんね。めいちゃん」
ざくりと肉をかき分ける音が聞こえる。
花魁坂は頭に刺したメスを引き抜くと、二度の死を経験した父親の遺体を見下ろした。
「これが、一番顔が綺麗に残るやり方だったね。京兄」
めいの目隠しを解き、顔を歪めながら四季に言う守。
その沈痛な面持ちは、何度も人を見送った者の顔だった 。
はっと気づいた様に「京兄ッ!もしかして…」と言うと、花魁坂も気付いたのか、鬼気迫る声で答えた。
「これは唾切の能力。ということは…!」
襖の外に意識を動かした瞬間だった。
守の苦しそうな声が四季と花魁坂に届いた。
「お兄ちゃんを離してッ!ママッ!」
見ると、めいの母親に首を絞められている守の姿がある。
(あ、だめだ。これ)
空気を求める体とは対照的に、冷静に思考する頭は自分の死にかかるであろう時間を弾き出そうとしていた。
(まあ、時間たてばどう足掻いても死ぬけど)
周りを見てみると、花魁坂は操られている遺体達に囲まれ、身動きが取れない状態にされている。
四季は無事で、拳銃を出そうとしていた。
「めい、ちゃん…少し…目、瞑ってて」
めいを抱きしめ、四季に頷いて合図を送る。
「動くなよ…!」
拳銃特有の乾いた発砲音がしたと思うと、母親の手は力を失い、守の首から離れていった。
げほごほと噎せながら、守は苦しみのあまり涙を滲ませながら笑みを作って四季に言う。
「ありがとね。一ノ瀬君」
「四季で良い。…べつに、助けた訳じゃねぇし」
礼に対して照れているのか、少し赤くなっている四季のそこまで守と高さの変わらない頭をわしゃわしゃと撫で回し、「じゃあ、四季」と呼び掛けた。
「俺、ちょっと京兄の手伝いしてくるから。お願いな」
四季とめいにひらりと背中を向け、ひらひらと手を振る。
その太ももには、黒いナイフホルダーが存在感を放っていた。