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第八十六話 新しい知らせ
一月の終わり。
新しい年が始まってから、
湊の毎日は少しずつ忙しくなっていた。
撮影の予定。
写真の整理。
新しく勉強し始めたこと。
去年よりも、
カメラを持って外へ出る時間が増えている。
以前なら、写真を撮ることだけで精一杯だった。
けれど今は、撮った写真をどう残すのか。
誰に届けたいのか。
その先に何があるのか。
そんなことまで考えるようになった。
その日の午後。
撮影を終えて帰ってきた湊のスマートフォンに、
一通のメールが届いた。
件名を見て、足が止まる。
以前参加した撮影企画からだった。
湊は画面を開く。
そこには、次の企画についての案内が書かれていた。
去年より規模が大きい。
参加するには、いくつか条件もある。
すぐに決められるような話ではなかった。
「……どうしよう」
湊はメールを閉じた。
写真を続けていれば、いつかこういう機会が来る。
そう思っていた。
でも、実際に目の前にすると少し怖かった。
今の自分にできるのか。
まだ足りないものが多すぎるんじゃないか。
そんな考えが浮かんでくる。
そのとき、紬からメッセージが届いた。
『今日、大学でちょっと面白い話があった』
湊はすぐに返信する。
『なに?』
『今度、海外から来る学生たちと交流する企画があるんだって』
『へえ』
『まだ詳しいことは決まってないけど、参加してみようかなって思ってる』
湊はその文章を見つめた。
紬らしいと思った。
知らない人と出会うことを怖がるより、
「知ってみたい」
と思える人。
それは高校生の頃から変わっていない気がした。
『いいじゃん』
湊が送る。
『湊は?』
『俺も今日、ちょっと挑戦してみようかなって思うことがあった』
『なにそれ』
『まだ秘密』
『えー、気になる』
湊は笑った。
『決めたら言う』
『約束ね』
『うん』
短いやり取り。
それだけだった。
けれど、電話を切ったあとも、
湊は紬の言葉を思い出していた。
それぞれ違う場所にいる。
それぞれ違うことをしている。
それでも、不思議と同じようなタイミングで
新しい一歩を考えていた。
夜。
湊はもう一度メールを開いた。
画面を見つめる。
そして、返信欄を開いた。
しばらく迷ったあと、
「参加を希望します」
と入力する。
送信ボタンの上で指が止まった。
最後にもう一度だけ深呼吸する。
そして――
送信した。
送信完了。
たったそれだけのことなのに、
胸の奥が少し熱くなった。
何かが始まる。
そんな予感がした。
一方、紬も大学で届いた資料を見つめていた。
まだ決まっていないことばかり。
詳しい内容もこれから。
それでも、その紙を見た瞬間。
なぜか、少しだけ懐かしい気持ちになった。
理由は分からない。
ただ、そこに書かれていた一つの言葉が、
以前どこかで聞いたことがあるような気がした。
紬はその言葉を指でなぞる。
「……なんだろう」
思い出せない。
でも、気になった。
その夜。
二人はそれぞれの場所で、新しい一歩を踏み出した。
まだ知らない未来へ。
まだ見たことのない景色へ。
そして、この日交わした何気ない言葉が、
後になって二人にとって大きな意味を持つことを――
このときの二人は、まだ知らなかった。
📷 Photo.086「新しい知らせ」
撮影日:1月28日
新しい年。
新しい挑戦。
そして、まだ名前のついていない小さな変化。
二人の未来は、静かに動き始めていた。
――次回、第八十七話「重なったタイミング」へ続く。
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コメント
1件
あおいです🌷 第86話、読ませていただきました。 湊くんが撮影企画への参加を迷いながらも「参加を希望します」と送信するシーン、すごくリアルで胸が熱くなりました。あの「送信ボタンの上で指が止まる」感覚、わかります……! そして紬さんも同時期に新しい挑戦を考え始めているところが、二人の“同じ空気感”を感じさせて素敵でした。それぞれの場所で静かに動き出した未来が、どう交わっていくのか楽しみです。