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#極道
鷹槻れん

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#普通
野々さくら
552
世羅 鈴🎨🎤
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芙月みひろ
743
ーーーーー
「Reply」
世界から色が消える
陽の光さえも届かなくて
嘆きの歌を囁く
届かないはずだった
まるで透明人間みたいに
誰も気づかなくて
1人立ち止まっていた
その瞳に私の姿が
映っていた
希望を見た 陽だまりのような
暖かさが 私を照らしだしてくれた
もしギャラリーが 1人だけでも
それでも 私の人生
演じきってみたいの
鈴のような音が聞こえる
太陽が顔を出すようになった
揺れた心が音を紡ぐ
消えていくはずだった
排水溝に流れてしまえば
何も感じなくて
それで良いと思っていた
けど貴女の温度から
離れられない
夢を見た 来るはずもないような
未来の姿 幸せに笑いあっていた
生まれ変わったら 隣にいたい
おねがい 今度こそ
一緒にいてほしいの
いつかくるその時まで
歌い続ける 伝わるまで
心から貴女に贈りたい
希望を見た 陽だまりのような
暖かさが 私を照らしだしてくれた
もしギャラリーが 1人だけでも
それでも 私の人生
演じきってみたの
こたえを聞かせて
ーーーーー
曲が終わり、俺のスマホが再生を止めた。
3人しかいない律さんの部屋に、静寂が満ちる。
穂高さんは両手で顔を覆って俯いた。
「……ふ、…律みたい…。」
泣いてるような、笑っているような、震える声が両手から漏れる。
「今更…、答えなんて…っ。
聞けなくなってから、聞かないでよ…っ!」
…穂高さんには、どう伝わったのだろうか。
律さんの感情や気持ちを想像して、穂高さんへの気持ちを手紙にするように歌詞にした。
逆に言えば、想像だからこそ、感情を明確にしなかった。
一緒にいた穂高さんの方が、きっと高い解像度で理解してくれるだろうから。
「…フラれてもいいから…。
告白…、すればよかったなぁ…。」
顔を上げた穂高さんは綺麗な泣き顔で微笑んでいた。
それは、好きな人に会った時の女の子の表情で、俺は少しだけドキッとした。
「律への気持ちが、消えない…。
胸に針が刺さってるみたいに、ずっと。
…ずっと…!」
「消さなくて、いいと思う。」
「え……?」
無表情で部屋の隅にいた和織が口を開く。
「好きな人を失って、心が傷を負ったんだよ。
後遺症が残ってもおかしくないでしょ。
それだけ、貴女は彼女が好きだったってことなのに、
…なんで消さなきゃいけないの?」
亡くなった人への想い。
それは時に足枷にもなる。
俺からしたら、穂高さんの傷は足枷ではない。
ただ、愛情という想いに溢れた好遺症だ。
けど、和織は違う。
アイツのは、自分が悪いという自責に囚われた足枷でしかない。
だから、”気持ちを消して、前を向かなきゃ”という穂高さんとは対立する。
「…人と関われば、心は変化します。」
掠れた声で話し始めれば、戸惑っていた穂高さんも、無表情だった和織もこちらを見た。
俺だって、人間だ。
人が亡くなれば悲しいし、悲しいのは嫌だ。
けど、関わった人を、なかったことにはしたくない。
「傷つくこともあれば、潤うこともある。
そんな毎日を繰り返して、築いてきた気持ちは、
貴女が律さんと関わってきた証だから、そのままでいいと思います。
一緒に、前を向けるはずです。」
「…律と…、一緒に…。」
真面目に向き合ったその関係が、枷になるはずがない。
もしかしたら、律さんは「自分の事なんて忘れて」というかもしれない。
でも俺は、自らの意志で律さんの未完成の曲を完成させたいと言った穂高さんの気持ちを、大事にしたい。
それこそが、既に穂高さんから律さんへの返事だと思うから。
「お邪魔しました。」
目を赤く腫らした穂高さんは、律さんの家を出るなり深々とお辞儀した。
律さんの母親は柔らかく微笑んで、穂高さんを見つめた。
「華波ちゃん、ありがとうね。
律が最後まで笑っていれたのも、あなたのおかげだと思うの。
本当に、ありがとう。」
「…私もです。また、律に会いに来てもいいですか?」
「ええ…!もちろん!」
ノートパソコンを返した俺は、もうここに来ることはないだろう。
軽くなったトートバッグを抱えなおして、去り際に一礼した。
律さんの家が見えなくなってから、前を歩いていた穂高さんの足が止まる。
「お二人とも、ありがとうございました。」
急に振り返り、今度は俺たちに頭を下げた。
「律の歌は未完成のままだけど…、手紙はちゃんと、受け取りました。」
「こちらこそ。ご依頼ありがとうございました。」
スムーズに返事を返した和織にならって、慌てて頭を下げる。
曲は未完成のまま。
そうだ、それがいい。
本人がいないのに、完成なんて出来やしない。
俺たちが書いたのは手紙だ。
