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「あの赤と紫の首輪。いくらですか?」「あれかい?色の着いた金は高価だからね。どちらも銀貨十枚だね」
「銀貨十枚…」
「そう。あの二つの金の首輪は、そこまではっきりとした赤と紫の色じゃない。だから銀貨を出せば買えるんだよ。もっと鮮やかな色なら金貨三枚はするよ」
「金貨三枚…」
銀貨十枚でも高いのに、金貨がいるのか。今まで装飾の類に全く興味がなかったから、知らなかった。銀貨十枚…二つで二十枚…。全然足りない。でもどうしても欲しい。
リオは、店主の目を見て頭を下げる。
「俺、今は銀貨一枚しか持ってないんです。必ず買いに来るから、あの二つの首輪を取り置きしてもらえませんか?」
「まあ、それはいいけど。でも残りの銀貨はどうするんだい?」
「仕事を探して稼いできます。この街は栄えてるし、すぐに仕事を見つけられると思うから」
「ふむ…。それなら私が仕事を紹介してあげるよ。食事処の店員なんだけど…できる?」
「えっ、ありがとうございます!大丈夫!やったことあるからっ」
「ただね、酒も提供する店だから、嫌な客がいるかもしれないけど…」
「あ、それも大丈夫。うまくやれます」
「そうかい?じゃあ今から連れて行ってあげるよ」
「ありがとう。でもお店は?」
「いいのいいの。どうせいつも暇だからね」
そのまま店主に背中を押されて店を出る。店主が【営業中】の札を裏向けると【準備中】の文字に変わる。そして鍵をかけて「こっちだよ」とリオが来た方角とは反対の方へ歩き出した。
「リオ!これを五番のテーブルによろしくっ」
「はいっ」
リオは元気に返事をして、大人の男の人の手のひらくらいの大きさのパンに分厚い肉を挟んだものと、揚げた芋が乗った皿を両手に持って、指示されたテーブルに運ぶ。
「失礼しまーす」
愛想良く言いながら体格のいい二人の男の前に皿を置く。
「お、美味そうだな」
「ありがとう」
男達はリオの目を見て礼を言うと、近くにいた男の方がリオの手の中に銅貨を握らせる。
リオは驚いて「あのっ」と銅貨を返そうとしたけど、「返す方が失礼だぞ」と赤茶色の髪の男が目を眇めた。
リオは銅貨の入った手を握りしめて頭を下げる。そして「ありがとう」と笑って、厨房に引き返した。
雑貨屋のおじさんが酒を飲む客もいるから気をつけろと言ってたけど、礼儀正しいお客さんばかりだ。俺のことをかわいがってくれる人もいるし。さっきの人達は、きっと騎士だな。体格がいいし、手に剣だこができてた。俺は騎士が嫌いだったけど、嫌な騎士は一部の人達だけで、いい人も多いのかも。
そんなことを考えながら、リオは皿を手に、次のテーブルへと運んだ。
この店は夫婦で経営していて、結構はやっている。だから常に人手不足らしく、リオを快く雇ってくれた。以前にもこういった店で働いたことがあるリオは、とても要領がよく、しかも愛想がいいから客受けもよく喜ばれている。そして働き出して十日目にして、すでに銀貨を十枚もらった。首輪を一つは買えるのだが、旅をするには金がいる。稼げる時にできるだけ稼いでおこうと、もうしばらくはこの店で働くつもりでいた。