リオの懐には、宿で働いた代価の銅貨三枚と銀貨一枚がある。働く代償に食事と寝る部屋を提供してもらった上に、更に賃金をくれたのだ。あの宿の主人とノラには感謝してもしきれない。 しかし本当なら、ギデオンからも対価がもらえるはずだった。ギデオンが目を覚ます前に逃げてしまったから仕方ないのだけど。
「まあこれだけの金があれば、数日は働かなくても過ごせるか」
でも無駄遣いはできない。とりあえず安い宿を探し、ついでに働けそうな場所も見つけるかと、アンを鞄に入れ空の紙袋を手に立ち上がる。広場の出口に置いてある屑入れに袋を入れて、人が行き交う大通りに足を向ける。
しばらく進んで行くと、様々な物を売ってる雑貨屋を見つけた。リオは、一見役に立たないような物を見るのが好きだ。この雑貨屋には、とてもたくさんの品がある。リオは目を輝かせながら、開け放たれた扉をくぐった。
「いらっしゃい!おや…坊や、一人かい?」
棒の先についた幾重にも裂けた布で棚のホコリを払っていた店主のおじさんが、リオを見て目を丸くする。
リオは、いつものように少し目を伏せながら、「うん」と頷いた。
「俺、一人で旅してるんだ」
「お父さんとお母さんは?」
「もう死んでいない…だから家もない」
「それは可哀想に。どうやって暮らしてるんだ?」
「行く先々で仕事をもらって、その賃金で旅してるんだ」
「そうかい…」
「ねぇおじさん、店の中見てもいい?俺、こういう品を見るの、好きだから」
「ああ、いいよ。ゆっくり見ておいで」
「ありがとう」
リオは得意の人懐っこい笑顔を見せると、端の棚から順番に見て回る。薄い青や緑が透けるガラスのコップや鮮やかな彩色で絵が描かれた食器。別の棚には色んな色で作られた色んな大きさの麻の袋。ガラスの扉がついてる棚には、これまた様々な色のきれいな首飾りや指輪や腕輪があり、鞘に細かい装飾が彫られた剣まで置いてある。
「あ、あの紫の首輪、ギデオンの目の色とおな…」
自然と呟きかけて、慌てて口を閉じる。
は?なんでまたギデオンのこと思い出してんの?俺は騎士が嫌いなのに。ギデオンなんて、すっごく怖い顔で睨んできて、冷たい人なのに。って…冷たくはないか。確かに態度や話し方は冷たいけど、人との接し方が不器用なだけで、本当は優しい人なんじゃないかって思ってる。もう一度会って、ゆっくり話してみたいな…。え?いや!違う!もう一度会って、礼金をきっちり貰うんだよ!だから会いたいんだっ!
悶々と考え込んでいると、下から「アン」とかわいらしい声が聞こえた。アンが心配そうに見上げている。
リオはアンの頭を撫でて「起きたのか?」と笑う。アンに手のひらを舐められて、くすぐったさに首をすくめていると、赤の首輪を見つけた。リオの目の色と同じ赤い色。そして隣には同じ形の紫の首輪がある。リオは振り返り「おじさん」と店主を呼ぶ。
店主はすぐに傍に来て「気に入ったのがあったかい?」と聞く。
リオは目の前の首輪を指差した。