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「よっ」
部活からの帰り道。暗い夜道で後ろから聞き覚えのある声がする。
「え、黒尾…?なんでここに?」
「うちの学校創立記念で今日休みなんだよね。明日も部活はねぇから来ちゃった」
「あ、そうなんだ……?」
違和感。飄々としているように見えて物事をしっかり考えてから行動にするタイプのこいつはこんな衝動的なことはしない筈なのに。
東京から宮城。新幹線とはいえそう簡単に来れる距離では無かろうに。
「なぁ、ちょっと来て欲しいとこあんだけどさ。いい?」
妖しく笑いながらそういう黒尾に危機感を覚える。
ダメだ。ついて行っちゃダメだ…。
頭では分かってるのに何故か「いいよ」と勝手に言ってしまう。
__チリン
鈴の音一つ。
黒尾について行くと不思議な鳥居に案内された。見たことない所。
なぜ地元でも無いのに黒尾が知ってるのか、こんなとこに鳥居なんてあっただろうか、思うことは色々あるのにどうにも頭が回らない。
「ほら、おいでよ」
差し出された手を取る。やけに冷たくて、生気を感じなかった。爪、長いな。
手を引かれるようにして鳥居を潜った。
__チリン
鈴の音二つ。
黒尾は鳥居を潜り、石段を登っていく。それに続くように俺も数段遅れて登る。
すると、聞こえていた虫の音や、風の音が無くなった。
聞こえるのは石段を登る黒尾の下駄の音だけ。
__下駄?
黒尾は下駄なんて履いていただろうか?でも確かに聞こえる音も、視界に映る黒尾の足元はそれが下駄だと示している。
さーっと血の気が引いていく。
ダメだ。本格的にまずったぞ。
黒尾より下段に居る俺に見えてるのは黒尾の足元のみ。顔は見れる気がしない。
恐る恐る鳥居の方を振り向く。逃げなきゃ。こいつから。
黒尾じゃない。ナニカから!!!!!
「え…」
振り向いた先には鳥居なんて無かった。広がるのは永遠と続く石段のみ。
こんなに登ってない筈だ。十段も登ってないのに。どうして?
「どうしたの、そんな焦って」
上から聞こえる声にこれ程まで恐怖を抱いたことは無い。
何か言おうとしても上手く言葉が出ず、空気をはくはくとさせるだけ。
カラン、カラン。下駄の音が近づいてくる。
俺の真後ろで音が止む。油を差し忘れた機械のようにぎこち無く振り向き、黒尾と目が合う。
「っ…!?」
ハッと息を呑んだ。
黒尾の頭にはヒクヒクと蠢く黒の耳。服もいつの間にか赤の着物に変わっていた。そして、背後に揺らめく二つの黒い尾っぽ。
鞄を手から離してしまう。ドサッと地に落ちた鞄からは学生証が落ちる。
ソイツはそれを拾い、口を開く。
「菅原孝支。お前の名前か」
「ぇ、」
「ほら、こっちおいで孝支。楽しいことしよっか」
腰に手を回され、距離が埋まる。揺らめく二つの尾っぽが俺の体に巻き付く。
「ぁ、、」
「愛してやるよ、孝支」
__チリン
鈴の音三つ。