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あのライブの、あの歌詞がずっと心に突き刺さったままの上鳴。ノマドとTroupe de musique seuleの正体が歌だと分かってから、2人はお互いのことを意識し始めていた。
「なー耳郎。楽器貸してくんね??」
共同スペースで雑談している耳郎に声をかける。
「良いけど、なんかあった??」
「歌ちゃんにさ、気持ち伝えようと思って。歌ちゃん、音楽以外の音聞こえないからさ。」
「歌で告白かぁ!!いいと思う!!」
耳郎の言葉に共同スペースにいる全員が頷く。もはや上鳴と歌の関係はA組公認になっている。
「なるべく早く返すから。」
「いや、ゆっくりでいいよ。納得いくまで使って。」
と自分の部屋に、上鳴を案内した。
明くる日の放課後。
「今日の訓練、どうだった??」
「もうヘトヘト。個性を伸ばす訓練でさ。最大出力出すだけで精一杯なのに、それよりもっと、限界まで出せって。」
「なかなか、手厳しいね。」
「そうなの。相澤先生厳しいの。勉強でも赤点取ったら除籍とか。もうついていくのに必死。」
「ヒーロー科ってそんなに大変なんだね。」
「普通科はどんな感じ??」
「ほんとに、普通だよ??この前みたいなヤなヤツいるけど。1日座学して帰る感じ。」
「たまには、その普通な日常を送りたいよ。」
苦笑して、空を仰ぐ上鳴にどうしたのと手話する歌。
「今度、オレとデートしてくれないかな??」
唐突な手話に、スマホを落として固まる歌。
「嫌、かな??」
首を目一杯横に振って、デートする。と嬉しい感情を込めて手話をした。
「ありがとう!!遊園地とかどうかな??」
「良いよ。私絶叫系大好き。」
「よっしゃ。ガンガン乗ってこうぜ。」
この後、歌と別れてからも気分が浮き足立つ上鳴であった。
遊園地デート当日。お揃いのカチューシャを買い、全ての絶叫マシンを堪能した。
「観覧車、乗ってから帰らねぇか??」
「良いよ。」
休憩がてら、軽食を済ませたあと、いざ観覧車へ。観覧車に近づくにつれ、上鳴は落ち着かない様子。
「緊張してるの??」
「いやぁ。密室で2人きりって始めてじゃん??」
その言葉に歌も動揺してしまう。いざゴンドラに乗車。
「(タイムリミットは観覧車が1周するまで。)聞いてほしい歌があるんだ。耳栓外してもらって良いかな??」
手話で伝え、耳栓をはずしたのを確認するとスマホの再生ボタンを押す。流れてきた音楽と上鳴の歌声に驚くと同時に涙する歌。
君と僕だけの世界に響くこの歌
止むことなくずっと…
柔らかなでも凛とした声でサビの歌詞の最後を締めくくった。
「歌ちゃんのことが好きです。僕と付き合ってくれませんか。」
歌い終え、手話で告白した上鳴に、涙を拭って。
「はい。もちろんです。」
と手話で返した。
「ありがとう!!」
思わず叫び、歌を抱きしめたところで終着した。歌の手を取りゴンドラを降りる。歌を自宅近くまで送る時まで決して手を離すことはなかった。上鳴が寮へ戻ると。
「どうだった…??」
共同スペースに全員が集まっており、先陣きって切島が聞く。上鳴は感極まった顔で両親指を立てた。それを合図に皆が一斉にクラッカーを鳴らし、祝賀会が始まった。明日も休みということで皆で夜遅くまで騒いだ。
歌に告白してから見える景色が変わったような気がした。それでも放課後にやることは変わらない。
「手話、ほんとに上達したね。」
「ありがとう。でもまだ筆談がないと不安。」
手話と筆談、使い分けながら会話する2人。
「あの曲作ってくれてありがとう。大切にするね。」
「君の声が聞きたいよってライブで歌ってたから、感化されちゃって。」
「上鳴君に届くように作ったんだよ。届いて良かった。」
「ちゃっかり告白されちゃってたんだなオレ。先越されちゃってたか。」
微笑む歌の頬をそっと撫でる。その手を優しく握る歌。照れる上鳴を悪戯っぽい目をして見つめる。数秒見つめあい思わず笑う2人。
あの日あの時、声をかけなかったら決して始まることのなかった恋。
その恋を祝福するかのように柔らかな風が2人の間を吹き抜けた。