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「今朝起きてパソコンひらいて、まず大島てるをみたんだ。そしたらね……」
「ちょっ、待って待って。平日朝イチ、大島てるってどういう思考回路でそうなってんだよ」
早速、話の腰を折られて、星歌は「もうっ!」と義弟を睨みつける。
「もうっ……って、言ったって……なにそれカワイッ。もうっ……って」
何故だか手の平で顔を覆って、行人は俯いてしまった。
「お前、耳が赤いよ? ココアで酔ったか?」
「うるさい。ココアで酔うか。いいから続けて」
同い年の義姉弟は、小・中学はもちろん、高校、大学とずっといっしょだった。
大学卒業後、教師の職を得て独り暮らしを始めた義弟に対して、就職にあぶれてバイト生活をする自分はいつまでも実家暮らし。
母に怒られる毎日に、いい加減嫌気がさしていた社会人三年目の冬の朝。
行人の口利きで、彼が勤める私立高校の事務員として採用されたのだ。
アルバイトであることは変わりないし、それも試用期間中なのだが、堅い職に就けたということでようやく独り暮らしの許可を得た星歌。
お洒落なワンルームマンションを、びっくりするくらいの格安家賃で借りられて有頂天になっていた。
──それが、ちょうど二週間前のこと。
「……載ってたんだ」
「何の話?」
さめざめと泣きながら星歌、先を続ける。
「載ってた、私の家、大島てるに……」
「あぁ……」
それが、今朝のできごと。
「俺もお母さんから聞いておかしいとは思ってたんだ。ずいぶん家賃が安いなって。即決する前に相談してくれれば……」
もうあの部屋には戻れないよ……そう呟いてうなだれる星歌に向かって「それで? 出たの?」と実に無神経な質問を投げかける行人。
「出てないなら平気だろ? 姉ちゃん、ずぶといし」
「ヤだよ、ヤだよ。事故物件と知った以上、もうムリだよ。オシャレの極みと思ってた壁紙のマーブル模様が、もはや人の顔にしか見えなくなったもん」
まさか、今日からうちに居座る気なんじゃ……と呟いて目を見開く義弟。
そんなの軽くスルーして、彼女は最悪な一日に降りかかった次なる災厄の話にうつる。