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コートに入っても、朝の重苦しい空気は消えなかった。
むしろ、ラケットを握った二人の気迫が、周囲の部員たちを遠ざけている。
「……っ、らあ!」
遥の打球音が、いつもより一段と高く響く。
ネットすれすれの弾丸のようなサーブ。それを凌先輩は、無表情に近い涼しげな顔で、確実に打ち返していく。
「遥、力みすぎだよ。そんなんじゃスタミナが切れる」
「……うるせーよ。あんたに教わらなくても分かってる」
ラリーが続くたび、二人の間には言葉以上の何かが積み重なっていく。
私はベンチに座り、震える手でスコアを書き留めていた。二人の緊張感が伝わってきて、ノートを持つ指先が少し汗ばむ。
「……ねえ、紗南ちゃん」
不意に、ドリンクを飲みに戻ってきた凌先輩に名前を呼ばれた。
先輩は汗を拭いながら、私にしか聞こえないような小さな声で囁く。
「……あいつ、僕が君に触れると、あんなに露骨に嫌な顔をするんだね。昨日、二人で何があったの?」
先輩の瞳は笑っているけれど、その奥にある温度の低い視線に、私は息が詰まりそうになった。
なんて答えればいいのか分からず立ち尽くしていると、コートの向こう側から遥のボールが、わざと凌先輩の足元を狙ったような強烈な勢いで飛んできた。
「おい、凌! サボってんじゃねーよ、さっさと戻れ!」
遥が、顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。
それは嫉妬というより、自分の隠したい場所を暴かれそうになっている子供のような、必死な顔だった。