『客人』
「この私めがお客様のご要望に合う、この世に2つと無い。
完璧な人形を是非紹介致します」
にこりと微笑みながら女性の目線に合わせて少し腰をかがめて言う
女性が日常離れした店内に少し驚いているが、それもそうだ。
壁という壁に人形やそれ関連の小物が置かれているだなんてそう見ないものだ。
オマケにその殆どの人形が美しいがどこか不気味な雰囲気を漂わせていれば余計に。
石榴が女性を椅子に座らせた途端、子供のような高い笑い声が店に響く
「キャハハッ」と笑い声が聞こえ、女性がびくりと体を震わせる。
「お客さ〜ン?私達のこと買ってくれるノォ?」
「嬉しィなァ嬉しィなァッ」
女性の背後に座っていた大体50~60cm程の人形達が
ケラケラ笑いながら幼い子供の様な口調で歪に足や手を動かしながら言い、
女性は思わず椅子から落ちてしまいそうになる
「こら、皆さん、あまり騒いではいけませんよ?」
右手の人差し指をピンと挙げ子供に注意をする様な優しい声色で石榴が告げると
ピタリと人形達の声が止む。
くすりと笑いながら「お客様のことが気に入ったようです」と石榴は女性に告げる。
女性は椅子に座りながら石榴の出した紅茶の入った美しいティーカップを
少し震えた両手で持ったまま少し俯いている。
石榴はそんな女性と机を挟んで座り対面したまま
女性の服装や装飾品を暫し眺めた後、にこりと笑って話をする
「お客様、本日は何をお求めで?」
石榴の声に反応してピクリと体が跳ね「え、えぇ……」という声を漏らすと、一枚の写真を鞄から取り出した。
「…此方は、人形の製作も承って下さるとお聞きしまして…」
掠れた声で女性は告げると、石榴は差し出された写真を見てポツリと呟く
「赤子…?」
「…はい、私の…私の子です……先月、亡くなったばかりですが」
「まぁ…お悔やみ申し上げます」
少し眉を下げ、目線を下にやりながら石榴が言うと、
女性は顔を上げ石榴の方をじっと見つめながら口を開く
「…この子を、私の子を…造ってください。
また、この腕でこの子を抱きたい…ただそれだけです…いくらでも支払います…お願いします…」
そんな言葉を紡ぐ女性の覇気のない表情は
身に付けている豪華なドレスとは対極的過ぎるもので、
なんとも違和感があるな。
そんな事を思いながら、石榴が人形についての説明をする
話を一通り終え、客を帰すと石榴は裏にある庭園の花に顔を埋める。
花よりも艶やかな唇と、長いまつ毛に花弁が当たり、
艶のある白い肌は花が良く映える。
暫し深呼吸をした後立ち上がってドレスについた土汚れを払う。
すると店の裏扉からクオーツが顔を出す
「石榴様、アメジスト様とオニキス様がおいでになられています。」
「あら、お二人共揃ってくるのは珍しいわね…せめて連絡でもしてくれたら良いのに…直ぐに行くわ、客間に通して差しあげて」
「かしこまりました」
一礼し、クオーツが立ち去ると
くるりと回転して、石榴がドレスの裾をふわりと広げ、満足気に笑った後
扉の方へと向かう
コメント
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表現力 神(
赤ちゃんの人形…なんかウッッってなった(?)