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ー‥‥つ‥ー
ーは、つ‥‥かー
聞き覚えのある声が聞こえる。
ー八華ー
誰?目を開けると、見覚えのある顔が、もう見ることのできないはずの顔があった。
「‥‥‥え?」
ー久しぶりね、八華ー
目の前に座る人物は、十年前に死んだはずの母さんだった。
「何で、」
ー八華に会いに来たのー
母さんの手が、私の頬に触る。
ーこんなに大きくなって、ー
目を細める母さんは、十年前と変わらない。
美しい顔に、綺麗な黒髪、私と同じ色の瞳。
何も、変わっていない。
ー‥‥‥そんな顔しないの。ー
「だって、」
涙が頬をつたう。
ーほんとに、八華は泣き虫だね。おいで。ー
母さんが両手を広げる。私はその胸の中に飛び込んだ。
「母さん、母さん!」
ーなぁに?八華。ー
優しく私の頭を撫でる母さん。
「一緒に連れてって、お願い。私をひとりにしないで‥‥。」
私の言葉に母さんの手が止まる。
ー‥‥‥ごめんね。八華はまだ連れていけないわ。ー
「っ、何で!?」
顔を上げると、困ったような笑みを浮かべる母さんの顔があった。
ーだって、八華には幸せになってほしいんだもの。今まで、復讐のために生きてきたんでしょう?私は八華に、八左ヱ門としてではなく八華とゆう一人の女性として生きてほしいのよ。ー
「‥‥知ってたの?」
ー‥‥‥えぇ、知ってたわ。見てたもの。皆で。ー
「皆?」
ーそうだぞ。ー
母さんの言葉に首を傾げると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「っ!」
振り返ると、
ー大きくなったなぁ、八華。ー
「父さん、」
銀色の髪をなびかせながら、優しく微笑む父さん。
ーやっぱ母さんに似たな~。ー
「一兄さん‥‥」
傷んだ銀色の髪を頭の上で束ね、笑う一左ヱ門兄さん。
ーもう、僕たちと同じ年か、ー
ー身長ももう少しでぬかされそうだな~。ー
「二兄さん、三兄さん、」
綺麗な黒髪を肩にながしている二左ヱ門兄さん、銀色の髪を耳下で束ねた三左ヱ門兄さん。相変わらず二人共顔がそっくりだ
ーはつ、もう立派なおねぇさんね。ー
ーあのはつが年上なんて、ー
ー信じられないわ!ー
「よつ姉さん、いつ姉さん、りつ姉さん、」
母さん譲りの綺麗な髪が腰まである四華姉さん、
ツンツンした物言いをする五華姉さん、
悔しそうに見上げる六華姉さん、
ーなんて顔してんだよ!ほんとにお前は泣き虫だな!もう十四だろ!?しゃきっとしろ!ー
「七兄さん、」
私を指さして叫ぶ七左ヱ門兄さんがいた。
皆十年前と変わらない。
「会いたかった、」
涙が止まらなかった。
そこからは皆で沢山話した。
私が過ごした十年間を話した。
あっという間に時間は過ぎていった。
急にあたりが真っ暗になる。
「え?何?」
よつ姉さんが私を抱きしめる。
ーもっとはつと居たいけど、時間切れのようね。ー
「え?」
ドンッと押され、私は大きな穴へと落ちていった。
「っ!姉さん!」
ーはつを必要としてくれる人がいる。待っててくれる人がいるわ。ー
ー早く行きなさい。次来るときはシワシワのおばあちゃんになってからよ。ー
ー寿命以外で死ぬなんて許さないんだからね!!ー
よつ姉さん、いつ姉さん、りつ姉さんがそう順番に言う。
「兄さんっ!」
ー辛いときは周りを頼れよ!ー
ー大丈夫。はつは一人じゃない。ー
ーあまり抱え込むなよ!ー
ー次来たときは土産話沢山持ってこいよ!ー
上から順に、一兄さん、二兄さん、三兄さん、七兄さんが言う。
ー三郎君に宜しくね。ー
ーいつまでも見守ってるよ。ー
「母さん!父さん!」
どれだけ手をのばしても家族には届かない。
ー八華。ー
−−幸せにになりなさい/なれよ/なれ−−
「っ‥‥‥、うん!」
止まらない涙を拭いながら、私の意識は遠のいた。