コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「早く……早く出てぇ~!」
漏れる~ぅ、というセリフをかろうじて飲み込んだ時だ。
2回連続して水を流す音が聞こえた。
ようやくトイレットの扉が開く。
アパートに2つしかない共同トイレットだから、時として(いや、かなり頻繁に)こういう事態は起こるのだ。
悠々と出てきたのはかぐやちゃんだ。
少し微笑んでアタシを見る──いや、アタシを通り越してすごい遠くを見詰めている。
「聞け。昨日久々にお腹いっぱい食べたからか、かつてない大きさのウンPがでた」
すごく満足そうだ。
「そ、そうなん? よかったな…」
「ウム」
頷いてかぐやちゃん、鼻歌口ずさみつつ庭に帰っていく。
……アタシ、今更ながらガッカリした。
あの人、黙ってたらホンマに格好いいのに。残念すぎる。
窓を全開にして用を足している最中だ。
「早くッ! 早くッ!」
ドアがドンドン叩かれる。
「あぁぁ、ちょっと待ってぇ」
「待てないぃぃぃ! 早く出てぇぇぇ!」
「ひぇぇ、ごめん! すぐ出るから待ってぇな!」
かぐやちゃんの堂々としたマイペースっぷりを見習いたいわ。
あの人、どんだけ順番待ちしてても優雅にゆったりとウンPできる人やもん。
小心なアタシはそういうわけにもいかず、慌てて出た。
待っていたオキナに舌打ちと共に睨まれ、不満に思ったものの「ごめんなさい。お先でした」と頭を下げる。
扉を閉めてからオキナの悲鳴があがった。
「臭ッ! あの女、ウンPしたな!」
違う!
「違う。アタシ違うのに……」
何だか涙が出て、アタシはその場に力なく座りこんだ。
程なくして出てきたオキナがアタシに躓く。
「ギャッ!」と悲鳴をあげて数歩よろめいてから、側に座り込んだ。
「ご、ごめんってば。さっきはボクもちょっと焦ってたからさ」
「アタシ違うねん…」
「分かったって。ね、昨日は大丈夫だった? やっぱりショックだったよね。今はどうしてるの? やっぱりノーパン? 仕方ないよね。パンツないんだもん……プッ! ど、どんな形であれ……ブフッ! ノーパン仲間が増えてボクとしては嬉しい限りだよ?」
「ち、違うわ。今ちゃんとはいてる。笑うな! それにアンタも最近は水色パンツはくようになったんやろ?」
「んー……? やっぱり締め付け感? 締め付けられ感? が許せなくて、気付けばパンツを脱いでたよ」
「そ、そうなんや。気付けば脱いでたんや……」
「残念。この機会にキミも目覚めたら良かったのに。ボクと同じノーパン主義に♪」
目覚めてたまるか!
昨日はホンマに散々やった。
外れた肩は夜通し痛む。
さらに自転車から落ちた時に右足も傷めたらしい。
足の甲にズキズキと激痛が走り、かるく腫れてる感もある。
不安になって夜中に桃太郎を起こすも、きびだんごを一つ貰って慰められただけ。
人ん家でグーグー気楽に寝ている桃太郎の寝顔を見ると、腹立ってしょうがない。
何せパンツがないのが痛い。
自転車遊びから帰ったらアタシのパンツ、全部盗まれた。
昨日穿いてたやつ1枚しか残ってない。
精神的疲労が激しく……しかもモヤモヤした思いが渦巻いて、昨夜はロクに眠ることもできなかった。
「お願い。パンツ貸して。洗って返すから」
とりあえず夕べお風呂に入る時、お姉に頼んだ。
すると姉は露骨に顔を顰めたものだ。
「貸してあげるわ。でも、返してくれなくて結構よ」
気持ちは分かるけど、傷付く言い方やわ……。
そして桃太郎の指揮下に捜査本部が(なぜかアタシの部屋に)置かれたのが、今朝のことだ。
関係者一同、外出を禁じられる。
有無を言わさず捜査本部の一員や。
何でや。アタシは朝イチでパンツ買いに行こうと思ってたのに。
「皆の衆!」
張り切って立ち上がった桃太郎。
スーツ(上だけ)にメガネ、短パン姿は捜査指揮官としては滑稽な感じや。
「皆の衆に集まってもらったのは他でもない。知っての通り、昨日リカ殿の黄ばんだパンツが盗まれたのじゃ。一枚残らず持っていかれたのじゃ」
「き、黄ばんでへんわ! 真っ白や! アンタな、何回も言うけどアタシは16歳の乙女やで。失礼にも程があるわ!」
押し殺した低い笑い声が地味に響く。
オキナとうらしま、お姉が笑っているのだ。
ひどい人たちや。
ウケた、という思い。
それが桃太郎を更に調子付かせた。
「容疑者はアパートの中の8人+αじゃ! 余が思うに、犯人はこの中におるやもしれぬ~!」
中途半端なキメ台詞と共に、奴はアタシらを見回した。
事件って言うな! これは楽しいイベント違うねん。
「まずは聞き込みを行うが良い、リカ殿」
「行うが良いって、人にさせる気か! 桃太郎、アンタいいかげんにして。人の非常事態を利用して遊ぶな!」
「ほ? そちも、こういうことが好きではなかったか?」
「む……」
桃太郎とワンちゃんのデート(?)の際に尾行を楽しんだのは確かや。
空想の中で刑事ごっこしてた。
カメさんがうんうんと頷く。
アタシが睨むとシュンとしたけど。
「良いではないか。余に任せよ。ともかく、事件の前後の状況を考えてみよう。リカ殿に恨みを抱く存在がおるやも知れぬのぅ。数多く……それはもう、数多くおるように思うぞよ」
「そ、そうやろか……」
自信が揺らいでくる。
桃太郎の言う通りかもしれん。
アタシ、みんなに恨まれてたんかなぁ。
大雑把な性格やし。
人に迷惑かけても気付かないとこ、あるんかもしれへんなぁ。
パンツを盗まれても仕方がない人間なんやろか。