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#いるなつ
3e1
718
# 梅雨の妖精
209
🦈「ねぇ」
こさめが声を掛ける。
中学生たちが振り向いた。
「ん?」
「なに?」
「誰?」
囲まれていた男の子も顔を上げる。
少し怯えたような顔だった。
こさめはいつものように笑った。
でも。
なつは分かった。
少しだけ無理をしている笑顔だと。
🦈「その子嫌がってない?」
中学生たちは顔を見合わせる。
「別に」
「遊んでるだけだし」
「な?」
そう言って男の子を見る。
男の子は小さく肩を震わせた。
答えられない。
それだけで十分だった。
こさめは少しだけ眉を下げる。
🦈「そっか」
優しい声だった。
怒っているわけでもない。
責めているわけでもない。
ただ。
その優しさが逆に居心地悪かったのかもしれない。
中学生たちは気まずそうに視線を逸らした。
「行こうぜ」
「うん」
「なんか面倒だし」
結局。
そのまま離れていった。
男の子だけが残る。
🦈「大丈夫?」
こさめがしゃがみ込む。
男の子は少し戸惑った後。
小さく頷いた。
「……ありがとう」
🦈「どういたしまして」
こさめが笑う。
その笑顔はさっきより自然だった。
男の子は何度も頭を下げて去っていく。
静かになった。
🍍「こさめ」
なつが声を掛ける。
🦈「ん?」
🍍「大丈夫か」
こさめはきょとんとした。
🦈「なにが?」
🍍「いや」
言葉に詰まる。
すると。
こさめは少しだけ笑った。
🦈「思い出しただけ」
その一言で十分だった。
何を。
とは聞かなかった。
聞かなくても分かったから。
しばらく沈黙が流れる。
すると。
こさめが空を見上げた。
🦈「昔ね」
ぽつりと呟く。
「こさめもあんな感じだった」
なつは黙って聞く。
🦈「殴られたりとかじゃないよ?」
こさめは苦笑した。
嘘だ。でもこさめは言いたくないんだろうな。
🦈「でもね」
少しだけ遠くを見る。
🦈「毎日言われると結構きついんだ」
男のくせに。
変だよ。
気持ち悪い。
そんな言葉。
🦈「最初は気にしてなかったんだけどね」
🍍「……」
🦈「だんだん嫌になっちゃって」
こさめは笑った。
でも。
どこか寂しそうだった。
🦈「すっちーにバレた時めちゃくちゃ怒られたなぁ」
🍍「怒られた?」
🦈「なんで言わないのって」
少し懐かしそうに笑う。
🦈「泣きながら怒ってた」
なつは思わず吹き出した。
想像できる。
すごくできる。
🍍「それから過保護になった?」
🦈「うん」
即答だった。
🦈「すごいよ」
🍍「知ってる」
🦈「今でも帰り遅いと連絡くる」
🍍「知ってる」
🦈「三十分返さないと電話くる」
🍍「知ってる」
🦈「一時間だとらん兄も来る」
🍍「重いな」
🦈「重いよねぇ」
二人で笑った。
その頃。
少し離れた場所。
👑「よかった」
みことがほっとしたように言う。
らんも頷いた。
🌸「うん」
だが。
隣のすちは何も言わなかった。
じっとこさめを見ていた。
昔のことを話しているのだろう。
なんとなく分かった。
だから。
胸が少し苦しかった。
あの日。
泣きそうな顔を見た時のことを思い出す。
もっと早く気付いていれば。
そんな考えは何度も捨てたはずなのに。
今でもたまに蘇る。
すると。
らんが肩を叩いた。
🌸「すち」
🍵「ん?」
🌸「今見ろ」
すちは顔を上げる。
こさめが笑っていた。
なつも笑っている。
楽しそうだった。
本当に。
らんは静かに言った。
🌸「昔じゃない」
すちは少し目を見開く。
🍵「……うん」
🌸「ちゃんと笑えてる」
それは事実だった。
もう一度見る。
こさめは笑っている。
昔みたいに無理している笑顔じゃない。
ちゃんと楽しそうに。
幸せそうに。
すちはようやく小さく笑った。
🍵「そうだね」
そして。
少しだけ肩の力を抜く。
その時だった。
👑「……あ」
みことが固まった。
🌸「どうした?」
らんが聞く。
みことは前を指差した。
こさめが。
なつの腕を掴んで引っ張っていた。
🦈「見て見て!」
🍍「引っ張るなって!」
仲良く。
とても仲良く。
らんは固まった。
すちも固まった。
数秒後。
らんが呟く。
🌸「よし‥帰るか」
🍵「らん兄?」
🌸「見たくない」
👑「現実逃避しないで」
みことが笑った。
すちは苦笑していた。
でも。
三人とも思っていた。
こさめが笑っているなら。
今はそれでいい。
たぶん。
きっと。
でも。
兄たちの心配はまだまだ終わりそうになかった。
コメント
1件
ああー、この回めっちゃ沁みた……。こさめが昔のこと、あんなにさらっと話せるようになったんだなって思ったら胸がぎゅってなった。すちの「昔じゃない」って言葉が全部を肯定してて、兄ちゃんたちの見守り方が尊すぎる。最後のなつにべったりで現実逃避するらん兄には草生えたけど(笑)