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𝐀𝐘𝐀_

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メイ
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第二部
第六章 少しだけ、意識する毎日
千弥に言われた一言。
「ふたり、おたがいのこと、すっごくだいすきなんだね。」
あの日から数日。
千景も遥も、その言葉を口にすることはなかった。
けれど。
心のどこかに、小さく残り続けていた。
朝八時三十分。
社長室。
「おはよう、ちか。」
「おはよう、はる。」
いつもと変わらない朝。
……のはずだった。
「これ、今日の会議資料。」
「あ、ありがとう。」
資料を受け取るとき、二人の指先がほんの少し触れる。
「……。」
「……。」
二人とも、一瞬だけ動きを止めた。
今までも何度もあったこと。
なのに今日は、不思議と意識してしまう。
「ご、ごめん。」
「ううん。」
どちらともなく少し照れたように笑い、それぞれ仕事へ戻った。
(……変だな。)
千景は心の中で首をかしげる。
(今まで気にならなかったのに。)
遥も同じことを考えていた。
(ちーちゃんの一言、影響ありすぎだよ。)
午前十時。
役員会議。
千景はいつものように的確な指示を出していく。
「こちらの案件は来週中に。」
「海外支社との調整もお願いします。」
社員たちは真剣にメモを取る。
会議は順調に進み、予定より早く終わった。
「社長。」
部屋を出た遥が声を掛ける。
「少し休憩しよう。」
「そうだね。」
社長室へ戻る途中。
「ちか。」
「ん?」
「コーヒー淹れてくる。」
「ありがとう。」
「今日は少し疲れてるでしょう?」
千景は少し驚いた。
「分かる?」
「分かるよ。」
「顔色が少し違う。」
「……。」
千景は思わず苦笑した。
「はるには隠せないな。」
「高校の頃から見てるから。」
「そうだった。」
数分後。
遥がコーヒーを持って戻る。
「はい。」
「ありがとう。」
千景は一口飲み、小さく息をついた。
「美味しい。」
「よかった。」
二人は自然と笑い合う。
その様子を、ドアの外から総務部の女性社員が見かけた。
「あ……。」
隣にいた後輩社員が小声で尋ねる。
「どうしました?」
「やっぱり。」
「?」
「最近の社長と遥さん。」
「はい。」
「前よりお互いを見る回数が増えてる。」
「え?」
「なんとなくだけど。」
後輩社員もそっと社長室を覗く。
「本当だ……。」
ちょうどその時。
「熱いから気を付けて。」
「ありがとう。」
そんな何気ないやり取りが聞こえてくる。
「前から仲は良かったですけど。」
「最近は空気が少し違う気がする。」
二人は微笑みながら仕事へ戻っていった。
昼休み。
社長室のソファ。
千景は昼食のお弁当を開いた。
「今日はちゃんと食べてる。」
遥が嬉しそうに言う。
「ちーちゃんに約束したから。」
「『にぃにも朝ご飯食べてね』って?」
「うん。」
千景は笑う。
「守らないと叱られる。」
「それは大変だ。」
二人は声を立てて笑った。
すると千景のスマートフォンが震える。
『にぃに。』
千弥からだった。
『おひる、カレーだったよ。』
写真には笑顔のくぅちゃん。
「ふふ。」
「ちーちゃん?」
「うん。」
「今日も写真送ってくれた。」
「見せて。」
二人は自然と肩を寄せ合い、画面を見る。
その距離の近さに、お互い少しだけ意識してしまう。
(近い……。)
(近いな……。)
それでも、不思議と離れようとは思わなかった。
午後四時半。
受付から連絡が入る。
『社長、ちーちゃんがお見えです。』
「迎えに行こう。」
「うん。」
二人は並んでエレベーターへ向かう。
その途中。
千景がぽつりと呟いた。
「はる。」
「ん?」
「ちーちゃんに言われたこと。」
遥は苦笑する。
「忘れられない?」
「うん。」
「僕も。」
少しだけ沈黙が流れる。
やがて遥が静かに笑った。
「でも。」
「?」
「悪い気はしなかった。」
千景は驚いて遥を見る。
「僕も。」
自然と二人の目が合う。
どちらからともなく笑った、その瞬間――。
「にぃに!」
エレベーターの扉が開き、千弥が元気よく飛び出してきた。
「ちーちゃん。」
「ただいま!」
「おかえり。」
「はるにぃ!」
「おかえり。」
千弥は二人を交互に見つめると、ぱあっと笑顔になる。
「ふたりとも。」
「ん?」
「きょうも、なかよし。」
「……。」
「えへへ。」
その笑顔に、千景も遥も思わず笑ってしまう。
「そうだね。」
「今日も仲良しだ。」
千弥は満足そうに頷き、二人の手を一本ずつ握った。
「かえろ。」
「うん。」
三人は並んで社長室へ向かう。
夕日が長い影を廊下に映し出す。
その影は寄り添うように重なり、一歩ずつ同じ歩幅で進んでいた。
千弥は気付いていなかった。
自分の何気ない一言が、二人の心を少しだけ近づけていたことに。
そして千景と遥もまだ知らなかった。
この小さな変化が、やがて二人の未来を大きく動かしていくことを。
ーーー
第二部 第六章終わり。
第二部 第七章へ続く。