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教室前の廊下。夕日が長く伸びる影を作る中、いるまとこさめは、みことを迎えに来ていた。
「みこと、帰るぞ」
いるまはいつもの低い声で呼びかけるが、返事はない。
クラスメイトの一人がにやりと笑いながら、
「もう帰ってったよ」
と嘘をつく。
「……そうか」
いるまは少し首を傾げ、不思議に思う。
しかし、こさめは無邪気に、
「じゃあ帰ろう!」
と笑顔で手を引く。
不思議に思いながらも、いるまは渋々うなずき、2人は自宅へ向かった。
校門を抜ける道すがら、こさめは元気よく話しかける。
「今日の授業も楽しかったね! ねえ、いるまくん、あの先生の話聞いてた?」
いるまは短く答え、少し不機嫌そうにそっぽを向く。
しかし心のどこかで、みことのことが気になっていた。
___
家に着くと、みことは居らず、らん一人だけだった。
いるまとこさめが入ってくるのを見て、微笑みながら言う。
「おかえり」
「ただいまー!あれ?みことくんは?」
「まだ帰ってきてないよ? まぁ、1人になりたい時もあるんじゃない?」
らんはそう言いつつも目は少し曇っていた。
心の奥では、やはりみことがまだ帰っていないことが心配だった。
彼は手元の携帯を取り出し、まだ帰宅していないひまなつとすちに連絡を送った。
「今、みことだけ帰ってきてない。心配だから見つけてきて」
その表情の裏で、みことの安全を案じる気持ちが静かに揺れていた。
___
自宅に戻ったいるまは、リビングで腕を組みながら不貞腐れた表情をしている。
「……全く、何してんだよ」
こさめはソファに座って、お菓子をつまむ。
「心配しなくてもみこちゃんもう帰り道覚えてると思うよ!」
いるまはため息をつき、視線を窓の外に向ける。
心の奥では、みことがどこにいるのか、何をしているのかが気になっていた。
だが、らんの言葉を思い出し、少し不満げにうなずく。
帰ってくるまで待つ。
その決意は、不機嫌そうな態度とは裏腹に、確かなものだった。
夕日が部屋をオレンジ色に染める中、いるまは窓の外を見つめ、みことの帰りを待った。
___
夕暮れの街路を、ひまなつとすちは並んで歩いていた。
風が少しひんやりと頬を撫で、街路樹の影が長く伸びる。
空はオレンジ色に染まり、通りには学校帰りの生徒がまばらに歩いている。
「今日も疲れたなぁ……」
ひまなつがぽつりと呟き、背中のリュックをぎゅっと抱え直す。
「まったくだね」
すちは荷物を背負いながら、前を見据え、歩幅を揃える。
そのとき、ふと視界の端で、立ち止まり、ぼーっとしている人物を見つけた。
「……あれ、みこと?」
ひまなつが小さく息を漏らす。
歩道の片隅に立つみことの姿は、いつもの静かな雰囲気とは違っていた。
服や袖は埃で汚れ、腕には血の滲みが見える。
歩き方はふらつき、まるで意識が遠くにあるかのように虚ろな目で前を見つめていた。
その様子は、見る者に違和感と不安を与えた。
すちは息を呑む。
(……腕、血が滲んでる……!)
ひまなつも胸がぎゅっと締め付けられるような思いを覚えた。
触れると怖がるかもしれない――だから二人は、慎重に、距離を保ちながら駆け寄ることにした。
「みこと、今日1人なん…?」
ひまなつが少し震える声で言う。
すちは横から補足するように、低く、落ち着いた声で、
「一緒に帰ろう」
みことは二人を見つめ、わずかに首を動かして無言で頷いた。
その無表情の頷きは、いつもよりかすかに力なく、儚げに見える。
すちはその血の滲みや、汚れた服を見て、心がざわつく。
「……怪我したの?」
静かに声をかける。
みことは虚ろな目で、言葉少なに答える。
「……わかんない……」
___
すちはみことの腕をちらりと見て、じっと観察する。
血の滲みは少しずつ広がっているが、みことは何も訴えない。
その無表情さに、すちは胸が痛む。
ひまなつも、横で静かにみことを見守る。
触れることもできず、ただ距離を保って歩くしかない自分たちの無力さに、少し歯がゆさを感じていた。
それでも、みことが二人の後ろに寄り添うようにして歩く姿に、わずかな安心も覚える。
虚ろな目の奥に潜む、かすかな信頼の気配――それだけが、救いだった。
ひまなつとすちは、言葉少なに距離を保ちながら、みことの歩みに合わせてゆっくり進む。
その沈黙の中には、心配と緊張、そして微かな連帯感が交錯していた。