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その薄い唇が、滑らかな肌を滑っていく。
白い鎖骨の盛り上がりに下を這わせると、細い体はビクンとわかりやすい反応を示した。
結城は楽しむように一旦顔を上げ、彼女に微笑む。
「感じやすいの?」
一線を引いているかのような、麻里子に対する話し方や声とは違う。
甘くて、それでいて、男らしい声。
「でもね」
結城は笑いながら行為を続ける。
「まだ、これからだよ」
女の目が期待に潤んでいく。
これからこの美しい男に食べられるのを喜んでいるかのように。
長い指が身体を撫でながら滑り落ちていく。
胸の頂に上ると、それを慈しむように大事に包む。
感触を確かめながら、優しく。
一回。
二回。
三回目で力を入れると、女の体は弓なりにしなった。
あの気持ちよさを麻里子は知っている。
切なくて、叫びたいような、思わず腰が動いてしまうような、あのもどかしい快感を、麻里子は知っている。
やっと立ち尽くしている麻里子の存在に気が付くと、女が髪の毛をかきあげながら、こちらを向く。
「ほらね」
鼻にかかる色っぽい声で笑う。
「だから、さっさと結婚しとけばよかったでしょ?」
麻里子は目を開けた。
薄暗い自分の部屋。
枕に外にある外灯が反射している。
空はまだ薄暗い。
時計を見る。
二時半。
布団に入ってから、まだ一時間しか経っていない。
ふわふわした感覚が、少しずつ抜けていき、急激に現実の波が押し寄せてくる。
黒くて、冷たくて、まるで津波のように計り知れない闇が、迫ってくる。
あの波に、身体が包まれてしまったら。
きっと麻里子の小さな体など、八つ裂きにされる。
◆
◆◆
◆◆◆
再び目を開けた。
四時。
もうそろそろ起きてもいい頃だ。麻里子は身体を起こした。
まだ寝ている家族を起こすまいと、足音に気を付けながら階段を下りていく。
リビングに入ると、いつも会社から戻ると身を預け、ときにはそのまま朝を迎えることもある、お気に入りのソファがある。
だが今日はなぜか座る気にはなれず、片隅に置いてあるパソコンデスクの前の、ホームセンターで買った2000円の椅子に腰かけた。
膝を立て、何とはなしにパソコンを起動する。
今日のロック画面は、どこかの国の、どこかの夜景だった。
付き合いたての頃、二人で言った京都の夜景を思い出す。
たしか梅酒が美味しいお店だった。
―――――。
慌ててパスワードを入れ、画像を消す。
デスクトップに並ぶアイコンを見て、麻里子はほっと胸をなでおろした。
これから、いくつ、こういう小さい山を乗り越えていかなければいけないんだろう。
乗り越えて。
乗り越えて。
彼を、
忘れるまで。