「君には山が赤色に視えるんだね?」
「はい」
緑に生い茂った山を少年は、『赤』だという。
青・黄色などの表現であれば、まぁ、わからなくはない。
だが、山を『赤』という表現をした人間と、僕はかつて出会ったことがない。
「本当に君には、山が赤色に視えるのかい?」
人の感性にケチをつける酷い大人、そう思われてでも、僕は少年に理由を聞たのだ。
「はい、やっぱり僕にとっては『赤』だよ」
「理由を聞いてもいいかな?」
「僕が最初で最後にみたものは、『山』なんだ。『山』は普通は緑?なんでしょ。
だけど僕が初めて目に映したものは、僕のイメージの緑とは違って、もっと強くてたくましい、そんな感じがしたんだ。
みんなが知っている、強くてたくましい色は『赤』なんだよね?
だから、僕にとって山は『赤』でいいんだ。
僕は、もう二度とみることができないけれど、きっと死ぬまであの山の色を忘れない」
少年から理由を聞いたあと、僕は自分のみている世界が小さいことに絶望した。
目でみえているものだけで、決めつけてしまうことが、どれほど自分の世界を狭めているのかを気付かなくては、
きっと僕らはこの小さな世界に囚われたままなんだろう。
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