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ドンッ、ガタン、と鈍い音が多数の男女の随分楽しそうな笑い声と共に響く。
「ぅぐ、、、っうぅ」
ただ、校舎裏の壁にもたれかかり座り込んでいる青年には、楽しそうな様子など見て取れなかった、寧ろ苦しそうに肩でひゅうひゅうと息をしていた。一人の女がそんな様子の青年を嘲笑う。
「ウケる!御自慢の顔が血だらけじゃん!」
青年の頬には殴りつけられた様な痕があり、赤く腫れていた、痛みに悶えながらも目の前の女をキッと睨みつけた。
「は、っんだよその目っ!」
バチンッ!
渇いた音が鳴った、血の鉄臭い味がする、歯茎が切れた様だ。歯を食いしばっていたせいか、はたまた目の前の女に打たれたせいかは分からない。不快な鉄の臭いが口の中を埋め尽くし、鼻をツンと刺した。僕を嘲笑う莫迦共の視線が、鼻腔に充満する鉄の臭いが、こんなくだらないモノを苦に感じる情け無い自分が気持ち悪くて、 ゲホゲホと吐くように咽せた。
下劣な笑い声が頭上から僕の耳をつんざく。
「おいおい、辞めてやれよ、此奴弱虫なんだからそろそろ泣いちまうって」
ゲラゲラと怒鳴りつけるように嗤う、その音が如何にも不愉快で顔を顰めた。
嗚呼、頼むから早く終わってくれ。
そう願い、次々と襲い来る痛みに耐えながら青年はぎゅっと目を瞑った。笑い声は大きくなるばかりだった。
「今日は酷かったな、、、」
トイレの鏡の前で呟く、未だ痛む頬をそっとさすった、腫れは引いたが赤くなってしまった。
「どう誤魔化そうかな」
可愛い猫が居て、撫でようとしたら華麗な猫パンチを喰らってしまったとでも言えば、彼らは信じるだろうか。
「まぁ大丈夫だろう」
彼らなら信じる、だって僕のことが大好きなんだから、あいしてくれてるんだから僕を疑う事などしない、前だってそうだった、僕がトイレの個室で泣き腫らして、目元に赤い痕が出来ても『寝不足だ』と言えばいとも簡単に信じた。手首の切り傷も少しドジをしたと言えば信じた、薬品の瓶が直ぐに空になるのだって、あり得ない位置に出来た痣だって、言い訳すれば信じた、全て信じた。それ程僕を信用してくれているんだ、それは良い事な筈だ、なのに。
「なんで」
どうして
「ないてるんだろうな、、、」
どれほど泣いただろうか、気付けばもう7時になっていた。
ピコン
携帯端末が鳴く、電源を入れたら一件の通知が入っていた。
『治、もう暗くなってきましたがまだ遅くなりますか?』
滅多に連絡を寄越さない2番目の兄からだった、もう暗くなってきたのかと窓の外を見たら日が暮れ始めていた、もう三番目の兄も帰宅しているだろう。そりゃあ彼が心配する訳だ。
【ごめん!友達と遊んでたら遅くなっちゃった、もうすぐ帰るよ!】
上手く取り繕った回答をしたら、直ぐに既読になった。
『そうですか、今日は蟹料理なので早めに帰って来て下さい』
【マジ!?分かった!】
嗚呼、家でもこのテンションで過ごせるだろうか、不安な気持ちと相反した酷く明るくて綺麗な夕陽が目に入った、その美しさがどうにも皮肉のように見えて、心が掻き乱されるような気がした。