コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
6 マロッキーノ
——其の男は無一文であった。
降り続ける雨は手加減を知らず、男を濡らしてゆく。次第に重くなる肢体をベンチに投げ出した刹那、頭上に影が出来、雨が止んだ。
見知った女性が、傘を差し出したのだ。
女性は男を連れ帰り、濡れた服を脱がした。
期待をする男の心とは裏腹に、風邪をひいてはいけないと男は湯浴みをさせられる。
服や下着は洗濯に出されてしまい、仕方無く其の儘の姿で居間に向かう。
其の姿に焦り狼狽する様子が何とも可愛らしく。堪らず、ソファに掛けている女性の前に跪いて其の手を取った。
顔を逸らす女性の顎を掬い、その唇に何度も口付けると次第にそそり勃
「おい!勘違いだ!」
メモを取りながら読み上げると、途中で帝統が制した。
「おやぁ、本当ですかあ?小生、官能小説のオファーも来ているので参考にしたかったのですが」
じっとりと、男こと帝統のことを見ると、同じようにじっとりとした目で乱数が睨んでいた。
「少なくとも5回はしてたよねっ。ボクの陽葵に!」
「ま、まぁ、熱がある所為かもだし……」
陽葵が帝統を庇う。
「当事者は黙っていてください」
少しばかり面白くないなと感じてしまい、言葉尻を強める。
「陽葵は被害者だよ、げんたろー」
今度は乱数が陽葵を庇う。
「……ふうん、そうしたら、俺が同じことをしたら誰が庇ってくれるんだろうな」
面白くないなと呟き、口の端を上げる。
手を伸ばせば、渦中の女性は直ぐ届く所に居る。
甘ったるい匂いが、部屋に充満している。
ピリついた空気をリラックスさせようと思った陽葵が、ジャスミンとイランイランのアロマを焚いたが男性には逆効果だ。自分以外の、慣れていない二人は目がとろんとしている。
「もぉ。ほんっと抜けてるよね」
窓を開け放ち、しょんぼりとする陽葵を抱き竦める。
「狡いぞ、乱数」
「ボク社長だもん」
「職権乱用ですよ」
「喧嘩しないで……」
元はと言えば、油断していた陽葵の所為なのだが、可愛らしい顔に免じて許してやろうと額に口付けた。それを合図に、幻太郎が陽葵の首筋に唇を落として、満足そうに笑っていた。
「狡いぞ幻太郎」
帝統が口を尖らせる。
諸悪の根源なんだけどなあ。でも、たまにはこういうのも面白いよね。
「ほら、陽葵。こっち見て」
後頭部に腕を回して、強引に目を合わせる。
「しゃちょ……」
「ら、む、だ。だよ☆」
「ら……んう」
俺の名前を呼ぶと口が開く。そうしたら、優しく唇を合わせてやればいい。
「おい乱数、俺だってそこまでシてないぞ……」
「やりすぎじゃないですか?」
『ん』と『う』しか言えずにへたりと座り込んだ陽葵を、二人が支えて立たせてやるのを見て楽しいことを思いついてしまった。
「ねえねえ、じゃあさあ——」