目が覚める。
ごそっと起き上がり、ふと時間を確認する。時計の針は6時ちょうどを指している。グッと伸びをし、カーテンを開けようと敷布団から出る。眠気が一向に覚めない…。シャッとカーテンを開ける。太陽の光が部屋に差し込む。途端に目がくらむと同時に、心地よい光が体を覆う。ふと、朝だと自覚する。
「朝だ〜!」
僕の名前は、生前にあったかどうかなんて覚えていないが、この世界の友人からは『ユウレイ君』と、呼ばれている。この世界に来てから、はや2年がたった。最初は見たことの無いものばかりで、困惑の日々が続いたが、それを終わらしてくれた人こそが『マスター』という人物だ。今から行こうとしているところも、そのマスターのところだ。いつも朝食や昼食、夕飯はそこで済ましている。マスターの作る料理は、近所ではとても評判がいいことで有名だ。なぜ近所でしか評判がいいと言われていないのかと言うと、マスターいわく、『常連さんしか知らない喫茶店も営んでみたかった。』との事だ。…逆にお客が入らなくて大丈夫なのかとたまに心配になる。まぁ、ひとまず喫茶店に行くとしよう…、いつもの朝食メニューでね。
喫茶店に着くと、笑顔で『助手くん』が出迎えてくれた。彼はその名の通りマスターの助手を務めており、泊まり込みで働いているそうだ。彼とも2年前に出会い、今となっちゃ良き友人だ。そして、いつもの席に腰を下ろす。そして、いつもの朝食メニューを頼む。そこでマスターが話しかけてきた。
「いつも、いつも朝食メニューで飽きないのぉ?」
それに対して僕は、
「飽きないよ、いつも通りだからこそいいのさ」
「そうかい?まぁ、確かにたまには、いつも通りってのも悪くないかもね。このいつも通りの平和な一日が続くのが、1番の幸せなのかもねぇ。」
助手くんも、うんうんとうなずいている。そんな空気を破るかのように鼓膜を破るような大声が喫茶店に響いた。
「その大声は何とかならないんですか!他のお客さんもいるんですよ!?」
助手くんが声を荒げて叱る相手は、「祓い屋くん」だ。
「どうしたんだい、祓い屋くん。いつにも増して声がでかいじゃないか。」
僕がそう聞くと、祓い屋は答える。
「大物のお呪様が現れたって、今!こんなん知らせに来るに決まってるだろ!」
彼は興奮気味に、僕たちにそう言う。
「ははっ、君はいつもお呪様のことになると楽しげだねぇ。」
「そりゃそうですよ!祓い屋の家系に生まれたからには、こんなん見逃せませんからね!」
そう、今マスターと話している祓い屋くんは、その名の通り『祓い屋』の家系に生まれた少年だ。そして、『大物のお呪様が現れた。』ということは、みんなで祓いに行こうということを指しているのだろう。
「すまないね、祓い屋くん。今この喫茶店は朝だから忙しくてね、行けそうにないかな。」
「そうですよ!あと入ってくる時に大声を出すのやめてください!」
マスターと助手くんは乗り気ではないようだ。…正直、店内は僕たちを除いた客は2,3人しかいない。ただただ、行きたくないのだろう。確かに、マスターと助手くんは呪いの力を持っているが、戦闘が好きなようには見えない。
「ユウレイはどうだ?」
「僕が行ったって足でまといになるだけなのを知っているだろう?」
祓い屋くんから誘われたが、キッパリと断る。実際、僕は戦闘が苦手だ。足でまといになるのは明確だ。
「マジかよォ、誰かいないのかぁ?俺と一緒に来てくれる人〜」
祓い屋くんは悲しげにしている。すまない、許してくれ。僕が言ったところで意味などないのだ…
ギィィ…
その時、喫茶店の扉が開く音がした。
「なんだ、うるさいぞ…やっぱりお前か、祓い屋。」
「おぉ!触手野郎じゃねぇか!」
祓い屋くんと話している相手、それは祓い屋くんも言ったよう『触手くん』である。彼の背中からは触手が生えている。その詳細については、マスターでさえもあまり聞いたことがないそうだ。わかっているのは、生きている頃にいわゆる、『人体実験』をされたのだとか。まぁ、あまり追求することでは無いだろう。そこで、祓い屋くんが触手くんに一緒に行かないかと尋ねている。
「そうだな…いいだろう。」
触手くんが祓い屋くんの誘いに乗るなんて珍しいこともあるもんだ。
「ただし、ユウレイ、お前も着いてこい」
「えっ?」
急に言われたことで思考が追いつかない。
「ユウレイ、お前、鎌使えただろ。さっきふと見たところ、そのお呪様は首が長いらしくてな、お前の鎌が役に立つと思ったんだ。お呪様を弱らせるのに関しては、祓い屋と俺でできる。トドメはお前でさせ。」
「おぉ!確かにユウレイの鎌がありゃトドメを刺す時にやりやすそうだな!」
祓い屋くんと触手くんで話しているところ悪いけどと、口を挟む。
「トドメを刺すだけとはいえ、僕は足でまといだ。それに、面倒事は嫌だよ。」
「なーに言ってんだ、お前今月正直厳しいだろ。」
「ぐぅ…」
触手くんに嫌なところを言われてしまった…この世界には黄泉の国に滞在する以上、現世と同じようにお金を払う必要がある。稼ぐ方法は呪いを使う人物は特殊で、お呪様を祓うというものだ。別に他の方法もある…助手くんが良い例だ。だが1番手っ取り早いのがお呪様を祓うという方法だ。もっと昔は、呪いを持つ人はお呪様を祓う以外お金を稼ぐ方法はなかったことで有名だが…今は良い世の中になったもんだ、まぁ、結局は祓うことで生計を立てているんですけどね?
「まぁ、わかったなら行くぞ、祓い屋、足を引っ張るなよ。」
「こっちのセリフだよ触手野郎。」
「ちょ、マジで行くのぉ?まだ間に合うよ?」
僕はマスターと助手くんに目で助けを求めるが、冷酷ながら笑顔で見送ってくれた。全く嬉しくない。
こうして、僕は祓い屋くんと触手くんに連れられ、大物のお呪様を祓いに行くのだった…
コメント
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Σd=(・ω-`o)グッ♪