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どうしてこうなったんだろう。屈強な男に体を押さえつけられたまま、思わずそんなことを考えてしまう。
私は、この国の公爵家の長女だ。公爵家の令嬢として恥ずかしくないように様々な努力もしてきたし、学院では平民にも分け隔て無く接してきた。全く恨まれていないとはさすがに思っていないけど、傍若無人に振る舞うどこぞの侯爵令嬢よりはましだったはずだ。
学院での生活の中、私はお父様の計画を知ってしまった。私の卒業を待って、挙兵して、王を討ち取ろうというもの。謀反の計画。長期休暇の時に実家に戻っていた時に、本当に偶然知ってしまったのだ。
私は、家族が大好きだ。けれど同時に、公爵家としての誇りもある。無能の国王ならともかく、今の国王は善政を行っていて、民からの信頼も厚い。私も、王を尊敬していた。
私は、すごく悩んだ。悩んで悩んで悩み抜いた。
このことを王様なり誰かなりに報告すれば、お父様はきっと処刑されてしまうだろう。そしておそらく、その娘である私も。もしかすると報告をすることで処刑は免れるかもしれないが、国外追放ぐらいはなるかもしれない。
死ぬのは怖い。追放も、待っているのは死だ。やっぱり、怖い。
けれど。黙っていれば、謀反の成功失敗に関わらず、大勢の人が死ぬことになる。成功すれば王家が皆殺しにされるかもしれないし、失敗すれば当然こちらが処刑だ。
それは、嫌だ。私たちが責任を取るなら、それは仕方の無いことだけど。罪のない人が大勢犠牲になるのは、間違っている。
分かっているけど、それでも、死にたくない。
結局私だけでは答えが出せなかったので、平民の親友に相談した。貴族の親友では、信じ切ることができなかった。
その友人も一緒になって考えてくれた。けれどやっぱり答えは出なくて。その時は、またお話をしようと解散して。
その三日後に、突然寮の自室へと入ってきた兵士に私は捕らえられて、牢獄に入れられてしまった。謀反の疑いあり、ということだ。
そうして、あっという間に、私たち公爵一家は、処刑台に上がることになった。
私は、裏切られたらしい。あの平民の友人に。どうせ処刑されるなら、自分から報告して、せめて誇りだけは守りたかったのに。これでは、ただの謀反の罪人だ。
情けない。憎しみが募る。あんな平民など友達だと思うんじゃなかった。
そう、少しでも考えていた先ほどまでの自分を思い切り殴りたい。
貴族の処刑は秘密裏に行われる。だからここにいるのはこちらをあざ笑う貴族連中だけのはずだ。それなのに、彼女はそこにいた。泣き叫んでいた。
「だめ! 待ってください! こんなの、おかしいです! ミランダ様は陛下や殿下に知らせようとしていたんです! だから! お願いですやめてください!」
私が相談した子が、必死になって処刑を止めてくれようとしている。彼女の隣には王子殿下がいて、彼にも縋って止めようとしてくれている。
もうすぐ殺されようとしているのに、私にはそれが、とても嬉しかった。あの子は私を裏切ったわけじゃない。それが分かっただけでも、十分だ。
王子殿下も、沈痛な表情になっていた。さらにその隣では、私と口論ばかりしていた侯爵令嬢も顔を青ざめさせている。
はは。私は意外と、友人に恵まれていたらしい。
どこかで声が聞こえる。次に、息を呑む音。ああ、多分、家族の誰かが、殺された。
「あああ! お願いですこんなのおかしいです! ミランダ様ああぁぁ!」
平民の友人がこちらに必死に手を伸ばしてくる。だめですよ。そんなことしては。そうそう、王子殿下、ちゃんと止めてあげてください。……うん、それでいいんです。
「何か言い残すことは」
大きな剣を持った誰かが、私に問いかけてきた。すでに血まみれの剣だ。その剣で、私の家族を殺したのだろう。
それはいい。謀反はそれだけの罪だ。仕方ない。誇りを穢されたまま死ぬということだけが、嫌だけれど。でも、もう、いいんだ。
「では、一言だけ」
「む……」
何をそんなに驚いているのか。命乞いじゃないのがそんなに意外か?
「私の友人たちへ」
真っ直ぐに、三人へ視線を向ける。あの子も泣きはらしたまま、息を呑んだ。
「ありがとう。貴方たちとの日々は、騒がしくて、少し煩わしいこともあったけれど、とても楽しかったわ」
そう、笑顔で言ってやる。ああ、こら、そんな泣いちゃだめでしょうが。せっかく綺麗な顔なのに、色々台無しよ。王子殿下、って、そっちの二人も泣いちゃったらだめでしょうにまったくもう。
ふふ。やっぱり私がいないと、三人とも……。
・・・・・
「というわけで、こうして何故か幽霊になりました」
「意味がわからん」
半透明でふよふよ浮きながら、目の前の異形の魔王様に告げる。魔王様は頭を抱えてため息をついた。
本当に。意味が分からない。意味が分からないけれど、私は生き残っ……てはいないけど。幽霊だけど。けれど未だ消えずにここに在る。
だから。あの子たちを守るためにも、私たちをはめてくれた誰かさんに、ちょっと復讐でもしましょうか。