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黒く染まる空の中、俺の数歩前を歩いている背を哀れみの目で見つめていた。
年に一度、こうして夜に車を走らせ海辺へと向かう。
今日もまた、いつもの海へと車を走らせた。
そして車から降り、砂浜をゆっくりと歩く。
「なぁ勇ちゃん、今日も海綺麗やね、」
「そうだな。」
淡々としている会話をかき消すような波の音。
水平線を眺め回想にふける。
すると、勇斗の話し声が遠くの方から聞こえた
離れているのに波よりも鮮明に、弾んでいるような声が。
しばらくして話し声が聞こえなくなったのを感じると俺は勇斗の方へ足を進めた。
「勇ちゃん、」
「…」
「仁ちゃんと何話してたん?」
「ダンスが上手くならないとか…リーダーなのに頼ってばっかでごめんね、とか…」
「そっか…。良かったね、もう日付回っちゃうし、そろそろ車に戻ろうか」
そうして歩いた道を引き返し車に向かった。
吉田仁人が世にいなくなってから、毎年決まった日に勇斗を連れて海に来る。
楽しそうに話している勇斗を見て心が傷んだ。
勇斗の話す先、そこには誰もいないから、
それでも俺は止めたりはしなかった。
勇斗が背負う絶望はきっとこの海よりも深いから。
いつしか勇斗の絶望が海に溶けて消えてくれればいいのにと願っても、その声もまた波に奪われてしまう。
もし勇斗の絶望が海に呑まれ侵食されてしまいそうなら、俺が命にかえても救い出す。
もう1人にはしないよ。
end.