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銀沖(?)です。
でもこれは沖田の片想いで終わります。
それを銀沖と言って良いのかは知りませんけどまあ銀沖です。
――撫でられる手が、好きだった。旦那の手は、存外あったかい。
戦のあと、血まみれのまま笑っている自分の頭に、ぽん、と気まぐれに置かれる手。子ども扱いみてェで癪なのに、振り払えない。あの一瞬だけ、胸の奥がやけに静かになる。
……姉上みてェだ、と思ったのが始まりだったのかもしれない。
面倒見が良くて、どうしようもなく甘くて、でも肝心なところでは遠い。手を伸ばしても、するりと逃げていくあの感じ。
気づけば、旦那の隣にいる時間が当たり前になっていた。
「沖田、お前ほんと無茶すんなよ」
そんなふうに言われるたび、胸の奥が妙にざわつく。けれどそれが何なのか、わからなかった。ただ、土方に向ける旦那の視線が、妙に気になって仕方なかった。
「なぁ沖田、土方のやつさぁ――」
ある日、いつもの調子で始まった惚気話。
「土方、意外と優しいとこあんだよな。こないだもさ――」
へぇ、と相槌を打ちながら、胸の奥がちくりとした。なんだろう、この感じ。苛立ちにも似て、でも違う。煙みたいに喉に引っかかって、飲み込めない。
土方の名前を出すたび、旦那は少しだけ柔らかい顔をする。
それが、どうしようもなく気に入らなかった。
けれど理由がわからない。
だから、ただモヤモヤするだけだった。
――そして、その日。
町中で偶然見かけた。
旦那と土方が、少し離れた路地で立ち止まっていた。土方が何か言って、旦那が笑う。いつもの軽薄な笑みじゃない。どこか照れくさそうな、優しい顔。
その瞬間、胸の奥で何かがはっきりと形を持った。
ああ。
俺ァ、旦那が好きなんだ。
遅すぎる自覚だった。
同時に、ぐつりと煮えたぎるものが込み上げる。
まただ。
近藤さんも、姉上も、俺の大事な人はみんな土方ばっかり見てる。今回もそうだ。
旦那まで。
土方に向けるあの目は、俺には一度も向けられたことがない。
握った拳が白くなる。
でも、足は動かなかった。飛び出して斬りかかる理由なんて、どこにもない。これはただの、俺の我儘だ。
月日は流れた。
特に何かが変わるわけでもなく、けれど少しずつ、確実に変わっていった。二人の距離が、目に見えて近づいていく。
そしてある日。
「沖田」
呼ばれて顔を上げると、旦那は少しだけ気まずそうに頭を掻いた。
「俺と土方、付き合うことになったから」
ああ、とうとうか。
土方は横で腕を組み、ぶっきらぼうに言う。
「万事屋が世話になってる。……まぁ、よろしく頼む」
よろしく、ねェ。
喉の奥がひりつく。
でも、顔はちゃんと笑えた。
「そうですかィ、…」
軽い調子で言ったつもりだった。
二人はそれ以上何も気づかない。旦那はいつも通り、ぽん、と俺の頭を撫でた。
その手は、やっぱりあったかい。
でももう、少しも嬉しくなかった。
二人が去ったあと、ひとりになった屯所の庭で、ぽつりと呟く。
「……、旦那」
風が吹くだけで、返事はない。
自分の恋は、自分で気づいたときにはもう終わっていた。
それでもきっと、これからも俺は旦那を「旦那」と呼ぶのだろう。
手の届かない人に、いつまでも。
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