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セリオはリゼリアの後を追いながら、未だに得体の知れない感覚に苛まれていた。


視界は鮮明で、五感も正常に働いているはずなのに、自分の身体がどこか現実味を持たない。歩けば地面を踏みしめる感触はあるが、以前よりもずっと軽い。それでいて、まるで冷たい霧のようなものが自分の周囲にまとわりついているのを感じる。


「……ここはどこだ?」


彼は周囲を見回しながら問うた。


リゼリアに連れられて出た部屋は、石造りの古びた廊下へと繋がっていた。天井は高く、壁には淡い青白い光を放つ魔導灯が等間隔に並んでいる。どこからともなく流れる冷気が、ここが生者の世界とは異なる場所であることを物語っていた。


「私の研究所よ」


リゼリアは振り向きもせずに答えた。


「ここは魔界の奥深くにある地下施設。亡者の魂と、死を超越する術を研究するための場でもあるわ」

「……死を超越する術、ね」


セリオは皮肉げに笑った。 


「お前が俺を蘇らせたのも、その研究の一環というわけか?」

「違うわ。お前は私の研究の成果としてではなく、私が必要としたから蘇らせたのよ」


リゼリアの答えは淡々としていたが、どこか確信に満ちていた。


「……俺に、魔王になれと言ったな」

「ええ」

「お前の言う魔王とは、一体何なんだ?」


セリオは立ち止まり、リゼリアの背中を見据えた。


魔王。かつて彼が討伐すべく戦った存在。その座に、自分がつくというのか?


リゼリアはゆっくりと振り返った。


「単なる名ではないわ。魔王とは、魔界を統べる絶対的な存在」

「そんなことは知っている。俺が聞いているのは——なぜ、俺なんだ?」

「先ほども言ったとおり……お前が魔王に相応しいからよ」

「その理由を聞いている」


リゼリアは小さく息をついた。


「……お前は人間だった頃、戦場で私を殺したわね」


セリオの眉がわずかに動く。


「覚えているのか?」

「ええ、はっきりと」


リゼリアの紅い瞳が、静かに彼を見つめる。


「お前は本当に強かった。魔族の精鋭をも退け、戦場を駆け、誰よりも優れた剣士だった。そして——私はお前に殺された……」


「……」


「あの時、私は確かに死んだ。でも、その瞬間に思ったの。この男こそ、魔族を導くに値する者ではないかと」


セリオは言葉を失った。


リゼリアは自らの胸に手を当て、僅かに微笑む。


「私は不死の術で蘇ったけれど、それ以降、ずっとお前のことを考えていたわ。魔王とは、ただ強いだけではなれないの。統治の才覚と、揺るがぬ意志を持つ者でなければ務まらない」


彼女の言葉に、セリオは内心で苦笑する。


「俺にそんなものがあると?」


「ええ。お前は人間だった頃、誰よりも責任感が強かったでしょう? 騎士として、勇者として、誇りを持ち、国や民を守るために戦っていた。お前のような人物が魔族の王になれば、魔界はより良い方向へ進むはずよ」


「……都合のいい話だな」


「かもしれない。でも、それを選ぶのはお前よ」


リゼリアは静かに言った。


「私はお前を蘇らせた。でも、お前の意志を否定するつもりはないわ。だから、今はまず魔界を知ってほしいの」


「魔界を……?」


「ええ。お前は今、死者よ。人間として生きた記憶しかないお前にとって、魔界は未知の世界でしょう? でも、ここで生きるのなら、知っておくべきよ」


セリオはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……わかった。少し見て回るくらいなら付き合おう」

「賢明な判断ね」


リゼリアは満足げに微笑んだ。


こうして、死者となった勇者セリオ・グラディオンの、魔界での新たな歩みが始まるのだった。

死せる勇者、魔界で生きる 〜蘇った俺はただ静かに暮らしたい〜

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