報酬をもらい、穂高さんとは駅前で別れた。
別れ際に、「歌ってたのはあなたよね?歌、律に似てて、上手だった。」
和織にそう告げた彼女は、優し気に笑っていた。
2人なった帰り道。
俺は先日和織の家に行ったことを思い出していた。
大きな広い家は人気がなく、足を踏み入れた瞬間、冷たい空気を感じる。
案内された和織の部屋も、どこか殺風景だった。
本棚は児童書だらけで、小学生で時が止まっているかのような部屋。
1つだけ、本棚の上に飾られていた本があり、随分読み込んだのか表紙はボロボロだった。
『見習い天使の郵便屋さん』
天使であろう子供が、空から手紙を届ける可愛らしい表紙。
恐らく、お気に入りの本なのだろう。
机の上には新品の教科書とノートが並べられていて、キーホルダーだとかの飾り物は全くない。
まるで寝るためだけに使っているような部屋は、俺の狭い部屋よりもずっと広いはずなのに、
生活感が薄く、寂しさが滲んでいた。
『お父さんなら帰ってくるの夜遅くだから。気にしないで。』
『…いつも、夕飯は1人なのか?』
『ほとんどねー。まぁ、ご飯代はちゃんともらってるし。』
忙しい家なら仕方ないのかもしれない。
父子家庭で、父親は出版社の社長。
会社勤めではない俺には憶測でしかないが、帰れない日だってあるのだろう。
寂しく感じるこの部屋が、和織の心にも思えた。
『……大丈夫か?』
しまった。
言葉をこぼしてから気づく。
どこか危うげな存在に、思わず投げかけた言葉。
今、かけるべき言葉はこれではない気がする。
俺の言葉に少し驚いてから、和織は静かに笑った。
『なにが?』
ほら、大丈夫なわけがない。
凄く自然に、本心を笑顔の奥へ隠された気がした。
大丈夫じゃないやつに限って大丈夫って言う。
だから、「大丈夫?」なんて聞くのは間違いだった。
今のは俺の失言だ。
『…お母さん、どんな人だったんだ?』
ボロボロの本に視線を向けて、無理やり話題を変ええる。
和織は言及することもなく、同じく本を見つめて口を開いた。
『あれ、お母さんが書いたんだ。』
『は!?……あ、そうか…。前に、お母さんが作家だって言ってたな…。』
『うん。もり うたこって児童作家だった。』
そう言って、懐かしむように目を細めた表情は、いつもよりも幼く見えた。
そこから聞けた話は、
幼少期、お母さんと同じ作家を目指していたこと。
本をたくさん読んだけど、文章がうまくならなかったこと。
お父さんからは会社の後継者になれと言われていたこと。
…それが嫌で、父親とはあまり仲が良くないこと。
そうはいっても、一人息子だ。
心配していても、おかしくはない。
時折メールで連絡は取っているようだが、父親の方はどう思っているのだろう。
『見習い天使の郵便屋さん』を読ませてもらった。
あるとき、見習い天使の少年ピースは、天国の入り口に来たばかりで泣いているおばあちゃんと出会う。
おばあちゃんに声をかけると、地上に置いて行ってしまったお爺さんが気になって、先に天国へ行けないのだと言う。
せめて気持ちだけでも伝えたい、そう泣いたおばあちゃんに、ピースは手紙を届けてあげると提案をする。
地上へと向かう途中で、同じような人々に会い、何人かに手紙を頼まれる。
やっと地上へと着いたピースだったが、地上へ来るのは初めて。
見たこともない景色に戸惑いながら、なんとか頑張って頼まれた手紙を渡していく。
見知らぬ世界へと冒険する少年の心温まる話だった。
…どこか既視感を覚える。
亡くなった人からの手紙。
―「…僕、死んだ人からの手紙を書きたいんだ。」
出会ったときに和織が言っていたことだ。
ゾンビレターなんて言い出した時は驚いたが、
もしかして和織は、母の書いたこの本を追体験しようとしているのだろうか。
これが、『ヘヴンズ・レター』の原作。
何故、和織は同じことをしようとしているのだろうか。
最後のページをめくると、空からピースを見下ろす絵。
『まだ世界を知らなかった小さな見習い天使は、
みんなの手紙を届けに行くことで、世界が広がった。
そして、まだまだ広がり続ける。
だって、この世界は、まだまだ知らないことだらけで、
空も海も果てしなく続いているのだから。
ピースは、空になった郵便バッグを大事そうに抱えて、
大人びた顔で空を見上げた。』
思わず涙がこみ上げそうになる。
本の主人公、ピースはこれからもっとたくさんの人と出会うだろう。
たくさん失敗して、たくさん笑って、世界を広げていく。
……なのに。
その姿に憧れたはずの少年は、その続きを、自ら終わらせようとしている。
この本の伝えたいことは、そうじゃないだろう。
口惜しさと虚しさと、自分への無力さを感じて、俺はしばらく本を見つめていた。
コメント
1件
読み終えて、しばらく胸がぎゅっとなりました。特に「消さなくていい」という和織の言葉が刺さって。律さんへの想いを“好遺症”と描く視点がとても優しくて、穂高さんの「告白すればよかった」にも泣けました。未完成の曲がそのまま手紙になったラスト、本当に素敵です。