「それが白輝 隆宏…貴方の過去なんですね」
朱里は、目の前の男性の過去を聞き、無感情で静かな空間を壊した。隆宏は、無感情で話してくる朱里を見て、馬鹿げたように笑う。そして、語った。
「人の名前は、書くと短い文字になる。それなのに、年を重なっても俺の人生から離れない…決して忘れられない名前だ」
「忘れられない名前では無く、忘れたくない名前ですよね」
朱里は、自分の心に嘘をつく隆宏を破いた。
「そんな嘘をつくなんて、後悔しているんですか?その人に恋する事を」
朱里は、真っ直ぐに目の前の男性を見た。その男性も目を逸らさず真っ直ぐに朱里を見て応えた。
「馬鹿なこと言うな。何があっても、理々花を恋したことを後悔なんかしない。お前が璃菜に向けての感情と同じでな」
朱里は、目の前の男性の言葉に驚いた。このカフェに入ってからの初めて感情が出たのだ。手に持っている飲み物がこぼれ落ちそうになっていた事にも気づかないほど驚きを隠せなかった。
「知らないとでも思っているのか? 」
朱里は、震えながら問いかけた。
「なぜ知っている」
目の前の男性は当然そうに応えた。
「お前の目を見ればわかる。俺が理々花を見た時の目と全く一緒だ」
その言葉で朱里は固まった。そして、目の前の男性は続けた。
「これが血の繋がりってやつか」
朱里は、俯いた。なんも言い返せなくて悔しいっという感情が浮かんだ。
「私と璃菜をすり替えたのはあなたでしょ」
突然話題を帰る朱里に目の前の男性が、さっきの朱里のように無表情で応えた。
「そうだ」
「私と璃菜をなぜすり替えたの?」
答えは分かっていた。だが、その人の口から聞いた方が納得が行くと思った。
「お前が思っているのと同じことだ。」
「そう…」
また静かな空間が広まった。血の繋がりがあるのに、親子みたいで親子じゃないこの二人の間に大きな壁が出来上がっていった。その壁は、お互い壊したくないほど、魅力的なものがあるのだ。
店の中はうるさかったが、二人の居るところは静かだった。その静かな空間で、隆宏は何かを決意し、朱里に言った。
「璃菜を転校させる」
俯いている朱里でもその言葉を聞いて、勢いよく顔を上げた。何を言っているのっという顔で目の前の男性を見た。
「顔に出すぎだ。お前の母さんみたいだ。」
朱里は、深呼吸した。
「貴方の奥さんのこと?」
「あぁ、嫉妬深くめんどくさい女だ」
「あんたの奥さんなのに?」
「あのクソ女を俺の奥さんと呼ぶんじゃねぇ」
朱里は静まった。頭は璃菜のことでいっぱいだった。
「本当に、璃菜を転校させるの…?」
朱里は、恐る恐る聞く。
「あぁ、過去の俺は初恋を手に入れられなかった。だから、血の繋がりのあるお前が、手に入れるのは気に入らない。」
「そんなことはさせない」
強がる朱里を見て隆宏は見下していた。
「子供のお前に何が出来る。女と女が恋するのはキモイ事だ」
そう言って目の前の男性は店から出て行った。
そうだ…私は子供だ。今の歳の子達と少し、頭の回転が早く成長しただけの子供だ。何も出来ない子供だ…でも、女の子と女の子の恋はキモイの?
ある一軒家で、火事が起きた。その隣の家は、静樹家だった。直ぐに消防車が来たため、静樹家の家まで火は来なかった。だが、静樹家は、静かだった。子供の心配ではなく、ただ下を向いて悲しんでいた。そう、叔母さんが来て、朱里が自分たちの子じゃないことを言ったせいで、この家族はだんだんと壊れて言ったのだ。
「怪我はないか?」
リビングで静かに座っている私に父が話しかけてきた。私は、父の後ろにいる母を見た。母は私の目を避けた。目を避ける母から目を逸らし、父を見た。
「大丈夫」
っと言った。この一言で、両親はホッとした。その時、朱里は疑問に思った。もう自分たちの子供じゃない事に気づいたのに、なぜ優しくしてくるの…
「ご飯にしましょ」
理々花は、二人に言った。
「あぁ」
父は、頷きテーブルに向かった。私は父の後ろについて行った。テーブルの上には私の好きな食べ物しか無かった。いつもと同じく優しい二人だが、少し他人と話しているように私に話しかけた。私は、いつも通りに笑顔で振る舞い、ご飯を食べ自分の部屋に戻った。
今の私は、両親のことではなく、璃菜のことを考えていた。店で隆宏が言っていたあるの言葉…「璃菜を転校させる」その言葉で、私はどうやって家に帰ったのか知らなかった。
だが、何を考えていたのかはハッキリと覚えていた。それは、璃菜の笑顔だった。静樹 理々花のように優しく太陽のように明るい笑顔だった。
その笑顔がもう二度と見られないと思うと胸が痛くて痛くて仕方なかった。その明るい性格も、光る瞳で私を見る目も、これから見られなくなって行くことを信じたくなかった。でも信じるしか無かった。
この時、直ぐに大人になりたいと思った。大人になったら、全てを変えられると思ったからだ。大人になったら、璃菜の通っている学校に転校し、楽しく過ごす夢を見ていた_
さようなら、私の初恋…
そしてまた会おう、私の初恋_
コメント
9件
「理々花を恋したことを後悔していない」って言葉、なんか惚れる…けど言ってる人が2人の人生を入れ替えた隆宏だから、少し曖昧な感情